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ポンコツの神様  作者: クレト
1/4

ポンコツ

神様、お願いです。

もし、少しでも絞り出せるものがあるなら、

今この瞬間、前に進める勇気をください。



ポンコツの神様 その1



「ハルさん、書類チェック終わりましたよ。」

「ありがとうナッちゃん!」

「相変わらず間違いだらけでした。」

「…ごめんなさい。」

「あと、カレンダーの日程間違ってたんで書き直しておきました。」

「…ごめんなさい。」

「…ついでに、服、後ろ前です。」


その言葉を理解するのに1分かかった。


「ひぃやぁぁぁ〜!」


ハルは勢いよく立ち上がった。

服のタグを確認しようとするが見えない位置にあり、

おかしな動きをひたすらしている。


「今日も、ポンコツ具合に磨きがかかってますね、ハルさん。」

「早く言ってよ!ナッちゃん!」

「変な動きしてないでさっさと更衣室行ってきてください。」


その言葉にハッと気づいて更衣室にダッシュする。

一連の騒動はほぼ毎日行われており、

周りの同僚も慣れたものだが、

ダッシュしている彼女からは目を離さない。


なにせ、彼女の愛称は「ポンコツ」

これで終わらない確率が高い。


ゴンッ!!


案の定、痛々しい音が室内を響いた。

やっぱり、というため息があちこちからあふれる。


「あれぇ、もしかして、やっちゃった?」


そろっとドアが開いて、

苦笑しながら男の顔がにゅっと出てくる。


「ハルちゃん、ごめんね?」


あまりの痛さに声も出せず悶絶するハル。

ポンコツ特有の事故だ。

開くドアにタイミングよく何故か額をぶつける。


「アキト社長、ナイス!」

「ナッちゃん、ナイスじゃないから。

 これ普通に傷害事件になっちゃうからさ。」


申し訳無さそうにアキトはハルに手を差し伸べて立ち上がらせる。


「大丈夫?ごめんね、ちょっと気分良くて開けるの勢い良すぎちゃった。」

「だ、大丈夫らす。」

「んー、大丈夫じゃなさそうな語尾になってるよ。」


申し訳無さそうだけど、彼はハルに優しく笑いかけ、

頭をぽんぽんと撫でた。


「だから、子供扱いしないでください!」

「あ〜ごめんね、つい。」

「ついじゃなくて、私もう30代なんですよ!」

「ハルさん、全くもってご自分の言動に説得力ないですよ。」


ナッちゃんの冷静なツッコミに思わず固まり、

対照的に、部屋中は堪えきれない笑いが広がる。


和やかな雰囲気の中、

静かではあるけれど深みのある一声が意識を奪った。


「あの、入ってもよろしいですか?」


どこからともなく聞こえたその声にアキトは慌てた。


「あぁ!!すみません!!どうぞどうぞ!!」


中途半端に開かれていたドアに手をかけたが、

それよりも先に僅かにキィっと音を立て、

ゆっくりと完全に開いた。


コツン、という上品な靴音と共に、

一切の無駄な動きを感じさせない紳士的な雰囲気。

部屋に入ってくるというだけの動作なのに、

何故だか全員が釘付けになる。


ハルはその人物を一瞬理解した。

正確に言えば理解したのに理解出来ない。


「「「えー!?!?!?」」」


一斉に悲鳴にも似たような声があがる。


「も、もしかしてピアニストのトウマさん!?」

「ナッちゃん、正解!」


今度はアキトがナイス!なポーズを返した。


「何でこんなとこにいるんですか!?

 日本では滅多に帰ってこないんじゃ!!」

「よく知ってるね。」

「だって、これ」


表紙にトウマが載っている雑誌を見せた。


「海外でしか仕事してないのに、

 やっとここの雑誌でインタビュー出来たって、

 けっこう話題になりまくりじゃないですか!?」


わいわいと賑やかになる部屋中。

固まったままのハルにアキトは向き直る。


「それでね、ハルちゃん。」


びくりと肩を震わせるハル。

アキトの後ろからトウマが彼女に視線を向けて口を開いた。


「あなたがハルさんで―――」

「あ、ハルちゃん!」


その瞬間にハルはダッシュした。

それは見事な速度でもう一方にあるドアから姿を完全に消した。


「「・・・大変申し訳ありません。」」

「いえ・・・」


ナッちゃんとアキトはトウマに非礼を詫びた。

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