真の神へ
一千万年後
良樹が作った世界は、着実な発展を遂げていた。
自分の体である惑星のあちこちには、人に似た生物が忙しそうに動き回っている。
彼らは全体的にみると人型だが、複眼と長い触手のような口を持っていた。
「神様。これが今までの研究成果でございます」
一人の女性型をした生物が、恭しく立体映像を映し出す。
3Dで浮かび上がったその映像には、惑星とその周りを回る二つの光体ごと包み込むフィールドが出来上がっていた。
「核融合反応を推進力に変えて、神のお体を動かします。これで、シャングリラや神の元いた世界を探すことができるでしょう」
「よくやった。ダニエル」
高いビルの最上階にいた男は、偉そうにうなずき返す。
彼だけは人間の体と顔を持っていた。
「いえ。私たちを生み出し、知恵を授けてくれた神に対しては、無限の恩がございます。あなたの為ならば、魂すらささげて悔いはありません」
ダニエルと呼ばれた女の体を持つ生物は、恭しく跪いた。
「いい加減に忘れらればよいのだがな。だが、私はあの時の屈辱を忘れられないのだ。暗い闇の中で、たった一人で永遠のような孤独を味あわされた絶望を……」
男の声に憎悪が混じる。
「そのせいで、お前たちまで利用してしまった。お前たちの魂を記憶媒体として、無限の知識を保存していき、私は一人で科学と魔法の研究を続けようと思っていたのだが、その影響でお前たちが知能を持ってしまい、最後には人間レベルの存在にまで進化してしまうとは。正直、それがお前たちにとってよかったのか」
「いいえ、神のおかげで我々はムシケラからヒトに進化できました。ダニ人の王として、深く感謝を申し上げます」
ダニエルはそういって、深く頭を下げた。
「お前たちダニ人の忠誠は、心から有難く思う。私も未練だと思う。だが……」
「わかっております。神の心を癒すには、「ニンゲン」の体と魂が必要なことを。そして、神の怒りはわれらの怒りでございます。六人の裏切り者に復讐を。神を犠牲にした女神イホワンデーに天罰を」
それを聞いて、神-田村良樹は苦笑した。
「そうだな。自分たちが平穏に暮らすために、何のかかわりもない私を犠牲にした落とし前だけはつけてもらわねばならん。1000万年の恨み、きっちり晴らしてやる」
そういって、良樹は命令を下す。
「では、いくぞ。目指すは異世界シャングリラだ」
良樹の命令と同時に、一つの巨大惑星が動き始めるのだった。
シャングリラ世界
神殿には、大勢の平民が押し寄せていた。
「魔王を倒した勇者様!」
「われらにあまねく恵みをもたらす救世主様」
平民たちは、世界を救った勇者に惜しみない賛辞を投げかけていた。
「わが民よ! 勇者たちは魔王を追放し、世界を救ってくれた。私は何度も慰留したが、彼らの決意は固く、元の世界に帰られるとのことだ。せめて感謝をささげ、永遠に彼らの偉業をたたえようではないか!」
王が杖を振るうと、勇者がもっていた武器が自然に浮き上がり、光の玉となって空に消えていく。
「勇者たちよ!あなたたちの伝説の武器は女神の元に返したが、あなたたちが得た力はそのままもとの世界に持ちかえることができるだろう」
その言葉を聴いて、勇者たちは嬉しそうな顔になった。
「勇者様たち。お名残惜しゅうございます」
そうつぶやいて涙を流すのは、女神の巫女アリエス。
「アリエス、それからみんなありがとう。俺たちは元の世界に帰っても、君たちのことは忘れない。何かあったら、いつでも俺を呼んでくれ」
人々に崇められ、すっかり英雄に進化した勇者の美少年が手を振ると、人々は涙を流しながら手を振る。
「勇者様!鞭使い様。武道家様、盗賊様、魔術師様、聖女様!」
「あなた方は、私たちの世界で永遠に伝説の英雄たちとして感謝をささげられるでしょう」
民たちの拍手の中、六人の英雄は魔方陣に消えた。




