最初と最後の記憶
よくある死からのプロローグ
味気ないネズミ色をしたアスファルトの壁一面が、自身の濃くも不健康な血液と音で瞬時に黒へと染められる。飛び散る液体と臓腑、それらでデコレートされる壁。一連を視界の端で捉えながら、想像ではもっと綺麗に染まるはずだったと理想をぶち壊されたことによるショックを受けていた。
その時には頭はもう地面に接していて、骨や筋肉に支えられることもなくなった自身の元一部達が次々と辺りに盛り付けられていく。目の前に一際大きく飛沫をあげて落ちてきた、同じく一際大きく赤黒い自身の何処かの何かを眺めながら、これが原石なら磨けば良い価値になるな、とふと思った。
次第に視界が揺れ始め、焦点が定まらなくなり、やがては暗くなり、そして遂には何も見えなくなる。ひょっとすると吐き気を催していたのかもしれないが、その時点で最早嘔吐できるだけの器官も臓器も機能していなかったのでよく分からない。
ああ、私は死ぬんだなという何処か俯瞰的な、それでいて微睡みに近い酷くぼんやりとした思考が頭の大部分を占め始める。人生最後の瞬間に、最高で最悪な、それでいて誰でも味わえるものではない素晴らしい出会い。その存在と邂逅に巡り合うことができたことによる心の底からの感動と感激で、私は笑顔のまま、その意識を手放した。
それがここに来る前の、覚えている限りの最後の記憶。