ダニエル
「しかし……まあ、100万年も俺のことを探し続けていて、本当にご苦労だったな。ええと、お前……じゃまぎらわしいな。ダニだから、ダニエルと名づけようか」
「ワレのような、ムシケラに、ナマエをタマワルか?」
ダニエルと名づけられたダニは、歓喜に体を震わせる。
「大げさだな。それでダニエル、お前は転生してきたって言ってたけど、それは本当か?だったら何で俺のことを覚えているんだ?」
「ハイ……ワレラ、ダニ族の寿命は短いのデスガ、キオクは魂と共にツタエられるのです」
ダニエルの言葉を聴いて、良樹は考え込んだ。
「魂って、本当に虫けらのこいつらにもあったんだな。面白い。まてよ。魂だって?もしかすると……何が悪いのか、確かめてみよう」
あることを考え付いて、地面に手をついて念じる。
「えっと、サンプルとして、男女二体の体を出してくれ」
次の瞬間、地響きが鳴り響き、地面から巨大な触手の蔓が這い出てくる。
その蔓に絡まれていた、良樹をいじめていた少年と、幼馴染のツインテール少女が目をぱっちりと開けた。
「よお。お前ら。久しぶり」
明るく話しかけると、彼らは恐怖の目で彼を見つめる。
「お、お前……これは……」
「あ、あんた…」
「いいから、ちょっとアタマの中を見させてくれ」
良樹の手が二人の頭に触れると。二人の脳に激痛が走った。
「ああー。やっぱり。こいつら、というか生物の遺伝子には、とある本能的なプログラムがあるのか。本能に従って個体数が少ないときは協力するけど、増えすぎて生息範囲が狭くなると近親憎悪が激しくなって、互いに争って個体数を減らそうとするんだな」
ようやく彼は、彼らに何が足りなかったか悟る。
長年の疑問がとけて、彼はすっきりした顔になった。
「でも、どうして生物共通にもつアポトーシス遺伝子を乗り越えて、ダニ族は滅びもせずに進化しつづけたんだ?」
「ソレハ……ワレラニハ……性別ガアルカラデゴザイマス」
ダニエルは跪きながら答えを返してきた。
「性別……って?どういうことだ?ちゃんと俺はデグレーションにも男女別に作ったはずなのに」
疑問に思いながら、ダニエルの頭に触れてこの答えを探る。
帰ってきた答えは、彼を大いに驚かせた。
「なるほど……魂って男と女じゃ根本的に違うんだな。俺が今まで作ってきたのは、所詮は俺の魂のコピーに過ぎず、自分の意思なんてほとんどないのか。だから本能に従って、弱い固体を排除しようとするわけだ。つまり、俺が作ってきたのは男でも女でもない、ただの魂のない人形にすぎなかったわけだ」
ようやく彼が長年疑問に思っていた答えが得られるが、それをしって彼はさらに落ち込む。
「だったら、結局は俺はこの世界に一人だったというわけか。せっかくデグレーションたちを作ったのに……」
「カミヨ。ワレラガイル」
ダニエルからそう慰められたが、彼は苦笑して首を振った。
「ダニに慰められる神って。まあいいや。だったら、闇の世界から脱出するレベルにまで文明を発展させるには、これまでのやり方を根本的に変えないといけないな」
腕を組んで考え込む。自分たちの神が困っている様子をみて、ダニたちはざわめいた。
「カミよ。お困りカ?ワレラもお手伝いスル」
「気持ちはありがたいが、お前たちみたいな虫けらにできることなんて……ん?」
ふと思いつくと、ダニエルたちに向き直る。
「『一寸の虫にも五分の魂』だよな。お前たちの魂プログラムは食って消化するだけの単純なものだから、転生しても記憶がリセットされずに受け継がれる。こいつらを記憶媒体として利用できれば、文明を断絶させることなく発展させていけて……なあお前ら。俺に協力してくれないか?」
「ナンナリと。ワレラのイノチ、あなたに捧げます」
自分に忠実なダニエルたちに、彼は苦笑する。
「いや、命じゃなくて、魂を捧げてくれ」
次の瞬間、再び地面から植物の蔓が生え出て、ダニエルたちを捕まえて地中に引きずりこむのだった。




