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 その日は、朝から慌ただしかった。

 平和ぼけした日本から来た俺にでも分かる、嫌な気配がした。

 城の周り、少し遠いけど、人の気配が…っていうか、あちらこちらからしてくる。

「ああ。これは囲まれてしまっているなぁ」

 魔王は、笑いながら言ってる。

 夜中のうちに、国の軍隊が移動してきたようだった。

 俺がのんきに寝ているうちに。

「わるい。俺が……」

「ユーマのせいでは無いのだ。我も気付かなかったのだから、お互い様なのだ」

 魔王は、ふよふよ俺の肩の高さで浮いて、俺の周りをくるんとまわる。

「気にすることはないのだ。…な」

 俺をなぐさめるように言う。

 いや、俺、自宅警備で雇われてるのに、仕事できてなくないか?

「おお。魔術師って…まだ、いたのか。まぁ、我がいるくらいだから、いないわけ無いか」

 魔王は、わざとテンション高く言ってるように見える。

「大丈夫…なのか?」

 俺は、魔王が無理に元気よくしてる気がして訊いた。

「兵士はね。飾りだなのだ、我にとっては…。ごちそうさまって感じ?

 何度か、精気抜いて遺体にして送り返したから、業を煮やしたのだ、むこうも」

 人間は、エサ…か。

「そっか、大丈夫ならいいんだ。

 で、俺はどこにいれば良い?」

「我の側が、一番安全なのだ」

 胸を張って魔王が言う。前もそんなことがあったな。出会った日か。

「心配するなユーマ。そなたを守るくらい、我には動作無いぞ」

 ……情けないんですけど。幼女にしか見えない、魔王に守られるなんて。


 ドゴーン。

 地響きとともに大きな音がした。大砲を撃ち込まれている。

 でも、まだ一応結界が、阻んでいるようだ。

 波動でなんか城の壁からパラパラと破片が落ちているけど。

 結界より先に波動で城が壊れそうな勢いだ。

 天井にいたコウモリもパニックになって飛び回っているし…。

 魔王は、ずっと俺の腕をもって、意識を遠くに飛ばしているようだった。

 まっすぐ見ているのに、どこか焦点が合わないような。

「まずい…のだ」

「え?」

「結界が破られそうなのだ。

 最近、こっちの世界の人間の精気しか吸えなかったから……魔力が」

 魔王が、俺の方をジッと見る。

 ああ……そうか。俺も…エサ…だよな、魔王の。

 俺は、ちゃんと笑えてるだろうか。軽いノリで…言えるだろうか。

「いいぜ。俺の精気吸えば?」

 一瞬、魔王はビックリした顔をした。

 そして、切なそうに優しく笑う。

 次の瞬間、この前のようにザーッと風が吹いたかと思うと…。

 自宅の…俺の世界の部屋にいた。

 え?

「な…んだよ。これ……」

 俺は、両腕両膝付いた状態で…立てないでいた。

 うそだろ?なんで…。

 エサだったんだろ?俺は…。

 異世界人の精気の方が多分、魔力が多くとれて。

 だから召喚されたんじゃなかったのか。

 あんな中に魔王、一人で置いてきて。俺は…。


 エサでいい。

 エサでいいから、あの世界に戻してくれ。

 魔王の元に……。


 いつかの、あの紫のオーラが身体を包み込む…暖かい。

 意識が…一瞬、途切れた。

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