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01.憧れの引っ越し

 むかしむかし、ある村に女の子とそのお母さんが住んでいました。

 女の子はいつも赤いずきんをかぶっていたので村の人たちから赤ずきんちゃんと呼ばれ、大変かわいがられておりました。

 しかし、そんな赤ずきんちゃんにも、声高には言えない望みがありました。

 森の向こうに住んでいる、おばあさんの遺産がほしくてほしくてたまらないのです。

 おばあさんは病気で伏せがちでしたが、小さな家はいつもきれいで、赤ずきんちゃんが訪ねていけば、おいしいお菓子をたくさんごちそうしてくれるのです。お金持ちに違いありません。

「お金があれば、お腹いっぱい食べられるし、今みたいに小さな家でがまんしなくたっていい。きれいな服やかわいい靴だって……」

 赤ずきんちゃんの夢は広がります。

 彼女はかしこい子でしたから、おばあさんの前では常に『かわいい孫』でいるよう努めていました。

 でも、おばあさんはなかなか死んでくれません。しびれを切らした赤ずきんちゃんは、ついに決意しました。

 おばあさんを殺してしまおう、と。

 ある朝、いつものようにお見舞いを頼まれた赤ずきんちゃんは、バスケットの中に、森の道中で拾った狼の頭蓋骨を入れました。お見舞いの品である毒入りケーキとワインは、残った隙間に苦労して詰め込みます。

 森には『狼が出る』という噂があるので、赤ずきんちゃんはいつも注意していました。頭蓋骨を拾ったのもお守り代わりにならないかな、と思ったからです。ですが、今の彼女が期待しているのはそんな気休めではありません。

 狼の噂がある森で、咬まれた老女の遺体が見つかったところで、毒殺を疑う人物がいるでしょうか?

「これで、遺産はお母さんと私のもの」

 赤ずきんちゃんはほくそ笑むと、最後のお見舞いに向かいました。


 おばあさんの家に着いてからは、こわいくらいに事がうまく運びました。何の疑いもなくワインを飲んだおばあさんは、喉をかきむしって息絶えたのです。赤ずきんちゃんは狼の骨を使って喉を食いちぎられたように偽装し、部屋の中を狼が暴れ回ったようにメチャクチャにしました。自分の体にも派手に血が出るような咬傷をこしらえ、毒入りの食べ物と骨を処分してから家の外に。

 森には定期的に猟師が巡回するコースがあります。お見舞いでよく森を通過する赤ずきんちゃんは、この猟師とも顔見知りでした。

 泣きながら足を引きずって助けを求める赤ずきんちゃんに、猟師は慌てて応急手当をし、村に知らせに走りました。

 老婆と少女が狼に襲われたという話は瞬く間に広まり、大規模な狩り出しが行われましたが、狼の影も形も見つからず。人々は失意の面持ちで、おばあさんの葬儀に参列しました。そして、いたく傷ついているであろう赤ずきんちゃんとお母さんの心情をおもんぱかり、誰もがこの『不幸な事故』について口を閉ざしたのです。

 これ以上はないというくらい、赤ずきんちゃんの思い通りの結果でした。

 ところが、事態は思わぬ所からほころび始めます。お母さんが『不幸な事故』を不審がって調べ始めたのです。目撃者であるところの赤ずきんちゃんも色々質問され、いつ真相を知られるかと気が気ではありません。仕方なく、お母さんにもあの世に行ってもらうことにしました。

 おばあさんを偲ぶという口実でお母さんを森の家に連れ出し、毒入りのケーキを食べさせて殺します。その後は、用意しておいた遺書をそばに置いて、偽装工作はお終いです。

 お母さんが『不幸な事故』を嘆き悲しんでいたのは周知の事実でしたから、誰も自殺を疑うことはありませんでした。

 こうして、赤ずきんちゃんは莫大な遺産を手に入れたのです。

 そうと決まればもうこんな田舎に用は無いと、遺産の売却と引っ越しの準備を始める彼女の元へ、猟師が訪ねてきました。

「赤ずきんちゃん、おばあさんとお母さんを殺したのは君だね?」

 絶句する赤ずきんちゃんに、猟師は一通の封書を手渡します。

「僕は猟師じゃなくて、本職は探偵なんだ。お母さんの依頼で調査をしていたんだよ。君の潔白を証明して欲しいってね」

 文面には猟師――探偵に対する感謝の言葉と『娘に自首を勧めます』とあります。

「君のお母さんは苦しんでいたよ。娘を疑わなければならないことに」

 こうして、赤ずきんちゃんの犯行は白日のもとにさらされ、彼女は引っこす事になりました。

 高い塀の内側、牢獄の中に。

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