永遠の孤独
虚無の世界に放り出された荷物持ちの少年。
そこは無限の暗闇の中に、ポツポツと光の点が浮かんでいるだけの世界だった。
「うわぁぁぁぁぁ!苦しい!」
空気もない世界に放り込まれた少年の体は、絶対零度の冷気にさらされる。
そのまま凍り付いてしまうと思われたが、少年は体内に膨れ上がるエネルギーを感じた。
「な、なんだ?まだ……」
そう。彼の体と同化した道具袋は、周囲からエネルギーを取り込むことをやめなかった。
虚無の世界に「有」が放り込まれたことで、周囲との「偏差」が生まれ、その偏差を均一化する力かが働き、それはエネルギーとなって彼の体に力を与える。
瞬く間に彼の体は膨れ上がった。
「く、苦しい……」
少年がどんなに苦しんでも、エネルギーはとまらない。
瞬く間に彼の体は膨れ上がり、とうとう破裂してしまった。
「ぐっ……」
一瞬だけとてつもない苦痛を感じた後、急に体が楽になる。。
気がつくと、彼は霊体となって虚無の空間に浮かんでいた。
「よかった……これで楽になれる……え?」
幽霊となった彼は驚愕する。
なんと、彼の体と同化した道具袋が、霊体=エネルギー体となった彼を引き寄せ、再び彼の体に取り込んでいた。
「い、痛い、苦しい!」
自分の破裂した肉体に宿った彼に、再び苦痛が襲ってくる。
一度は破裂した彼の体は、心臓を核として再び一つにまとまろうとしていた。
エネルギーを吸収して膨張する。耐え切れずに破裂する。
また再び心臓を核として再生される。
破裂する。再生する。破裂する。再生する。また破裂する。
この繰り返しで、彼の体はどんどん巨大化していった。
世界に一人となった彼に許された自由は、ひたすら思考することのみ。
頭の中で自らを裏切った勇者たちに、どうやって復讐するかを考え続ける。
「燃やして砕いて潰して●●して××に漬けて▲▲にしてやって……」
体内を走る激痛から意識をそらすように、そうやって妄想して時間が過ぎていった。
それも、やがては飽きてしまい、次の妄想をはじめる。
「あはは。よくがんばってくれたね。ほら、僕たちの子供だよ」
「可愛い子供ね。ほら、パパですよ」
清潔なベッドに横たわった聖女が、かわいらしい男の赤ちゃんをあやしながら微笑む。
「おめでとう!」
花束をもった勇者たちが、満面の笑みを浮かべて二人を祝福する。
彼らはみんな可愛いらしい赤ちゃんを抱いていた。
「あはは、魔王を倒してみんなで日本に戻れて10年か、みんな変わったな」
「ああ、あの時魔王を倒せたのは、お前のおかげだ、感謝しているぜ」
勇者や武道家の少年が彼を褒め称えている。
「ほんとうよね。あのとき、君がいなかったらどうなっていたか」
「身を張って私たちを助けてくれて、ありがとう」
鞭使いと盗賊が笑みを投げかけている。
「あれ?あいつは?」
「ああ、彼女に振られたからって、ひきこもっているみたいだぜ。かわいそうだな」
勇者たちは日本に戻ってからひきこもりになった魔道士の少年に同情していた。
「こんど、みんなで遊びにいってあげようか?」
「そうだな」
彼がそういうと、勇者たちは頷く。
その時、急激に勇者たちの姿がぼやけて、彼の意識は覚醒していった。
「はっ!」
彼の意識が、三日ぶりに戻る。
「……また目覚めてしまった……」
目覚めるたびに、彼は絶望に陥る。
シャングリラ世界を追放させられて、闇の世界の時間で数ヶ月が経過していた。
エネルギーを吸収しつつけた彼は、一歳たりとも年をとらない。
しかし、彼は所詮は人間である。
何もない世界に一人で放り出され、孤独のあまり苦しんでいた。
「はあ……ずっとこのまま、幸せな夢をみていたいんだけど…」
彼は焦りと死の恐怖から逃避するかのように、空しい妄想ワールドに逃げ込んで幸せな妄想にふけっていた。
そして一年後
彼は妄想することをやめていた。
「……」
もはや、考えられるあらゆるシチュエーションで勇者たちを拷問した。
ここから出て、幸せになる妄想もあらゆるシチュエーションを考えた。
前世を含む自分の記憶を、いいことも悪いこともすべて思い出して反芻した。
しかし、無限に近い孤独な時間を紛らわせることはできなかったのである。
「……」
しかし、彼は思考することをやめられなかった。
「……俺という存在は、何だ?」
無限の時間とそれによる退屈は、彼を自然に哲学的な思考に誘う。
「世界とは?人間とは? 心とは?命とは?エネルギーとは?光?闇?地火風水?」
指一本動かせないまま、彼は考え続ける。
日本で学んだ科学知識、シャングリラ世界で身近に接していて魔法の力は、世界を解明するヒントとなっていった。




