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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

携帯を拾ったんじゃない、渡されただけ。

作者: しおん。

「これ、あなたのですか?」


通りかかった人が知らない人の携帯を私に渡した。


「あ、え、、、違います。。。」


そう言葉をかけたがもうその人はそこにはいなかった。



ダウンを着るようなそんな寒い冬。

私は友達数人と都内のバーに足を運んだ。

バーといっても、誰もが想像するような静かでクラシックが小さい音で流れているような場所でもなく、一人で黄昏るような場所でもない。

アップテンポの洋楽が大音量で流れるような場所。

クラブとはまた違うが、まぁそんなような場所。


いつものメンバーでいつものバーに行き、いつものようにわちゃわちゃと話をしている。

お酒を片手にばかやったり、真面目な話をしたり、恋愛事情を聴いたり、どこにでもいる女の子が話す内容だ。

だがその場は私にとって特別で、学生の頃の友達とはまた別のような感覚。

自分の本当の姿を見せれるというか、はっきり言ってしまえば、恋愛に対して嘘がない場。

誰が誰を好きになろうが皆が応援してくれる。軽蔑など一切ない。

そこでの"普通”はみんなそれぞれ。



あの日は雨が降っていた。

確か、小雨だったと思う。

お酒を飲むと顔は熱くなるのに、身体はいつも寒くなる私は、バーの中でもダウンを着ていた。

多分寒くてフードをかぶっていた時もあるくらい。

きっと周りから見たら陰キャ。根暗。よく言えばクール。

私だったら、声掛けないだろうなというような雰囲気醸し出してると思う。

そんな日に、いつもとちょっと違う時間が流れたのだ。



友達数人で円になって立ちながら話しているといきなり、


「これ、あなたのですか?」


通りかかった人が知らない人の携帯を私に渡した。


「あ、え、、、違います。。。」


そう言葉をかけたがもうその人はそこにはいなかった。

私の手には知らない人の携帯が二つ。

まず、どうして携帯二個?

そして、なぜ消える?

ちょっとよくわからなかったが、このままほっとくことはできないので、一緒にバーに来ていた友達にどうしようと相談している時だった、


プルルルル…プルルルル…


その知らない人の携帯が鳴ったのだ。

慌てながらもきっと持ち主からの電話だ、と思い電話に出る。


「もしもし。あの、、、」


その一言で電話が切れた。

近くに座っていた人が、話し相手が私だと気づいた。

その後私もすぐに電話相手が分かった。


「もしかして、これ、そうですか?」


「あ!あったよ!ほらこれ!!」


一人の女性が携帯を探してる女性にむかってそう言った。


「あ、これそーだ!ありがとうございます!」


持ち主は身長が高い女性。

三十歳前半ぐらいだろうか。

まぁ、なにしろ一件落着。

持ち主が見つかってよかった、そう思いながら友達のところへと戻る。

すると、、、


「あの!お礼に何か奢らせてください!あの携帯、仕事用でなくしたらほんとにやばかったんです。だからお礼に何か奢らせてください。」


「いや、全然何もしてないので大丈夫です!(拾った人私じゃないし・・・)」


「いや、本当に大事なものだったんですよ。だから奢らせてください。本当に!」


「本当に私何もしてなくて、ただ電話に出たというか・・・。でもよかったです!こうしてお姉さんと出会えたわけで、これだけで十分ですよ!」


「お願いします!一杯だけでも!」


きっとこれは奢っていただくまでこのやり取り続くな。

お姉さんの曲げない精神がひしひしと伝わってくる。

学生の時、先輩に二回言ってダメだったら受け入れろとよく叱られたことを思い出した。

あの叱られたことが社会人になってまで活きてくるとは。

だからありがたく奢っていただくことにした。


梅酒ソーダ。

ここのバーはきっとそれほど高いものは使っていないんだろうな、と思うぐらいのお酒。

お酒より場を提供しているみたいなとこある。

けど、人から頂いたものほどおいしいお酒はない。

いつもよりおいしく感じたのも嘘ではない。


お礼を伝えて、その女性は知り合いの場所へと戻っていった。

私も連れの友達たちとたわいもない話が続行される。

意味のない話とかよく分からん馬鹿とか見ているのは嫌いじゃないから居心地は良い。

数分その好きな時間が流れている時、声をかけられた。


「ねーねー、何歳?」


さっきのお姉さんだ。

絶対に年上だと確信していたから、突然のタメぐちにも驚かなかった。


「えっと、二十三です。」


「お!一個違いか。あの子二十二歳なんだよ!」


お姉さんが指さした先には女性が立っていた。

私は眼が良いわけではないので、少し遠くにいたその女性を目を細くしてよーく見た。


(・・・。え、かわいい人。)


眼が良くない私でも綺麗でかわいい感じがしっかり伝わってきた。

その女性もこっちを見てくる。

何を言うでもなく、ただずっと見てくる。

お姉さんが去った後もその女性は、チラ見をするわけでも隠れてみてくるわけでもなく、ただ真っ直ぐに私を見ているのだ。

私は最初の一回で、かわいさを確信したからなのか何故だか恥ずかしくなってきて、友達しか見ていなかったが、すごく真っ直ぐな視線を感じていた。

思わず私は心の声が漏れた。


「あの人、かわいい。」


私は自分でも認めるほど理想が高い。

だから可愛いとかかっこいいとか、あまり口にしない。

けど、私がかわいいと口にしたのが珍しく思ったのか、周りの友達がすごく驚いた。

連絡先きいてみれば?そんなことも言ってきた。

けれど、なんにせよ私は自分からいけるタイプの人間ではない。

話したこともない人に連絡先を聞くなんて、そんな絶対に無理。

だから私の出した答えは、


「大丈夫。」


聞く勇気がなかった。


友達との会話も違うものに変わり、話が進む。

けれど私の頭の中はその女性でいっぱいになっていた。

気になりすぎで、会話もまともに入ってこない。


(どうしよう。このままどちらかがお店を出たら、絶対に後悔する。けど、無理だよ・・・)


その時だった。

背の高いお姉さんとさっきの女性、その二人の友達たちが席を立ってお店を出ようとしている。


(あー。もう!勇気があれば!この際、帰り際話せたら!!)


そんなことを思いながらも、目の前をその女性が過ぎ去った。


(終わった。)


もう諦めよう。そう思ったその時だった。


「ねーねー、良かったら連絡先交換しない?」


お姉さんだ。


「あ、はい!」


気になっていた女性ではなかったが、出逢いは大切にしたい派なので、嬉しく感じた。


その後、お姉さんと女性はお店を出て、帰ってしまった。

私はあの女性が頭から離れることはなく、だけどどこか諦めていた。

なぜ私にあんな真っ直ぐな視線を送っていたのか、お姉さんがなぜその人の年齢を私に教えたのか疑問に思うことばかりだが、きっとこの先これ以上のものはないと思っていたのだ。


数時間後、私も帰る時間になり、そのお店を出た。

友達と駅に向かう時、


プルルルル…プルルルル…


お姉さんからの電話だ。


「あ、もしもし?」


「もしもし!さっき携帯拾ってもらった者です!あの、お店って出ちゃいましたか?」


「お店は出てますけど、まだ近くにいます!」


「あ・・・そっか。」


「どうしたんですか?」


「お店に忘れ物しちゃって。」


「そうなんですね。いいですよ!近くにいるので見に行ってきます!」


その時間まだ小雨が降っていた。

小雨の中走ってお店に戻る。


(あ、あった!)


プルルルル…プルルルル…


「ありました!お店の人に預けとくので、お時間あるときにでも取りに行っていただければと思います!」


一件落着。(本日二回目)

帰りの電車の中、お礼のメッセージが届く。

どこにでもありそうなやり取りを何件かして、次の日。


(メッセージ文)

【今日何していますか?】


【家でゴロゴロしています。】


【そうなんですね。今度、ご飯奢らせてください!】


【昨日お酒を奢ってもらったので、それで十分です!でも普通にご飯一緒に行ってください!】


私のメッセージの相手はあのお姉さん。だけど私の頭にはやはりあの女性がちらついていた。

私は気になる人ができにくいが、気になったらとことん気になる。しつこいぐらいに。


(勇気を振り絞ってあの女性の連絡先聞いてみようかな?でも、連絡先聞いてくださったお姉さんに申し訳ないかな?)


数時間考えた結果、


【あの、よかったらでいいんですけど、この前一緒にいた女性の連絡先教えていただきたいです。】


ここ最近で一番の勇気を振り絞った。

何度文字を打っては消してを繰り返したか。

馬鹿みたいに考えて、誰に相談することもなく一人で。

だってきっと、誰に相談しても返ってくる答えはわかっていたから。


そのメッセージを送ってから、そわそわしてしょうがない。

まだ返事はこない。

数分、数時間、、、次の日。

普段通りに仕事が定時に終わり駅に向かっていると、


ピコン!


お姉さんから返信が返ってきた。

勇気を振り絞ったメッセージを送ったもんだから、見るのが何故か怖くて。

なんか嫌な予感もするし。


【ごめんなさい。あの子、私の彼女なんです。】


、、、ん?

嫌な予感は的中した。

一瞬時が止まった。

、、、え?

嘘だろ?まじかよ、、、。


嫌な予感といってもこんな結末は予想していなかった。

だって。

なんで連絡先聞いた!?

なんで女性を紹介してきたとき彼女なんですけど、って言わなかった!?

よくわからなかった。

わからなすぎで、気になっていた時間が馬鹿みたいで何故だか笑えてくる。


【あ、すみません。彼女って知らなくて…。ならいいんです!大丈夫です!また今度ご飯行きましょ!】


頑張って振り絞った言葉を並べた。


舞い上がっていたあの時間と勇気を出したあの時間。

返してくれ。。。


この感情を一人で抱えきれなくて、思わず友達にも報告してしまった。

だって、二十二歳の子があの三十過ぎぐらいに見えたお姉さんと付き合ってるなんて思わないじゃん。

、、、まぁそっか。

歳なんて関係ないよな。

もうしょうがない。

そう諦めてお姉さんとの連絡も切れた。


もう忘れよう!そう思って次の日も普通に仕事にむかった。

いつもの仕事。いつもと変わらない。

そんな一日が終わって仕事終わりに携帯を開く。


【突然すみません。】


知らない人からメッセージが届いていた。

よく見ると、


【突然すみません。携帯を拾っていただいた人と一緒にいた人です。】


あの女性からだった。


【実はお店に忘れ物したのは私で・・・。あの時、優しそうな人だなと思って仲良くなりたいなって。あと、連絡先聞いて!って頼んだのも私なんです。】


、、、。

もう頭の中がごっちゃごちゃ。

嬉しさも爆発してるし、彼女じゃん!ってのも爆発してる。

何度もメッセージを読み返して、その時の私は、


【ご連絡ありがとうございます。嬉しいです。お二人が付き合ってるの知らなくて、彼女さんに連絡先きいてしまいました。】


、、、嬉しさが勝ってしまったのだ。


彼女いるのに彼女に連絡先聞かせに行ったり、数日前連絡先聞いたとき彼女のお姉さんに断られたり、その時はえ?なんで?そう思う方が大きかった。

でもよくよく後から考えたら、女性はただ私と友達になりたかった。ただそれだけのことだったんだって。

自分の気持ちが先走って、久しぶりに気になる人と出会って、自分の中では恋愛対象でしか見ていなかったんだって。

この時、友達としてこの子を迎え入れてたらどうなっていたんだろう。

自分はこの後楽でいられたのかな?



まだ寒い冬。冬は長く感じる。

冬が嫌いな私にとって、最悪だ。

その嫌いな私の冬にも少し着色をしてくれるようなそんな時間が訪れていた。

あの後、何度かやり取りをして、またこの前会ったバーで会おう、ってことになった。

私は友達とご飯を食べ、一緒にバーに向かった。


ガラガラガラ…


ドアを開けたらそこには女性が座っていた。

もちろん隣には彼女のお姉さんも。

頭を一回下げて、私は友達と時間を過ごしていた。


どうしたらいいかわからなかった。

どう声をかけるべきか。

彼女に連絡先を聞いてしまった私が声をかけてもよいものなのか。

素直に言うと気まずい。恥ずかしい。

そこまで考える必要ないだろ、ってぐらいにいろんなこと考えていると、お姉さんがトイレに行った。


(今だ!)


女性の元に向かった。


「こんにちは!」


「あ!こんにちは!」


会うまでの心情は、もしかしたらあの時かわいいって思ったのも見間違いかもしれないし!あのちょっとぐっと来た感情は間違いだったかもしれないし!話してみたらすっごく気が合わないかもしれないし!

二人が付き合っていると分かった時から、自分の感情を押し殺すようにマイナスのことばかりを思うようにしていた。

けど、現実というものは良くも悪くもうまくいかないものだ。


「私年下なんですから、呼び捨てでいいですよ!りこで!あと敬語もなくしてください!」


「あ、じゃあ私のことも呼び捨てのはるで!敬語もお互いなしで!」


「え、私年下ですよ!!」


「一個も二個もそんな変わらん!」


そんなやり取りに嬉しさを感じていた。


(あの時見間違いじゃなかった。やっぱかわいい。)


お姉さんがトイレから帰ってきてからも、連絡先聞いてしまった事件(と呼んでいるだけ。)があったことも忘れて、三人で普通に楽しく会話をした。


その後、二人の友達が合流して、みんなで違うバーに向かった。

お店を出てから違うお店に向かうまでもすごく話してくれて、人見知りの私でも全然人見知りをしなかった。

けど、2人のカップル事情を聴いてるのが、微笑ましくもあったがどこか心の片隅がモヤモヤしていた。



数日後、次はご飯に行く約束をした。

ご飯に行く約束しかしてないから、相手は一人なのか二人なのかわからんかった。

けど、どこ行こうか何時にしようか、もうそのやり取りすら幸せを感じていた。

感じてはいけないと分かっているのに。


当日。

りこの仕事が遅くなってしまい、先に私は店に行くことに。

お店の予約をしてくれていて、りこの名前を伝えてお店に入った。

そこには椅子が二つ。

なんだかちょっぴりうれしかったりもした。

その時は恋愛的なのか友達的なのか、私にも自分のことが良くわからなかったが、りこのことをよく知りたい!それは本心だった。

二人だったらもっとお話できるし、密かに二人を願っていたから尚更。


遅れてきたりこは、今日もかわいかった。

料理を前に、沢山の話ができた。

もちろん彼女の話も沢山した。

その時は、ちゃんと友達として話も聞けていたと思う。

でも、


(私ならそんなことしないのに。私の方が幸せにしてあげられるだろうな)


そう思ったのも、嘘じゃない。

お姉さんがりこに対する束縛がひどかったのだ。

行く場所・遊ぶ人・何をするかなど、結構細かい束縛があった。

今回私とご飯に行くのも一応伝えたみたいだが、それについて喧嘩したらしい。


りこは、性格がはっきりしていて白黒はっきりしたい人間。

見た目の印象はクール&ビューティーって感じなのに、話すとめちゃくちゃ喋ってくれる。

相手のことをよく知ろうとしてくれる。


こんなに魅力的な良い人なのに、友達が少ないんだ、と私に話す。

お姉さんの束縛で連絡先も交換できないし、それ以前にお姉さんの知り合い以外で誰かと話すことすら難しいらしい。

なのに、りこはこう言う。


「私が間違ってるのかな?これって普通のことなのかな?」


もう心が痛かった。

うまい言葉が見つからなかったけど、これだけははっきりと伝えた。


「りこは間違ってない。普通じゃないよ。」


助けてあげたい、という思いよりもこの人に幸せでいてほしいという思いが強かったかもしれない。

お姉さんが悪い人でないことは私もわかっているから。

お姉さんを悪者にはしたくなかった。

それに、りこがそれでもお姉さんと付き合っているのは、お姉さんといる時間を幸せに感じているからだと思う。

その場でのうまい返しができなかったのは、今も後悔してる。



ご飯を食べ終わり、出会ったバーに行くことにした。

そのバーに向かう時、その町のことや昔バイトしていたところなど教えてくれた。

いつもは私が通らないところを通って、歩きながらお話をして。

幸せを噛み締めていた。こうして一緒に歩けていることが嬉しかった。


その日、平日でお互いが仕事終わりだったこともあって時間はすぐに過ぎていった。

私の終電はりこよりも一時間ほど、早かった。

でもこの時間楽しくて、終電があると分かっていながら終電を言わなかった。

私はどこでも時間をつぶせるので、りこの終電に時間を合わせよう。そしてどこかで時間をつぶして、始発がきたら帰ろう。そんな考えだった。

だから見事に終電を逃した。


「ねー、終電何時?」


「え、うん。もうないよ。笑」


「え!何で!言ってよ!!」


言うわけないじゃん。楽しい時間を終電のせいでなくすなんて。


「りこは?」


「もうすぐかな?でも、はる終電ないんでしょ?」


「自分は大丈夫だから。どこでも朝迎えられる!」


「一緒にオールしようか?」


「いいよ!大丈夫!終電あるんだから帰りな!」


自分の気持ちより相手のことを考えたら、そう答えるのは当たり前だ。

とりあえず、りこの終電に間に合うように二人で駅に向かった。

その向かう途中、りこが言い出した。


「わかんない。」


「ん?何が?」


「本当に帰ってほしいのか、そうじゃないのか。」


「え。終電があるなら帰りな。」


「そうじゃなくて。私はオールしてもいいんだよ?だから帰ってほしいのか帰ってほしくないのか。」


そりゃ一緒に居てほしいに決まってんじゃん。

でもそんなことすら言えず。

ひたすら終電があるんだから帰った方が良いと、言い続けた。

これはりこを思って。

でもこれはりこが嫌いなこと。

はっきりしていないこと。

だからそんな私にキレてるわけではなく、頭を抱えていたといった方が良いかもしてない。そんな感じだった。


駅に着いた。

改札の前。私に最後に聞いてきた。


「本当はどっち?」


自分の本当の気持ちと相手の思う気持ちが葛藤した。

とてもとても葛藤した。

でもやっぱり自分の気持ちには嘘を付けなかった。


「じゃあ、どっか行こ?」


今思うと、カップルかよ!ってな。

なんか嬉しいようなさみしいような。

りこに相手がいなければな…絶対に好きになってた。


近くのファミレスで朝まで時間つぶした。

初めてあった時のことも話してくれて、モヤモヤしてたことも解決した。

でも、さらにモヤモヤしたことも追加された。これは、私がりこをただの友達として見ていたら現れなかった感情だと思う。

だからこれは自分のせいなんだ。


始発まで時間は結構あったけど、私の中ではあっという間だった。

ずっと二人で話して、久しぶりの感情に大きな幸せに包まれていた。

帰りの電車もわざと長い時間を一緒に過ごすために、同じ方向から帰った。

バイバイ。

その言葉も言えることが嬉しい。

また会えるかもしれない、という期待。

この時は何も考えず、ただただ自分の感情に素直にいた。



一週間もしないぐらいの時、次は私が映画に誘った。

自分でいうのも変だけど、自分から誰かを誘うのは相当珍しい。

今度遊ぼうね、とは言うけど、この日空いてる?ってちゃんと実行されやすいような環境をつくるのは、まず珍しい。

だけど、相当会いたかったのだと。


仕事帰り待ち合わせして、映画の前にご飯を食べることに。

優柔不断の私は、この日もはっきりしない。

ご飯屋さん一つ決められないのだ。

情けないぐらいに一つ下のりこに頼って、ご飯屋さんを決めてもらう。

わかってる。自分でもわかってる。

ここを無くさない限り自分は誰とも良い出会いがないってことも、りこが私を良く思わなくなるのも。

でも無理なんだ。

決定打をうてない。これは昔から。

特に私は自分がこれがいい!というものがない。ご飯も嫌なものは嫌といえるけど、一番を選べと言われても困る。

それに重ねて、相手のことも考えすぎてしまう。

私がこれを選んだことによって、相手にとって良い時間にならなかったらどうしようって。

ただの考えすぎの馬鹿なのだ。

結局りこが選んだグラタン屋さんに入り、食事をする。


ご飯を食べながらお互いの恋愛事情に話はなる。

りこの彼女とのこと。

色々あったらしい。様子を見るとかこれからのことはまた決めるとか、色々言ってたけど、

どれも私の心を左右に揺さぶるものばかり。

そして私についても聞いてくる。

理想のタイプや、これまでのこと。

嘘偽りなく全て話す。

けど、一つだけ嘘をついたことがある。


「はるは今良い人いないの?」


「うーん。いないかな?理想高いからさ!」


(あなたです。)


私を友達としかみてないりこにとっては絶対に気づかない私の気持ち。

実際、私だってちゃんと好きなのかわからない。

人の幸せを奪ってまで自分が幸せになろうと思わない、そう思っていたから、相手がいる人を好きになるなんて私には絶対ありえないことだった。

自分の気持ちにもはっきりしない自分が本当に嫌になる。

でも大切に思っていることも他の友達とはまた違う感情を持っていることも、気になってしょうがないことも、それには嘘はない。

ただ自分の気持ちがぶつかり合っててはっきりしていないのも確か。

だからだよな。


「今度オフ会一緒にいこうよ!それではるの相手探そう!」


とか言われちゃうの。

あれ言われるとなんて返したらよいかわからなくて、そうだね、しか出てこない。

この人、本当に気づいてないんだなって。


なんだかんだこの後の映画も楽しく過ごせて、やっぱり自分にとって特別な人だなと感じた。



連絡はこの後も何度かちょくちょくはしてた。

"連絡”

この物語ではこの言葉が私の心を動かすすごく重要なキーになっていた。


連絡は人それぞれに頻度や仕方が違う。

絵文字付ける人もいれば真っ黒な分の人もいる。

すごく頻繁に返事をしてくれる人もいれば、すごく遅い人もいる。

私は"らしさ”を大切にしたい。もちろん自分の自分らしさも大切にしているが、相手にもその人らしくいてほしいという気持ちがある。

だから、連絡もその人らしくしてくれたらいいし、頻度も相手に合わせられる。

・・・そう思ってた。

りこは両方後者の人間だった。

ほとんど黒い文字。たまに来る絵文字は私をキュンとさせていたので、それは特にマイナスには思っていない。

だけど、連絡の頻度が相当驚くくらい遅かった。

しかも、既読してからほっとかれるのだ。

最初は戸惑った。

私も友達との連絡で、返信することが無理な時や、今は面倒くさいなって思う時は、既読を付けないで読んで、後で返信をする。

これはごく一般的なことだと思う。

だがりこの場合は、既読して数時間後に返信が来る。

不思議だ。

そして、読まれてるのに返信が返ってこないと変な気分になる。

あれ、既読スルー?って思って忘れたぐらいに返ってくる。

一番困るのは、遊ぶ約束をするとき。

返信が、数時間後もしくは数日後なので、遊びの約束が全然進まない。

りこの本当の気持ちがわからないので、本当は遊びたくないんではないかとも考えるが、遊びたいねとは言ってくる。

うん、よくわからない。


まぁ連絡大事だけど、それがすべてではないから。

そう言い聞かせると、マイナスが見つからない。

本当はこの連絡について、もっと気持ちをぶつけてりこから離れるのが一番良いと思う。

けど、それができない私は、りこにどんどん惹かれていく。


ある日、突然自分に素直になれる日があった。

別に良いことがあったわけでもなく、特に幸せを感じていたわけでもなく。

そこで思ったんだ、好きって。

好きになったら、それを相手に伝えたくてしょうがなくて。

この気持ちをりこに伝えるかすごく迷っていた。

でも一番気にしたのは、"友達”ということ。

りこが私と友達になりたくて、連絡先聞いてくれて遊びにも行ってくれて。

りこの友達事情とか聞いてた分、そこが引っかかっていた。

私が、りこに対して友達以外の感情を持ってしまったら、そこには友達という関係を築きにくくしてしまう。

せっかくできた友達なのに、って思わせたくない。

しかもりこには彼女がいる。

すごく悩んでいた。

好きなことには変わりないし、今は気持ちに嘘をつきたくない。

でもりこのこと考えると伝えてはいけないんじゃないかと。

しかも、振られることはわかっている。

友達としか思ってない人に好きといわれても、返事はNO。

こんな私でも、告白されたことはあるからわかる。

告白する方は、当たり前だがすごく勇気がいること。

だけど、それをわかっているから断る方も勇気がいる。

申し訳なくなる気持ちも混在するし。

だから、そんな気持ちにもさせたくなかった。

考えた。一人で考えた。

思いを伝えるとしたら、初めての告白になるので、それもすごくすごく考えた。


【素直になってもいい?】


私が出した答えは、



【好き。】



実際、もっと沢山の言葉を並べた。

だけど、答えは求めなかった。

自己満になってしまうけど、伝わればそれでいい。

これからも友達でいてほしいと。

客観的に観たらきっと情けない告白の仕方だと思う。

りこからしてみても。

でもこれが今の私にとってできる最大限の気持ちの伝え方だった。


結果を求めてないので、そのあとはどうもこうもならなかった。

あの時、答えを聞いていたら今どうなっていたんだろう?と今でも思う。

もしかしたら気持ち動いてくれてたかな?とか、きっぱり振られた方が新しい気持ちになれたのかな?とか。

後悔してるか聞かれて首を横に振ったらそれは嘘になる。

けど、縦に振っても嘘になる。

曖昧な気持ち。

これっぽっちも後悔のないことなんて、この世にはない。

でも伝えてよかった。



その後。

やっぱりどちらかが一回恋愛感情を抱くと、前には戻れないみたい。

たまに連絡は取るけど、そう続かない。

また遊びたいねとはお互い言うけど、色んなことが重なってて計画もうまくいかない。

もちろん恋愛事情については全く話さなくなったので、りこがまだお姉さんと付き合っているのかも、違う人と付き合っているのかも、フリーなのかもわからない。

連絡についても、相変わらず遅いので、少しイラっと来てしまうこともある。

この怒りにのって、忘れようとした時もあった。

だけど、やっぱり私の好きだった気持ちは本当だったんだな、って気づいてまた連絡してしまう。

今もまだ気になる。

幸せでいれてるかな?とかいろいろ考えてしまう。

だけど、私は本当の気持ちに気づいた。

本当に誰かのことを思うと、自分とその人がどうなりたいかって思う気持ちもあるけど、それがすべてでなくて、相手が幸せでいてほしいと思うようになる。


だからね、今もりこは私にとって特別な存在で、大切な人。

出逢えてよかったって思う。

どうか幸せであってくれーーーーーーーー!!!



これが私が初めて同性に恋をした話。



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