願い
ここ最近は、嫌になるくらいに息苦しかった。
外が、人が、ネットが、言葉が、心をじくじくと締め付けるような気がした。
それでも、嫌になるくらいに、愛さずには居られなかった。
言葉を綴らずには居られなかったし、誰かと話したいことは、後から後から沢山溢れてきた。
暖かくなりだした季節を感じることも楽しかったし、沢山つまらないことで喧嘩をした。少しだけ、そんな日常が楽しかった。
だけど、比例するように、同じくらい苦しかった。
馬鹿にされることがあった。酷いことも、平気で言われた。だけど、助けてくれる人なんて居なかった。
「振り返った先に、本当は誰も居ないんじゃないか」なんて考え出したら、どうしようもなく、苦しかった。
だから、最近は、上手な「さよなら」の伝え方ばかり探してしまう。
「何も言わずに、サプライズのように居なくなってしまおうか」とか、「いっそのこと大々的に居なくなってしまおうか」とか。
つまらないことばかり、ぐるぐると考えながら眠りにつく。
あの頃はきっと、醒めることのない、優しい夢を見ていた。
姉上が居て、にぃ様が居て、その他にもずっともっと、沢山の優しい人が、此処で言葉を綴って、息をして居て。
泣きたくなるくらい、毎日が楽しくて、幸せで堪らなかった。
言葉を綴って、息をして、「誰かの言葉」に、「感想」を返した。そんな日々が、どうしようもなく、楽しかった。
だけど、いつの間にか、皆居なくなってしまって。
その時になって初めて、繋がりが酷く細くて、脆いものだと知った。居なくなる人を繋ぎ止めて居られるほど、私は強く無かった。
それから沢山、宛の無い言葉を綴った。誰にも見せられないような、酷く醜くて、弱い言葉も沢山綴った。
「悲しい気持ちになった」と伝えられた時、自分に言葉を綴る価値なんて無いのかもしれないと思った。だけど、誰かにそれを慰めて欲しいとは思わなかった。
大好きな彼女が、今でもあの優しい言葉を綴ってくれているのかは解らない。
本当は、もう誰も、自分の言葉になんて、耳を傾けてはくれていないかもしれない。
それでも綴った言葉は、きっと自分のために綴った言葉だ。泣き虫で、弱くて、狡くて、汚い、そんな自分のために綴った言葉。
「言葉を道具にするなんて可哀想だ」と言われた。そうかもしれないと思った。
それでも、誰かに知っていて欲しかった。
私は、大好きだった。此処も、言葉も、此処で言葉を綴る人も。
それぞれが全く違った価値観で、様々な物語を綴って、沢山の言葉を綴った。沢山の色に溢れて、沢山の言葉に溢れるこの場所が、どうしようもなく愛しかった。
いつか居なくなってしまってしまう日に、誰かがほんの一瞬でも、私の言葉を愛してくれたら、なんて夢を見ていた。
言葉を綴り始めた理由が、どんな理由だったのか、今ではもう思い出せない。
初めて綴った言葉の事も、今では曖昧で思い出せない。
だけど、「何かを伝えたかった」と言うことだけは、ずっとずっと、変わっていないのだ。
私は「小説家になろう」が、どうしようもなく好きだった。
ここで言葉を綴ることが、ここで綴られる沢山の言葉が、愛しかった。
だけど、振り返った先に誰も居ないんじゃないか、とか。本当は自分の言葉なんて、とか、そんなことばかり考える度に、言葉が、此処が、少しだけ怖かった。
愛しいのに、暖かい場所なのに、同じくらいに怖かった。
嗚呼、どうか。綴ってきた言葉達が、物語が、誰かの心の奥で、そっと小さく息づいていますように。
いつか振り返った先に、未だ見ぬ「誰か」が立っていてくれますように。
自分の言葉を、愛せますように。
上手な「さよなら」が、いつか、「ありがとう」に変わりますように。
そんなことを思いながら、私は今日も、小さく丸まって、暗闇の中で寝息をたてる。
暗闇を漂うこの言葉が、いつか誰かに届きますようにと願いながら。