表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/49

袋の従者の役割

それからしばらく後

魔物の大群を蹴散らす勇者パーティの姿があった。

「えいっ!『水打』」

踊り子の鞭がモンスターの群れを混乱させる。

「まず僕が雑魚をやっつけます!ダークアイス!」

魔術師の広域氷魔法が、バッタのような魔物である雑魚敵を一掃した。

「くっ。危ない!ウインドショット」

襲い掛かってきた蜂のような魔物を、スポーツ少女が持っていた短剣から放たれた矢が貫く。

しかし、すべての魔物を打ち落とすことができず、何人かの仲間が上空から毒のついた針で刺されて傷ついた。

「大丈夫?ヒール!」

聖女の少女が、傷ついた仲間を癒すと、毒が中和されて仲間たちは回復する。

しかし、すでに目前まで蟷螂のような魔物が迫っていた。

「……皆殺しにしてやる」

近づいてきた魔物たちと接近戦が始まった時、乱暴な少年の持つナックルが飛ぶ。瞬く間に多くの虫型の魔物が血反吐を吐いて転がった。

「ちっ。雑魚ども!正義の剣を食らえ!」

勇者の剣から出た炎が、カブトムシのような魔物をやきつくす。

こうして、勇者パーティは魔物の集団を倒していった。

「あっははは。俺たちは無敵だな!」

ハイタッチして仲間同士喜ぶ彼らの後ろから、荷物持ちの少年がおずおずと近寄ってくる。

「あ、あの、もういいかな?」

「ああん?さっさとしろよ!」

乱暴な少年から冷たい目でみられながら、たった一人戦いに参加しなかった荷物持ちの少年は、魔物に近づいて道具袋を広げた。

「えっと……『吸収』」

道具袋が開かれると、魔物が今まで集めた生命力が魔力に変換されて、袋に収納されていった。

「ふ、ふう……終わった……」

ホッとする少年の尻が、いきなり蹴飛ばされた。

「何しているんだ。さっさとよこせ」

蹴り飛ばしたのは、美少年である。

「は、はい。えっと……魔法玉でろ!」

少年が念じると、袋から色とりどりの玉が出てくる。

「よし。これを吸収して、レベルアップするぞ」

勇者とその仲間は出てきた玉をひったくると、飲み込んでいく。

魔物の魔力を取り込んで、勇者たちはますます強くなっていった。

「あ、あの……俺は?」

『何いっているの?戦いの役に立たない荷物持ちがレベルアップしてどうするのよ」

自分にも魔法玉を分けてくれるように頼んだが、鞭使いの少女から冷たく断られる。

「そうだ。荷物持ちにレベルアップなんて必要ないだろ」

「あんたは道具袋だけもってくればいいのよ!」

乱暴な少年やスポーツ少女からもそういわれてしまう。

無力な荷物もちは、勇者たちから馬鹿にされながら、レベルアップもできずについていくのだった。


六人の英雄-勇者・鞭使い・武道家・盗賊・魔術師・聖女は、順調に旅を続けて各地で魔族を駆逐していく。

しかし、ただ一人の例外-戦いの役に立たないとして、仲間はずれにされた荷物もちの少年には、何一つ富も名声も与えられることはなかった。

「ほら、さっさと運べよ。グズ、ノロマ!」

勇者となった美少年からは、容赦なく大量の戦利品の運搬を命ぜられる。

「……いい気なもんだな。俺たちが戦っているというのに、見ているだけかよ」

武道家となった少年からは、ことあるごとに因縁をつけられて殴られる。

「あんたは役に立たないんだから、さっさと料理をつくりなさいよ」

鞭使いからは、旅の間の料理当番を命じられる。

「遅い!さっさと回復ポーションを出しなさいよ!使えないわね!」

盗賊となったスポーツ少女からは、戦闘のたびに回復薬を出すのが遅い、気がきかないと詰られた。

「……なんで紙を用意してなかったんですか?僕の本は戦闘ごとに紙を消費するんだから、用意しておいてくれないと。そういう雑用をするのがあなたの役割でしょう?」

魔術師からは、毎回不手際を責められた。

何一つ尊敬されることもなく、ただ雑用とサンドバック要員を押し付けられて、何度も荷物もちの少年は逃げ出そうとするが、そのたびに連れ戻されて折檻を受ける。

「あの、大丈夫?ヒール」

散々暴行を受けた荷物持ちを、聖女の少女が優しく癒してくれた。

「ありがとう。いつも治してくれて」

荷物もちの少年は気弱そうに礼を言うが、彼女は笑って受け流す。

「気にしなくてもいいよ。君のおかげで、簡単に大量の荷物が運べるからすごくたすかっているし、魔物たちの魔力を道具袋を通して魔力玉に精製できるんだしね。君がいなかったらレベルアップもできないし、魔物の体を売ってお金を稼ぐこともできない。私たちはすごく助かっているんだよ」

聖女の少女はそういって明るく笑う。

勇者の中でたった一人だけ自分の役割を認めてくれる彼女に癒され、荷物持ちの少年は恋心を抱いた。

「俺、頑張るよ。みんなの役に立てるように」

「うん。君にはすごく重要な役割があるんだからね」

聖女はそういって、荷物もちを励ました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=569357356&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ