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この世界はある意味世知辛い

ネリーさんの求婚は突然だったからすごく驚いたけれど。家に帰り、落ち着いたら頭も少しは動いてきた。


王都だから人が多いとはいえ人口の半分近くは貴族。庶民とはほぼ関係ない。この国は一夫一妻制だから側室にということもない。国王にだって側室はいないんだから。


そして宿屋や食堂を主に使うのは行商人か冒険者だ。あとは傭兵くらいかな?たまに近所の人も使うけど、頻度としてはそう多くない。

店同士の交流も宿屋は概して少ない。もちろん市場の商人とか近所との付き合いはあるだろうけれど。そういう人たちの中にネリーさんがこれと思う人がいなかったということなんだろうな。


行商人は王都や他の町と村々を回る仕事だ。冒険者が王都に来るのは割りの良い仕事をする為か、情報を仕入れる為。あとは行商人の護衛として王都に来る。

どちらにせよ、王都にずっと居るわけではない。

船乗りもそうだけど、この世界では定住する家を持たない人は結構いる。中には家族で旅をしていたり、どこかに家を買ってそこに妻子を住まわせてたりする人もいるけれど。



ネリーさんが俺を選んだのは、俺が(王都の近くに)定住すると思われるからというのが理由の一番じゃないのかな。

そして薬師ならほぼ食いはぐれることはない。それが理由の二つ目。

後は俺に多少は何か気に入るところがあったんだろうと思う。きっと。そう思いたい。思わせてくれ。俺にはどこだかまるきりわからんが。


この世界の結婚は恋愛の結果というよりも、妥当だからという理由で相手を選ぶことの方が多い。世知辛いけど二十歳までに結婚しない女性は行き遅れなんて言われるんだぞ。

日本ではとうに死語の世界だ。でもそれがこの世界では生きてるんだから。まあ寿命が短いせいもあるんだろうけど。王都では五十歳を越えると年寄り扱いだ。俺の育った村だと長老とか呼ばれるもの。そう何人もいないからな。


幼馴染とずっと相思相愛とかいうケースならばすんなり結婚出来るだろうけど、そんな相手がいない場合は結構条件をつけて積極的に探す。職業とか財産とか年齢とか。どんな暮らしになるかとか。そんなことを色々考え合せて「まあいいか」という相手に求婚するんだ。男も女も。

実際、王都に帰ってからエドワード様の厨房のコックさんが自分の娘を紹介しようかとしきりに言ってきたからなあ。新しい何か(ソースとか料理とか)を欲しがってるのミエミエで。何だか億劫で足が向かなくなったもの。そんな奥さん、スパイみたいで嫌過ぎる。俺じゃなくてレシピと結婚させる気かって思ったって悪くないよな?


そして結婚に関して、特に王都では女性に主導権があったりするらしい。王都に入って来るのは男の方が多いから。女性の数の方が男より少ないんだ。

だから女性からの求婚は珍しくないし、マークさんによると男からの求婚は断っても良いが女からの求婚を断ってはいけないという不文律が王都にあるらしい。

所変われば…って本当だ。ローカルルールって教えてもらわないとわからないよな。

(作者注:そんなことはありません。男にも断る権利はあります。マークさんはとにかくタイクに結婚して王都に居ついて欲しい一心で嘘をついてます。)


そして俺としては嫁に来たいと言ってくれる人を断る理由がない。ネリーさんは可愛いし、はっきりきっぱりしているけど優しいし。

幸いこの家の部屋には余裕がある。ネリーさんが結婚した後、どんな仕事に就きたいかも訊いてみないとな。でもとりあえず。

俺は明日の求婚の為の準備を始めた。


翌日の夕方前。前世の日本だと午後三時頃。

「ワイの店」に俺が入ると、ネリーさんが家族に声をかけた。

やがて皆が集まって一つのテーブルを囲んで座る。俺の前にはネリーさんのご両親が、両隣にはネリーさんとネリーさんの弟ジェイ君がいる。俺は親父さんと女将さんに頭を下げた。

「僕とネリーさんの結婚をお許しください。僕は風来坊だけれど王都の近くに住んでいるのでネリーさんはいつでもご家族に会いに来られます。ネリーさんが幸せに暮らせるように精一杯頑張りますから。」

親父さんも女将さんもジェイ君も頷いてくれた。

俺は親父さんたちに結婚を許してくれたお礼に王都の北にある村で作っているワイン(この世界でワインは結構高価。ビールとビールを蒸留した麦焼酎みたいなビィトという酒が大衆用として出回っている。)と紙に包んだ銀貨十枚(一人暮らしの生活費三ヶ月分くらい)を渡した。


そして、ネリーさんには。

生産魔法で昨日作ったプラチナのチェーンに通したプラチナのペンダントを贈る。台座の裏には魔力を結晶化した魔晶石を埋め込み、表にはグリーントルマリンを嵌めてある。

指輪、とも思ったんだけどペンダントの方がずっとつけていられる。家具を傷める心配も無いし。

あともう一つ。髪留めを贈った。プラチナでカーブのついたクシのような物。背の部分には小さなピンクトルマリンを並べてある。これならそんなに目立たないだろう。

ネリーさんはプレゼントを見て驚いたようだったけれど、とても素敵な笑顔を俺に見せてくれた。





櫛は苦死に通じるといわれ、

普通の贈り物にするのはあまり…です。

特に気にする方もいらっしゃいます。

でも、江戸時代は求婚の印でした。

男性が好きな女性に櫛を贈ることは

「私と苦労も死も共にしてください」

という意味だったそうです。


タイクは前世で時代小説とか好きだったのかしら??

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