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「あっ、あの人だれ? かっこいい」

 姉の由美の高校の文化祭の真っ最中だった。その人は一生懸命何かと格闘していた。その何かは主人公の舞美には見えないのだが、それもそのはず、


「うん?あのパントマイムしてる子?」

「そう、あの人。あの人の名前知ってる?」

「あの子の名前は水際陽だけど、気に入ったの? 読んであげようか。舞美」

「えっ、由美姉ちゃん、本当! でも、パントマイムの邪魔したら悪いし。」

「まあとにかく、前に行ってみる? パントマイムにはお客さんがいなきゃね、ほら」

「うん、行く」


 水際陽は何かとの格闘は終わったのか、今度はぺたぺたと壁をさわっているらしい。壁を叩いて何かを調べようとしているみたいだ。あきらめたのか壁を調べるのをやめて、なにやらリュックの中をかき回している。目当てのものが見つかったらしい。ぱあっと表情が輝く。

 なんと取り出したものは、ドアのノブであった。ドアのノブを壁に装着し押してみる。びくともしない。それを繰り返すこと3回。今度は手前に引く。またもやびくともしない。開かず。困り果てる。

 押しても手前に引いても開かないとなれば、これは横に引くしかない。横に引いてみる。動いた。

嫌な音がするのか、しかめ面をしながら横に引く。人一人通れるぐらい開いたのか、ノブを壁から外してリュックにしまい込む。やっと外に出られたようだ。


 被っていた帽子を外し、観客たちにおじぎをする。そのパントマイムに拍手が送られた。水際陽は知った顔、つまりクラスメートの由美。舞美の姉を見つけて近くに来た。


「水際陽、なかなかパントマイムは面白かったよ」

「やあ、津田由美、見てくれてたんだ。

 楽しんでいただけたら光栄でございます。由美姫。

ところで今日のご注文は何になさいますか?ここにおります男どもは、

由美姫の微笑みのためとあらば何でもしたいと申し上げておりますが、わたくし黒曜石もその一人でございます。」

 「ならば、妾に似合う春の宴に着ていく服がほしい。春らしいものを頼むぞ。服飾品もそなたに任す。」

 舞美はきょとんとした。しかし思い出す。姉のクラスは確か劇であった。水際陽は舞美に気付いた。


「あらら、可愛い子。津田由美の妹?」

「はい、津田舞美です。姉がいつもお世話になっております。」

「なに、かしこまっているのよ。ところで黒曜石。先ほどの言葉はまことか」

「まことでございます。由美姫」

「ならば、妹の子守りを頼む、じゃあ!」


 由美は舞美にウインクして、さっさと行ってしまった。子守りというのは気に入らないが。ちょっとうれしい。姉のクラスの劇は午後にある。今は十一時過ぎだ。


「あっ、津田! しょうがないなあ。劇のセリフだと思ってノっかっちゃった。まあ、いっか。

可愛い子だし。舞美ちゃんだっけ。とにかく案内するよ」


 舞美は可愛い子というのに気を良くした。

「ありがとう。水際陽さん」

「この姉妹はフルネームで呼ぶのが好きなのか」

「ちがうけど、由美姉ちゃんがそう呼んでるから、フルネームで呼ばれるのが好きなのかなって思って」

「津田はたいていニックネームかフルネームでしか呼ばないよ。舞美ちゃんは陽って、読んでよ」

「うん、陽さん」

「じゃあ、エスコートしましょう。舞美嬢」

 

 水際陽という人はちょっと芝居がかった言葉遣いや仕草をする。舞美は見た目がかっこいくて、行動の一つ一つが面白い陽をクラスの劇の準備するまでの時間を独占できるのを楽しんだ。

 


 開演を知らせるベルが鳴る。題名は「秋でも桜姫・由美姫のために紅い宝玉を」というらしい。由美姉ちゃん、目立つの好きだよねー、と思いつつ。


 陽とその横にはずらりと様々な仕事をする男たち役をする男子高校生たちが並んでいる。

「由美姫。今日のご注文は何になさいますか。ここにおります男どもは、

由美姫の微笑みのためとあらば何でもしたいと申し上げておりますが、わたくし黒曜石もその一人でございます。」

 「ならば、妾に似合う春の宴に着ていく服がほしい。春らしいものを頼むぞ。服飾品もそなたに任す。」

 

 陽の役名は黒曜石というらしい。陽は若草色の布を取り出して手慣れたように服を縫っていく。運針しているように見えるのは得意のパントマイムだろう。隣の男は由美姫のために宝石を磨く。由美姫が舞台から姿を消すと、男たちは朗唱する。


『あの人の瞳は輝く星

 漆黒の髪は夜の空

 唇は赤く肌は白い

 細い指の先には桜貝の爪

 世にも美しい人

 あの人がいるならば

 はかないこともこの世の夢もおわりはない』


 場面は変わって、

 黒曜石が由美姫の髪をとかしている手を止めて、

「めずらしいことを聞きました。坂月の骨董屋が紅い宝石を手に入れたようです」

「坂月の骨董屋は宝石・真珠専門であろう。いつものことではないか」

「それがいつものことではないのです。坂月の骨董屋が言うには、どの宝石よりも紅く、今まで扱った宝石の中でもたいそう大きいそうです。それを由美姫に差し上げたいと申しております」

 また、黒曜石は由美姫の髪をとかし始めた。櫛はないのにとかしいるように見えるのはパントマイムですね。

 「ところで黒曜石、さきほどの言葉はまことか」

 「まことでございます。由美姫」

 「ならば、白に参るように告げよ」

 「かしこまりました」



 幕が下りた時はすでに舞美はここを受けて陽と同じ高校に行きたいと思い始めていた。

 「陽さん、とても楽しかったです。あたしここ受けて、ここに通います」

 「うれしいねえ、そう言ってもらえると。うん、がんばって合格しなさい。4月を楽しみに待ってるよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、次まわろうか?」

「はい」

 舞美は陽に、その日の文化祭の終了時まで一緒に案内してもらい見て回った。舞美はこの高校を受験することに決めた。陽がこの高校にいることが大きな一因がったが、文化祭に活気があったのもまた一つの要因である。





 



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