真珠といっても
俺たち一家がパニージ自治領に越して来て四年が過ぎた。
ダイは基本的な学びを去年から、ケイは今年から始めている。小さい頃から家で絵本の読み聞かせをしていたせいか文字は覚えているし、ゲーム(スクラブルとかドミノとか)をすることで数や簡単な足し算や綴りも出来ているので習得は早そうだ。
それよりもアンが一人だけ仲間外れは嫌だと猛烈に勉強している。兄妹仲は良いんだけど、それだけに一人だけ離された気がして寂しいんだろうな。
ダイとケイはワウ教授の奥さんシーラさんと、ニーズ教授のご主人スリザさんが教えてくれている。
パニージ塾近隣の村の子どもたちが皆集まって彼らから学んでいるのだ。俺たちがここに来る前から集会所が建てられていて、そこを午前中は学校として使用しているそうだ。
仕方ないのでアンには俺が一時間ばかり文字や数字、簡単な計算を教えているんだけど。意欲があるから覚えるのがむちゃくちゃ早くてびっくりしている。
仕方ないから、子ども向けの読み物を生産魔法で五冊作って子ども部屋に置いた。
内容は開拓民の生活や暮らしを書いたものとか、扉を開けて別の世界に行く話とか、母親をたずねて遠い国まで一人旅とか。子どもたちの中でアンが一番熱心に読んでいる。
俺が明日から採取に行くから、その間に自習出来るように足し算引き算の問題を三十問と以前書いた英雄劇の台本をアンに渡したらすごく喜ぶんだものなぁ。変なやつだ。
ダイは最近陶芸に夢中になっている。一度陶器の村に連れて行ったらすごく熱心に陶器を見ているものだから工房の手伝いを十日に一度くらいさせてみてる。このまま陶工になるのかな?まあ本人次第だけど。
陶器の村、絹布を生産する村、木綿を生産する村もパニージ自治領内に新しく作られて自治領の経営はそこそこ順調らしい。
俺は今も年に何回か採取の為に家を開ける。
その時に必ず少し離れた漁村の外れの磯場に寄ることにしている。岩場だから船が近寄れず、人もあまり来ない場所だから、真珠の養殖の実験をこっそりしているんだ。
直径一・五ミリくらいのケシ粒のような丸く磨いた貝殻を牡蠣をふた回り大きくしたような二枚貝の中に入れて、海水を通す結界ごと岸壁に貼り付けているだけなんだけど。
二、三年で八ミリくらいの真珠が出来るみたいだ。一年だと三ミリいかないくらい。しかも死んでしまう貝も結構ある。
けれどもこの二、三年で直径五ミリくらいの真珠は二十粒ほど、直径八ミリ前後の物も十二、三粒取れた。形は少々いびつだし色も揃ってないけれど。
卒業生として正式に(過半数の教授の承認を受けるのが条件)パニージ塾が認めた相手にしか渡さないブローチだ。年に何人もいないくらい。
そんな人たちに渡す分としてはこれくらいあればしばらくは足りるんじゃないかな。
大きい真珠は…一つか二つは俺が取ってネリーのブローチにでもするかな。真珠は汗とかにも弱いから扱いに困るんだよ。まぁとりあえず、ここは撤収。あとはジュニアと相談しよう。
「タイク。あなたって人は…」
ジュニアの家を訪ねたら、同居している助手のコル君が買い物に出かけたところだった。
それで一人でいたジュニアにちょうどいいからと話をしたら頭を抱えられてしまった。
何故だ?
ただ真珠を見せて、真珠の養殖方法を打ち明けただけなのに。しかも真珠といってもどれもいびつだし色も大きさもまちまちなんだぞ?
商品価値としては低い筈だよな。ペンダントはともかくネックレスには出来ないし、小さい真珠なんてブローチとか指輪にしても一粒では見栄えがしないし。
「タイク。真珠は真珠であるというだけで価値があるのです!」
え?そうなのか?…でもなあ。
一応、ジュニアに小さい真珠は全部預けた。直径八ミリ以上の真珠は二粒だけ俺がネリーの為に取って、後はジュニアに渡そうとしたんだが…一粒は受け取ってくれたものの、それ以上は断られた。高価過ぎるって。
えー?こんなのが高価なの?いびつなのに??
俺がそう言ったら、ジュニアにひと粒かふた粒をギルドに持って行って反応を見ろって言われた。ただし養殖のことは秘密にして。




