4話 闇さえ希望の光だった。
日差しだけはすこし温くなってきた、2月中旬。
机のにおいとかそんな、小さなものを感じつつもぼーっと「どこか」に意識を集めた。
ぼーっとしながらこんなこと考えてるのは、ちょっと器用げ。
頬杖ついて、黒板の「どこか」に焦点を合わさないまま、なにかを考えた。
でも器用じゃないから、ただの「ぼーっと」です。
ぁぁ、・・・そうだなぁ。
うーんと、・・・そうだなぁ。
・・・、この感じは、早く野球が見たいって感じかな、多分。
きっと井上くんもそう思ってんだろうよ、あの人野球ばかだから。
「おぉい、起きてんの?」
そういえば、今日は青嗣くんまだ来てない。
珍しいなぁあのひとがわたしより遅いの。
・・・へへへ、今日は勝ったね!
気分良くして天井に顔を向けた、
その時だ。
「おーい、千尋さーん?」
顔があった。
色が黒くて、おっきい目で、髪ハネてて、
まぁ、隣のあの人だった。
がっちん! ・・・頬杖が綺麗にすっぽ抜け、アゴを激しく強打で泣きそうになった。
涙はかろうじてまつ毛の手前。
「ひゃっ!?・・・ビビるじゃんよぉ、青嗣くん。」
「オレ声かけてんだけどなぁ。千尋ちゃん聞いてねぇ。」
上から覗くような彼の顔は、かなり近くて、まつ毛や瞳の色すら伺えた。
「近い」のは、この人のクセだけど。
結局、一生慣れることは無いだろな。
青嗣くんといるのは、楽しい。
けどわたしは青嗣くんみたいな人は激しく苦手だ。
男子よりも、なんというか、
お母さん、みたいだ。
手放しに優しくされるのは、沁みる。
沁みて、すこし恥ずかしくなる。
お母さんの愛情みたいな無償の優しさに似た、感じ。
おせっかい焼くし、言葉遣いにいちいち言ってくるし、すぐ「どした?」とか、
「だいじょぶか?」とか、気遣った言葉で心配してくるし、なにしろ、
誰に対したって、優しい。
素直に尊敬できる。
けど、
なんか「寂しい」のは、なんでだろ?
手を引いてくれた気がした。
思い込みかもしれないけれど。
でも、あの頃のわたしにとっては、綺麗な救いの光で。
だから、信じられた。
寂しいばっかで、
殺したいばっかで、
泣きたいばっかで、
一回泣いた。
刃を握るほどの勇気も無ければ、受け入れるほどの愛も無い。
だからズキズキ痛むばっかりの体を休めることさえできなくて。
アザだらけの体を心配されたくなくて。
ただひた隠しに面をつけた。
「元気な塚本千尋の面」を。
笑ってれば、こけて怪我したって言えば、心配させないで済む。
ドジだなぁって、笑われて済む。
それで良かった、と思い込んでいた。
傷も癒えないまま、
憎い者を殺せないまま、
心が病んでいくまま、
それに気づかず、
青嗣くんに、救われた。
同じ面をつけた彼もやはり、きっと救われたと思う。
といっても言葉を交わした訳では無いけど。
ただ、ふと目が合っただけだった。
ニコニコしながら話して、限界を感じた目と目が。
だから、同じだと思って。
少し安心して、心がふわりと軽くなった。
「ひとり」、じゃあなかったから。
それからだ。
次の日から、ぎゅうっと無茶するのを控えた。
彼も同じだった。
面をはずして、素顔で笑って。
二度目に目が合った時、彼は驚いた顔して、
でも、
昨日よりも素直に笑顔を向けてくれた。
闇の中。
真ん中らへんでうつむくふたり。
でも闇だからひとり。
不意に小さなひかり。
あったかく光って。
わたしは彼。
彼はわたし。
同じ。
だからほっとした。
それで、
ひかりが広がる。
今は名前で呼び合うようになった。
それだけ仲良しになって、ある程度なら秘密も共有するようになった。
話すようになって間もない頃とは違い、
踏み込んでいる、お互いに。
けれど、
お互いの面の過去には触れない。
触れること無く、笑いあう。
そんな日々が続く。
結局、
「また」だ。
また同じように泣いてしまうようになる。
繰り返す。
嗚呼、無常。そんな無限ループループループループ・・・
分かってるけど。
ふたりだから。
面をつけることがどんなに苦しいか知っていて
また選ぼうとしている。
当人であるわたしは分かっている。
彼も分かっている。
でも、面をつけたふたりだから、
また・・・・・、