ゆりすいのエイプリルフール
「ゆり、おはよ。」
いつもの学校のいつもの風景。廊下でゆりを見つけて、いつものように声をかける。なんだろう、彼女はいつもかっこいいけど、今日は一段とクールに見える。
「ああ、すい。」
その声に気づいたようで、ゆりはこっちを見る。だけどその声と顔からは、いつもの元気さが感じられない。急に不安になる。どうにかいつもみたいに話そうと、続く言葉を紡ぎだす。大丈夫。たまにはこんな日もあるだろう。こちらが明るく振舞えば、むこうもいつもみたいに話してくれるはず。
「どうしたの?今日はちょっと元気ないね。もしかして私に会えなくて一晩寂しかった?まったく……」
「あのさ」
話をさえぎって聞こえた声は、普段からは考えられないとても冷たい声。
「いつも思ってたんだけど、毎朝声かけるのやめてくれない?いちいち反応するのも面倒だし、別にすいのことそんなに好きじゃないから。」
そう言ってゆりは自分の教室に帰って行く。その背中を見送ることしかできない。目の前が真っ暗になる感覚、足が震えて息が上手くできない。よく考えたら当然だ。ゆりは教室にもたくさん友達がいて、毎日一人を相手にするのも疲れるだろう。そもそも住む世界が違ったんだ。今までだって無理をさせてたはずだ。
泣きそうになるのをどうにかこらえて教室に戻ろうとすると、誰かにぶつかった。顔を上げると百合が目の前に立っていた。
「何してんの。もう声はかけないから……」
「そっちこそ何本気にしてんの?今日が何日か思い出してみ?」
言われて、しばらく考えて、思い当たる。今日は4月の最初の日。
「私がすいのこと嫌いになるはずないじゃん。本気にしないでよ。ずっと一緒にいるから。」
そう言いながらゆりは優しく私の頭を抱きしめてくれる。しばらくは、この安心感に浸っていよう。それくらいは許されるだろう。
非常事態宣言が出ていて大変な時期ですが、何はともあれゆりすいはてえてえ。少しでも暇つぶしになれば幸いです。