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生贄

苦しい旅を続けながら、勇者一向は各国を解放していく。

それぞれの国に戦いを仕掛けていた魔族三人衆を倒し、魔王の城に迫った。

「いよいよ明日は魔王城に乗り込むぞ」

大勇者となった美少年が、「炎の剣」に進化した武器を磨きながらつぶやく。

「そうだね。頑張ろう」

鞭使いの少女は、明るく笑って彼の肩を叩いた。

「俺たちの戦いにすべての命がかかっているんだよな」

「頑張ろう。すべての生き物を救うためにね」

武道家と背中合わせになって座り込んでいる盗賊がつぶやく。

「ずいぶん遠くまできましたよね……僕たち」

「ええ。平和な日本で学生をやっていたのが、夢みたいです」

魔導士が今までの戦いを記録している日記を読み返し、聖女が暖かいお茶を入れる。

勇者パーティの六人は、それぞれ物思いにふけっていた。

そのとき、卑屈そうな声がかけられる。

「あ、あの、食事ができました」

そういったのは、すっかり勇者パーティの下僕となった荷物もちの少年だった。

勇者たちは彼にねぎらいの声もかけずに、黙々とシチューをすする。

彼らが食べているのは、旅を通じて手に入れた強化の種や命の実などだった。

そのとき、聖女がシチューを取って、そばに控えている荷物持ちの少年に手渡す。

「明日は魔王城に乗り込むんだから、君も食べて」

そういう聖女に、非難の視線が集中する。

「おい。戦いもしないやつに、この貴重な食材を分けるなんて……」

大勇者の少年が不快そうに言うが、聖女は首を振った。

「いいから!もし私たちに万一のことがあったら、彼もまきこまれるわ。最低限、逃げ出せるくらいの力を身につけてないと!」

そういいながら、さりげなく強化の薬草をお椀にいれる。

「さあ、食べて」

「あ、ありがとう」

荷物もちの少年は感謝しながら勇者たちと同じ食事をとる。

その姿を、聖女は意味ありげに見守っていた。


魔王城

魔王の間に入る前に、荷物もちの少年はあることを聖女から頼まれた。

「え?部屋の外に待機していてほしいんですか?」

「うん。おそらくこれからの戦いは大変なものになると思う。だから、君はここで待機していて、必要なアイテムを投げてよこして」

そういわれて、荷物もちの少年は素直にしたがう。

「よし、いくぞ」

勇者たちは意気揚々と魔王の間に入る。

六人の英雄と魔王の戦いは熾烈を極めた。

あたり一面に魔法と衝撃波が飛び散り、豪華な城があっというまに廃墟になっていく。

「ひぃぃっ!」

その戦いを、荷物もちの少年はおびえながら部屋の外から見ることしかできなかった。

長い長い戦いが繰り広げられ、ついに魔王の動きが止まる。

「今だ!」

勇者たちの一斉攻撃により、魔王の肉体は粉々に砕け散った。

「はあはあ……やったな……」

「まだよ!このままだと復活するわ!」

魔王を倒してほっとする勇者パーティだが、聖女の言葉に緊張を取り戻す。

たしかに魔王の魔力は、肉体が砕かれてもその玉座にとどまっていた。

「ど、どうすればいいんだ?」

「やり方はあるわ。お願い!」

聖女の言葉に、魔導士がうなずく。

「アリエス召喚!」

その言葉が魔王城に響き渡ると、彼ら勇者たちをこの世界に召喚した、女神の意思を伝える王女が現れた。

「勇者様、よく魔王を倒してくださいました。これから魔王の魂を封印する儀式に入ります」

アリエスの声が冷たく響く。

「儀式って、何をすれば?」

「魔王を封印するには、『寄り代』が必要です。それは、無限の者やエネルギーを収納し、完全に封印できる神具を使いこなせる者……」

彼女の指が、部屋の外で震えている荷物もちの少年を指差した。

「この者を道具袋と一体化し、魔王を封印する寄り代としたのち、世界を追放しましょう。これで、この世界が創生されてから何度も繰り返されてきた、魔王との戦いも永遠に決着をつけることができます」

そうつぶやくアリエスの顔には、これで平和がもたらせることへの期待が浮かんでいた。

いけにえに指定された荷物もちの少年は、それを聞いて真っ青になる。

「じ、冗談じゃない。そんなのまっぴらごめんだ。僕はいやだ!」

そういって逃げようとする荷物もちの少年に対して、聖女が呪文を唱える。

「バインド!」

次の瞬間、荷物もちの少年は鞭使いの鞭に縛られ、拘束された。

「ごめんね。君には犠牲になってもらわないといけないの。死なない魔王を完全に滅ぼすには、あなたの体に封印して、世界から放逐するしかないのよ」

今まで自分に優しくしてくれた聖女は、そういって慈悲深い笑みを浮かべる。

「なんでだ!今まで君は俺を治療してくれたり……」

「当然でしょ。だって君は必要な人だったんだもん」

そういって、聖女は嘲笑うような笑みを浮かべた。

「大変だったんだよ。みんなには内緒にしてって言われていたから、かばったりしなきゃいけなかったり。本当はみんなと同じで、一人だけ戦わない君にムカついていたけどさ」

聖女の言葉に、他のメンバーも納得した顔になる。

「なるほどな。なぜかこんな奴をかばうから、おかしいと思っていたんですよ。僕とつきあっていたのに」

「そういうこと。今まで心配させてごめんね」

聖女は魔導士に駆け寄ると、自分からキスをした。

「さあ、みなさま、最後の仕事です。彼をつれてきてください」

アリエスの言葉に、ニヤニヤ笑いを浮かべた勇者たちが荷物もちを引きずってくる。

「では、最初に道具袋との同化を」

盗賊と武道家が無理やり押さえつけ、勇者と鞭使いが無理やり口に道具袋を突っ込ませる。

「では、いきますよ」

「はい」

アリエスに協力して、聖女が呪文を唱える。

道具袋と荷物もちの少年は、一体化していった。

「次に、魔王の魂の封印を」

無理やり玉座に座らせ、口をこじ開ける。

玉座に漂っていた黒い魔力は、すべて荷物もちの少年の体内に吸収されていった。

「ぐっ!」

例えようもない不快感が体内から伝わってきて、強力な吐き気かする。

荷物もちの少年は耐え切れず、腹を抑えてのたうちまわった。

「ふふふ、無駄ですよ。道具袋はあらゆる物を吸い込みます。たとえ魔王の魂でも。吐き出そうとしても無駄です」

アリエスの声が冷たく響く。

「では、彼の始末を」

「心得ました。時空魔法『ブラックホール』」

玉座を中心とした空間に穴が開き、荷物もちの少年が吸い込まれていく。

「じゃあな。お前は正義のために尊い犠牲になるんだ。嬉しいだろう」

「あんたの顔みるとムカついていたけど、これでお別れね」

勇者と鞭使いが嘲笑う。

「これで俺たちは世界を救った英雄か!」

「かえって早く、可愛い子たちをモフモフして癒されたい」

武道家と盗賊は、消えていく荷物もちのことなど無視してこれからのことを考えていた。

「ぼくたちは女神の報酬でずっと若いままみたいですよ」

「うれしい。ずっと美しいままでいられるって」

魔導士と聖女は抱き合って喜んでいた。

「な、なんでこんなひどいことを……」

必死に手をさしのばして聖女の服をつかむ荷物もちだったが、その手は鋭い痛みとともにふりはらわれる。

「触らないで!」

「往生際が悪いぞ。最後ぐらい俺たちの役に立て。このクズが!」

荷物もちが差し出した手に、勇者は唾を吐きかけ、武道家は最後のとどめとして顔面をぶん殴る。

絶望的な顔をした荷物もちは、虚無の空間に吸い込まれていった。


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