そろそろ一人立ち
俺がこのパニージ塾に入って三年が過ぎた。薬師志望でここに一年以上いるのは珍しい。まぁ周りの教授たちにはジュニアの研究に役立ってると見なされているし、研究も好きだと思われてるから皆何も言わないけど。俺はもう薬師なんだよな、確か。
うん。ジュニアの検証で上位ポーションの代わりになるポーションは俺が作れば完全回復薬になったし、他の人が作れば八割は回復する薬になることが証明された。リハの港で大きな事故があって証明されたことだから、あまり喜べないけど。
魔力回復薬(魔力ポーションとジュニアが名付けた)はやはりクッキーの形で売り出すことになった。一度に食べる量は二個までの制限をつけて。いや、別にそれ以上食べたって構わないけど。何故か一個で五割くらい、二個で八割くらい魔力が回復するけど、三個食べても変化無しなんだよ(感覚で分かるだけだから曖昧なの)。不思議だよなぁ。
おまけにこれは検証出来た後の方が色々大変だった。調子に乗って魔法を使っちゃあクッキーを食べてまた魔法を…のエンドレスをして体力を使い果たして熱出したバカがいたりしたんだよ。うちの塾のユーマ教授とかサーク教授とかもだけど。
解毒剤のレシピも公開にこぎつけたし。うん。蛇毒用と魔物の毒用の二種類。性質が全然違う毒だったから二種類必要だったんだ。
これの検証は冒険者と言われる人たちが率先してやってくれた。
この世界には魔物がいてダンジョンがあると教わったけど、魔物を倒してその皮や肉を持って帰って売ったり、ダンジョンでしか見つからない物を探したりする人たちがいる。それが冒険者。庶民の次男三男が就く職業としては就きやすい職業ではある。
魔物の皮は牛や豚の皮よりずっと丈夫で人気があり、肉は単に珍味とか美味いとかだけでなく、精力がつくとか言われていて高価で取引されている。
危険だけど上手くすれば金持ちになれるし、他の職業に就く為の資金稼ぎをする人もいる。商人の護衛として正式に雇われたり、兵士や騎士になる人もいるんだとか。
で、そういう人たちに検証してもらった結果、解毒剤は確かに効果があると証明された。
商人(行商人もだけど、買い付けの為に旅をする店舗持ちの商人も多い)や冒険者だけでなく、兵士にも需要があった。
おかげでジュニアは相当領主だか王様だかに褒められたらしい。去年正式にこの塾と周りの土地(相当な広さ)を塾の自治区として認めてもらえたくらいには。
そのおかげで畑や果樹園も増えたし養蜂も順調に巣箱を増やしている。
ここを出てもやっていけそうだと思う。生徒も随分増えたことだし塾もそうそうなくなりそうにないし。
実際、ジュニアの弟子志願者も何人かいる。今は他の教授たちの下について学んでいるけれど、教授たちいわく
「ジュニアについても大丈夫そう」なのが二人ばかりいるらしいから、俺がいなくなれば誰かが弟子になるだろう。
「ジュニア。お世話になりました。俺、そろそろ行きます。」
「…引き留めたいのはやまやまです。でもあなたのおかげでこの塾は知名度も上がりましたし生徒も増えました。お好きなように。タイク。」
ジュニアはそう言うと宝石を嵌め込んだ大きめのブローチをくれた。台座には飾り文字で「パニージ塾」と彫り込まれている。
「台座は銀を少し混ぜた金。僕を入れて九人の教師だから九つの宝石が嵌め込まれています。」
俺はブローチを観る。中央に黄色いトパーズ、周りを囲むのはアメジスト、サファイア、ルビー、エメラルド、トルマリン、アクアマリン、ガーネット、ペリドット。
そしてその輪から外れた所に小さい真珠が一つ。
「その真珠があなたです。タイク。真珠は厳密には石ではないから宝石ではない。まだあなたがここの教授ではないようにね。けれど真珠は尊い宝玉です。僕たちにとってあなたが得難い人財なのと同様に。タイク、いつかあなたがここに戻って来たなら台座に嵌め込むあなたの教授としての宝石を何にするか皆で考えますからね。」
「ありがとうございます。ジュニア。」
俺はそれ以外に言う言葉を見つけられなかった。




