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勇者との戦い

昼休み

「さあ、食べようか」

屋上で俺は母親の手作り弁当を広げる。

本来は食事は必要ないが、弁当を食べるという行為自体が娯楽だった。

「はい。ご主人様。あーんです」

俺の隣には、ダニエルが侍って世話を焼こうとしている。どうでもいいけど、いつの間にメイド服に着替えたんだ?

「地球の文化から学びました。この服が一番ご主人様にご奉仕するのにふさわしいと。他にもいろいろ勉強しました。『自動服飾(オートチェンジ)

ダニエルは来ている服を水着やナース服に変化させる。どこでこんな服の文化を学んだんだろう?

そうやって二人で弁当を食べていると、六人の生徒が屋上にやってきた。

彼らは一様に俺をにらみ付けてくる。

「おい田村。お前はどうやって地球に帰ってきたんだ!」

威嚇しながら聞いてきたのは、俺をもっともいじめていた武道家、武者小路敦だった。

しかし、俺は無視して弁当を食べる。

『聞こえねえのか!ああん?」

敦は大声を上げて威嚇すると、乱暴に弁当を床に叩き落す。

俺は床に落ちた弁当を悲しそうに見つめて、ため息を漏らした。

「もったいない。母さんが作ってくれたのに」

「はあ?母さんってマザコンかよ!笑えるぜ!いいからさっさと言え!」

そういいながら乱暴に胸倉をつかんでくる。その時、隣にいたダニエルが音もなく動いた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!いてえ!」

「神に対する無礼。許せません」

ダニエルの手元には、血にまみれたナイフが握られている。彼女は何のためらいもなく、敦の胸に高振動ナイフを刺していた。

「おい。ダニエル。手加減しろ。簡単に死なれたらつまらないだろ」

{神よ。失礼いたしました」

俺がたしなめると、ダニエルは頭を下げて謝罪する。そしてポケットから湿布のようなものを取り出して、敦の傷口に貼り付けた。

その湿布はみるみるうちに皮膚と同化して、敦の傷口をふさぐ。

{簡単に殺しては、神のお気持ちが晴れませんものね。では、神よ、ご存分に成敗を」

敦の治療を終えたダニエルは、一歩さがる。六人は、そんな彼女を恐怖の目で見つめていた。

「なんの躊躇もなく、刺した」

「それに、武道家である敦君の体は絶対防御のシールドでガードされているはずなのに。あの子って何者なの?見た目はアリエスそっくりだけど……」

畏怖の視線を向けてくる勇者たちに、ダニエルはにっこりと笑いかける。

「私は、神である田村良樹様の忠実な僕でございます」

「僕?田村なんかの?」

俺のことを永遠のボッチだと見下していた奴らは、俺に仲間がいると知っていやな顔をした。

「私だけではありませんわよ。神である良樹様には、常に大勢の僕が侍り命令を待っております。今この瞬間にも」

ダニエルが上を指差す。釣られてみた六人の勇者たちの顔が驚愕にゆがむ。いつのまにか、学校の上には巨大な都市母船と無数の小型円盤がやってきていた。

「な、なんなのあれ?」

「我らはダニ人。神である良樹様の子にして、忠実なる僕です。神の命令ひとつで、この星など一瞬で廃墟にすることもできるでしょう」

ダニエルはそうつぶやいて合図する。

小型円盤の一機からレーザーが発射され、勇者たちの足元を照らす。一瞬でコンクリートの天井が溶けて穴が開いた。

さすがに恐怖する六人に対して、ダニエルは冷たく笑う。

「あら。何を恐れているのかしら。我らなど、神に比べたら虫けらにすぎません。ですが、そんな我らにすらかなわないほど、あなた方が弱いだけですわ」

「なんだって!この勇者である僕たちが弱いだって!だったら戦え、僕たちの力をみせてやる」

ダニエルの挑発に、星輝が反応する。他の五人の勇者たちも、敵意をこめてダニエルをにらみ付けていた。

そんな彼らを見渡して、ダニエルはため息をつく。

「神よ。いかがいたしますか?」

「仕方ないな。排除するか。うるさいムシケラたちに絡まれたら飯も食えないしな」

俺はそういうと、勇者たちと相対した。


「まず俺からだ。さっきの借りを返してやる。鋼魔甲拳」

そういいながら敦が出てくる。その腕には棘がついたナックルが装着されていた。

そのナックルから銀色の光が発せられ、敦の全身を覆っていく。いつの間にか、やつの全身がメタリックなプレートで覆われていた。

「どうだ!これで武器や光の魔法は通じないぜ」

自信満々に良いながら、殴りかかってくる。

俺は余裕を持ってその拳をかわした。

「ふっ。ご大層な装備だけど、当たらなければどうということはない」

「ほざけ!荷物もちのくせに!」

敦は顔を真っ赤にさせて怒っている。荷物もちと見下していた俺に、一撃も当てることができなくてプライドが傷ついているようだ。

そんな奴を、俺はからかうようにして交わし続ける。第六覚を使えば奴が動くときに乱れるかすかな磁場を感知して、そのパンチの軌跡を簡単に読むことができるので奴がどれだけがんばっても、俺に指一本触れることはできない。

「くそ!なんなんだこいつは!」

敦は早くも汗だくになっている。

「俺たちもやるぞ!」

敦が苦戦しているのを見て、他の勇者たちも襲い掛かってきた。

「炎の剣!」

「闇の本!」

星輝が炎でできた剣で切りかかり、学が黒い闇を投げつけてくる。

「がんばれ!田村なんてやっつけちゃえ!」

その周りでは、さやか、夢美、恵の三人の女勇者が応援していた。

「愚かですね。所詮は与えられた力に頼るだけのもの。そんなものは長続きしませんよ」

ダニエルは女の勇者たちをけん制しながらあざ笑っていた。

「何よ。与えられた力って!」

「あなた方の使っている力は、所詮「第七覚」の一部を扱うプログラムをインストールされた伝説の武器を使っているだけもので、自分の力ではありません」

ダニエルのいっていることは正しい。奴らが使う魔法は伝説の武器を通じて第七覚のほんの一部の使用法を覚醒させただけのもので、使っている奴ら自身もなぜ使えるのかわかっていない。

空間からエネルギーを取り出すのではなく、自分自身の生命力を魔法に変換しているだけなので、すぐに魔力がつきた。

「く、くそっ!」

奴らの動きが弱まってきた頃合で、俺は操蟲術を発動させる。

「感染せよ!『塞腸弁』」

俺の息から茶色い霧が吐き出され、荒い呼吸をしていた勇者たちの口に入っていく。それは腸内活動を抑制する菌虫だった。

「はあはあ、お前何臭い息を吹きかけてんだ。殺すぞ!」

そこまでいった時、急に敦たち三人が腹を抑えてうずくまる。

「な、なんだ、急に腹がいたくなって……」

奴らに取り付いた菌虫が排尿や排便をコントロールする『排泄感覚』を奪っていく。

それはあっという間にさやかたちにも伝染して彼らの腹がギュルルという音を立てる。、

「で、でる!」

俺の周囲に悪臭が立ち込め始め、勇者たちがうずくまった。


地面にうずくまった彼らを、見下ろして笑っていると、勇者たちのリーダーである星輝が最後の力を振り絞って問いかけてきた。

「て、てめえ、俺になにしやがった?」

「別にたいしたことじゃねえよ。俺が生物の生死進化をあつかう「第八覚・死生覚」を使って作り出した虫菌を感染させただけだよ」

俺はあざ笑いながら説明してやる。

「お前たちに感染した『塞腸弁』体内の自律神経プログラム「排泄コントロール」を阻害する菌虫だ。どんなやつだって下痢しながら戦闘なんてできないだろ。相手を傷つけずに無力化するのには最適なやり方だ。もっとも、ちょっと汚いがな」

俺は屋上に広がりだした悪臭に顔をしかめる。美男子である星輝も美少女である女勇者たちも、みんな一様にお漏らししていた。

「さて、復讐タイムといこうか」

俺が笑顔を浮かべながら迫ると、奴らは恐怖の表情を浮かべて後ずさった。

「た、助けてくれ……」

星輝たちは腹をおさえながら必死に謝ってくるが、俺は許す気にはなれなかった。

「お前たちは俺を生贄にして闇の世界に追放した。それがどんな苦痛を相手に与えることになるか、深く考えもしなかったんだろうけど、これから思い知るだろう」

上空の巨大円盤から、緑色の光が振ってきて地面にうずくまる六人を照らす。

彼らの姿は屋上から消え、円盤たちも去っていった。

(心配するな。殺しもしないしお前たちの人生を奪ったりもしない。ただ俺と同じ思いを味わってもらうだけさ)

そう思いながら、俺は教室に戻っていった。


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