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世界の創生

100年後

彼は体内に流れる電流を解析することで、「光」をもたらす方法を編み出していた。

「光あれ」

彼は元は目だった水晶体=目にエネルギーを注入して、核融合反応を起こし、この虚無の世界に「光」を生み出す。

清らかな光が彼の体を照らし、体を覆っていた「闇」を取り払った。

どこまでも広がる限りない世界に、一筋の光が灯るのだった。

さらに彼は、周囲の『闇』から取り込んだエネルギーを分子に変換し、『呼吸』を再開させる。

生み出した酸素を肺で二酸化探査と交換し、息と共に吐き出す。

この世界に、新たに『土』と『風』が生まれるのだった。

次に彼は、体細胞の分子を運動させ、『熱』を生み出す。同時に体液を体表に染み出させ、自らの体の半分を液体で覆う。

この世界に、新たに『炎』と『水』を生み出すのだった。

無意識に神の御業を真似て、自らの肉体をベースに世界を創造していく荷物もち。

そして途方もない時間が流れる。


1000年後

体感時間で世界を追放されて1000年が経過した頃、彼は虚無の世界に完全に適応していた。

相変わらず本体は動かせないが、自らの精神をエネルギーで作った体に投影して、意識体で自分の体の表面を自由に移動することも可能になっていた。

すでに惑星レベルにまで巨大化してしまった自分の体を、荷物もちの意思体はたった一人で孤独に過ごす。退屈しのぎに、彼は自分意識を体から切り離し、霊体となって自らの体を見て回っていた

「なんだこれは……えっ?」

自分の巨大化した体を見た彼は、驚きの声を上げる。

破裂と再生を繰り返した体は、もはや人間のものではなかった。

厚い肉と骨でできた肉体は、すでに垢などの老廃物で覆われ、それが土となって体表を覆い、「大地」を作り出している。

体内を流れる血やリンパ線がが体表面に出ることでできた巨大な水の塊が「海」となって体を覆っている。

元は口と鼻だったところから、規則的に息が漏れて、それは「大気」となって体を覆っている。

体内に取り込まれたエネルギーは、マグマの塊=「火」となって山から噴出していた。

「俺は……「世界」を作ってしまったのか」

彼は1000年ぶりに、美しい世界を見て感動していた。

しかし、彼は同時に孤独を感じる。

『生き物がいない……」

そう、どんなに美しい世界を作っても、そこに住まう者がいないと意味がない。

たった一人の孤独な神となった彼は、むなしく世界をさまよっていた。

「誰かいないか……誰でもいい。俺以外の存在がほしい」

孤独に耐えかねた彼は、土くれから生物を創り出そうとしたが、ことごとく失敗におわる。

所詮は人間である彼に、複雑な機能が必要とされる生物を作るのは無理だった。

「……俺は永遠に一人きりなのか……」

絶望した彼は、むなしく世界を回る。

そのとき、視界の隅で何かが動いた。

「な、何だ?」

動くものなど、この世界には幽霊状態の自分以外にあるはずがない。

彼は久しぶりに疑問を感じて、その動く物を追いかける。

「!!!????」

その物体は、いくつかの触手と目をもつ虫のような生き物だった。

彼に追いつかれて、おびえた様に動きを止める。

その原始的な思考が、彼に伝わってきた。

「……神よ……おゆるしを……」

人間の言葉に翻訳すると、このような意味の考えが伝わってくる。彼をひどく恐れ、同時に敬っているかのようだった。

「神?俺が?」

虫から神呼ばわりされて、彼は首をかしげる。

「ワレら……ながいナカい時……神のチニクによって生かされてきた者……」

その生物の持っているイメージが伝わってくる。彼は、彼らの正体を知った。

「お前たちは……俺の顔に生息していた、小さなダニのなれの果てなのか?」

彼らの意外な正体を知って、彼は心底驚く。

あまり知られていないが、人間の顔には数百万匹のダニが生息していて、彼らは顔から出る脂肪を食べて生きている。

人間の顔という一つ世界の中で生まれ、育ち、繁殖し、死んでいく生物なのだった。

彼らにとって、人間とは文字通り神にも等しい存在である。

「神が大きくなるにしたがって……我らも変化した。血肉を食べ、イノチをつないでいる」

どうやら彼が変化していくに従い、彼らも進化してしまったらしい。

元のサイズから数千倍にも巨大化し、モノを考えることもできるようになっていた。

「神よ……ワレワレは神と違ってミニクイ。イキテいてもよろしいのだろうか?」

荷物もちと思考を交わすことにより、ダニたちは自らが醜い生物だと認識してしまった。

このまま存在しつづけてもよいものかと、彼に問うてくる。

しばらく考えた後、彼はゆっくりと苦笑した。

「……いいさ。好きにしろよ。一寸の虫にも五分の魂だ」

存在を許されて、ダニたちが歓声を上げる。

「ワレラガ神よ……」

「わかったから、こっちくんな!」

荷物もちの周りに群がってこようとするので、彼は空に浮きあがって逃げ出す。

「ふふふふ……あはははは……俺が神か!!!面白い!!まるであの神話みたいだ!

神となった荷物もちは空を飛びながら、高らかに笑う。

彼の脳裏には、前世で読んだ北欧神話の始まりの場面が浮かんでいた。

『太古の神ユミル死す。その目は太陽と月に、その血は海に、肉は大地になる。そして体に集っていた虫から人間が生まれる』

まさに彼の今の状況は、それを再現しているといってもよい。

「面白い。こうなったら、新たな世界を作ってやる」

あらたな退屈しのぎが見つかり、彼は久しぶりに晴れ晴れとした気持ちになっていった。


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