円盤飛行
「ふふふ。今日は機嫌がいいみたいね。フラちゃん喜んでいる」
明はピンク色の円盤に手を当てて、満足そうな顔をしていた。
「フラちゃん?」
「私の円盤の名前。フライングソーサーだから縮めたの」
明のセンスはちょっとおかしい。それよりなんでピンク色なんだ?普通円盤って銀色だろ?
それに所々宝石みたいなデコレーションがついているし。「この装飾は?」
「フラちゃんと相談して飾ったの。きれいでしょ」
デコレーションUFOなんて初めてみたぞ。これを地球人がみたらひっくりかえるんじゃないだろうか?
よく見たらほかの円盤にも絵が描かれていたり、変な装飾がされていたりしている。
「こ、これは?」
「神よ。明のもっている美的センスはわれらダニ人にはなかったものです。彼女の知識に従い、我々も絵を描いてみました」
ダニコーチが自慢げに自分の円盤を見せに来る。そこには少女マンガみたいに美化された俺の絵が描かれていた。
痛車ならぬ痛UFOである。俺はダニ人たちの文明の行く末にちょっと不安を抱く。
「こ、こんなの地球人に見られたら……」
抗議しようとした俺の腕を、明がひっぱる。
「いいから!それよりドライブしようよ!」
俺たちは明の円盤に乗って、地球に向かうのだった。
円盤の操縦室では、明がソファに座って目を閉じている。周囲は完全な透明になっており、床も含めた全方位を見渡すことができた。
「すごいすごい!迫力!」
まるで宇宙遊泳しているような景色に、舞が歓声をあげる。
「すごいでしょう。ふふ。あー気持ちいい。宇宙を生身で飛んでいるみたい」
円盤そのものから明の声が聞こえる。明は完全に円盤との神経接続を果たしていた。
やがて円盤は漆黒の宇宙空間を抜けて、青い地球に向かって急降下する。
「きゃーー!」
「いっけー!」
舞の悲鳴と明の歓声が響きわたる。例えて言えば、超巨大なジェットコースターで宇宙から地上をめざすような大迫力の景色が繰り広げられていた。
円盤は無事に分厚い大気圏を突入し、成層圏に達する。
「よし。平行移動モードに以降」
「もう。明ちゃんやりすぎ。怖かったよ」
舞はプンスカと怒っている。
「あはは。ごめんごめん。でも気持ちよくて。良樹君。この第六覚「電磁覚」ってすごいね。地球に満ちる無限のエネルギーを感じ取れるよ」
明は円盤の表面から地磁気エネルギーを吸収して、さらにスピードをあげる。
しばらく空を飛んでいたら、後ろから戦闘機が追いかけてきた。
「そこの未確認飛行物体に警告する。我々はアメリカ空軍所属、ライトニング部隊だ!お前たちは領空を侵犯している。ただちに当機の誘導に従い、着地せよ!」
そんな警告文が入ってくる。
「明ちゃん!」
「あ、ステルス迷彩するの忘れていたわ。てへぺろ」
明が自分の頭をコツンとする映像が浮かぶ。
「ふむ。あれはアメリカ軍が秘密開発した第六世代戦闘機、F-99ラプターだな」
俺が冷静に指摘すると、明は不適な笑みを浮かべた。
「おもしろい。この明のフラちゃんとドッグファイトするつもりね。相手になってやるわ」
明は円盤を操作して、戦闘機の周りを旋回したり、からかうように前に回って外壁を尻の形にしたりした。
「ア○スホール?オーマイガー!シット!」
いきなり外壁に現れた尻をフリフリされて、パイロットが激昂する。
「ファイヤ!」
ついにミサイルが発射されてしまった。
「め、明ちゃん!あぶない!」
「大丈夫だよ。加速!」
円盤は一瞬で加速し、マッハ50までスピードをあげる。
あっという間に戦闘機とミサイルを置き去りにして、アメリカ上空を飛び去っていった。
「ふふ。おとといきなさい。スピードでこの明ちゃんを抜かそうなんて100年早い」
明はそう悦に入るが、次の瞬間警告音が響き渡る。
「警告!前方に障害物。あと10秒で激突します!」
「え?」
あわてて前方を見ると、巨大な山が迫ってきていた。
「ロッキー山脈?まずい!回避しないと!」
明は必死に機体をコントロールしようとするが、マッハ50間で加速していた円盤は慣性の法則にしたがって進んでいく。
「もうだめ!ぶつかる!」
明が絶望の声を上げた瞬間、舞が両手を前に突き出した。
「闇の力を発動!『空間転移』」
前方に黒い渦巻き穴が発生し、円盤は山に激突する寸前にその穴に飛び込んでいく。
次の瞬間、いきなり周囲の景色が変わった。
「え?ここはどこなの?」
さっきまで陸地の上空にいたが、今は見渡す限り大海原の真ん中にいる。
「もう。明ちゃん調子に乗りすぎ。転移魔法が間に合ったからよかったものの、一歩間違えていたら激突していたよ」
舞は腰に手を当てて、明を叱る。まあ山にぶつかった程度じゃこの円盤は壊れないんだけどな。
「ご、ごめん。でも舞。魔法って?」
「ふふん。私だって遊んでいたわけじゃないたんだよ。ちゃんと勉強もしているよ。良樹君の記憶を教科書にして。みてて。これが第七覚「空間覚」だよ」
舞は両手を前に出して、何かを包みこむような仕草をする。掌に包まれている部分に空間から取り出した力が集中してきた。
「光あれ!」
そう叫ぶと同時に、両手の間に光の玉が浮かぶ。
それを見て、明は腰をぬかすほど驚いた。
「それって……」
「見事だな。もう光創生の真理を理解したのか」
俺は舞を褒める。これは空間の真理を深く理解していないとできない。舞はごくごく初歩ながら、神の御技を体現したことになるのだった。
「うん。今は光と闇の真理を理解したから、次は地火風水の四元素で、それが終わったら16の素粒子だね」
舞は胸をそらしてドヤ顔をする。
「……この分じゃ、お前はそのうち神になってしまうかもしれないな」
「あはは。まだまだだよ。それに、偉いのは学んだ私じゃなくて、編み出した良樹君だしね」
そういって舞は良樹に尊敬の目を向けるのだった。
「まさか明もそんな力を身につけていたなんて。ただゴロゴロしてニート生活を楽しんでいただけだと思っていたわ」
明はそんな彼女を見て感心している。
「二人とも、おめでとう。これで普通の人間を超えたな。地球に戻ってこのことを広めたら、人類は一段二段進化の階梯を登ることができるかもな」
「進化って……」
明はそれを聞いて複雑な顔をしている。
「なんだ?誇って良いぞ。人類70億人の中で無意識にしろ第六覚に目覚めているのは10万人くらい、第七覚に目覚めているのは1000人以下だ。それを体系立てて理解しているお前たちは、他人に教えることもできるだろう。もしかしたらお前たちは新興宗教のカリスマになれるかもな」
「興味ないわよ」
明はそういって、ぷいっとソッポを向く。
「そういえば、良樹君はどこまで進んでいるの?」
舞は興味津々の顔になって聞いてきた。
「聞いて驚け。第八覚の死生覚、第九覚の創滅覚まですすんでいるぞ。そこまで行くと、宇宙空間に放り出されてもいきていけるぞ」
「へえ~」
なんだ?あんまり驚かないな。もっと尊敬してくれよ。
「地球に戻るで思い出したけど、良樹君ってどこの学校に通っているの?」
明が聞いてきたので、俺は答えてやった。
「一応、弥勒学園って所に復学の予定だけど」
「弥勒学園かぁ。結構私たち大企業のオーナーの子女の間で有名なんだよね。お金さえ払えば進級できるとか、簡単に転入できるとか」
まるでバカボンが集まる学校みたいな言い方だな。いっとくけど俺は特待生だからちゃんと勉強していたぞ。
「よし。決めた。私と舞もそこに通うよ」
「ええ?」
それを聞いて、舞もびっくりしている。
「だってさ。私も二ヶ月ぐらいここにいて学校にいってないから、出席日数足りてないし、舞だって今更高校一年からやり直すの嫌でしょ?」
「わ、私はべつにそれでもいいけど……」
舞がゴニョゴニョいっているのを聞きながし、明はさらに話を進める。
「それに、良樹君を放置していると心配だし。目を離したら何するかわかんないしね」
失礼な。俺は本物の神様だぞ。変なことをするわけないだろ。理性のカタマリみたいなもんだぞ。
「あ、でも良樹君と一緒に学校に通うのもいいかも」
舞がうれしいことをいってくれる。可愛いやつめ。
「わかったわかった。好きにすればいいさ」
俺はそういって肩をすくめる。
だけど、こうなったらあの六人に対する復讐を考えないといけないな。
あまり彼女たちの前で残虐なことはしたくない。実際におれの復讐行為を目に見える形で見せてしまったら、せっかく友達になったのにドン引きされるだろう。
だからとって奴らを放置もできない。しかし、あきらさまに傷つけたら問題になってしまうかもしれない。
つまり人間社会にまぎれて生きるためには明や舞、いや世間の人間たちにわからないように、深く静かに復讐しないといけないというわけだ。
悩んだ末、俺はいい復讐の方法を思いつくのだった。




