何で俺なの
「すみません。そういう訳で、あなた。崎本拓人さん。異世界に生まれ変わってくださいませんか?」
「はい、いいですよ…って言うわけがあるか!何で俺なわけ?」
「ですから、さっきの事故であなた、子どもをかばって亡くなったでしょう?ご両親も亡くなっていて恋人も…」
「そんなことはどうだって良いんだよ。俺は天国でのんびりしたいの!母さんが死んで、まあこっちはだいぶ前だからともかく、半年前に父さんが死んでさ。俺自分の仕事しながら手続きとか申請とか相続のあれやこれやが片付いたばかりなんだぞ。ヘトヘトに疲れてるの。しばらく休みたいんだよ。」
「また同じ世界に生まれ直します?大変ですよ?」
「いや、だから」
「選択としてはどちらかになります。私としては私の世界に来ていただきたい。今なら特典もつけます。」
「…あんた、神様なのか?」
「神様か、と聞かれたら困ります。管理者、くらいですね。ある程度住民に信仰心が生まれないと神とは呼べないでしょうから。
私が管理している世界はあなたのいた世界と比べると小さいし、人口も少ない。文明も停滞しています。魔法があって、魔獣と呼ばれるものもいます。ダンジョンというか、魔獣の湧く所もありましてね。魔力のある世界には必ずありますが。」
「魔力から魔獣って生まれるのか?」
「まあざっくり言うとそうです。それはともかく。
あなたにはあなたの世界で身につけた知識や情報を持って生まれていただきたい。それがどこまで役に立つかはわかりませんが。」
「それに何の意味があるわけ?」
「はっきり言ってあなたの世界って特異なんです。特にあなたの国。識字率がほぼ百パーセントって。計算もほぼ全員出来るでしょう?宗教にはむちゃくちゃ寛容だし。その割に信仰心は薄いけれど。
でも、だから他の世界の管理者や神にあなたの国の人って人気なんです。あなたの世界の神様はあんまり他の世界にやってもいいなんて言ってくれないから、私の所に回ってくる機会なんて今回が初めてだし、今後あるかどうかもわからないんです。」
「だからなんで?」
「あなたの国の人が私の世界のような所に生まれ変ったり移転したりすると、停滞している文化や文明が進むんですよ。何故か。」
「あー。それはあれだ、ゲームとか小説…俺たちの世界ではない、架空の世界を舞台にした娯楽が普及してるせいだな。俺はあんまり詳しくないけど。」
ハ◯ー・ポ◯ターも三巻くらいしか読んでない。ゲームもパズルとかばかりだし。戦隊ものとかは、ちょっと違うよな。
「それでも、どうかお願いします。やはり家族とか恋人とかが生きているとその方々の思いが魂をあちらの世界に引き留めたがるので絶対にあなたの世界の神がくれないんです。頼みますよ。」
「あーもう仕方ないな。そんなにすがりつくなよ。生まれ変わりだっけ。してやるよ。で、そちらに生まれたとして。何か能力とかさ、付けてくれるわけ?」
「生活魔法といいまして、水と火を出す魔法と身体や衣服を清める清潔魔法は皆が持っています。
あなたには物が何に使えるか、何になるのかが分かる鑑定の能力と、物を組み合わせて何かを生み出す生産の魔法と、人として持てる最大限の魔力を差し上げようかと。」
「すまん。防御魔法もくれ。攻撃魔法はいらんから。生きられなけりゃ意味がないからな。」
「それでは何か武器の適正を。槍か剣…」
「弓にしてくれ。至近距離の攻撃はちょっと…」
「わかりました。そうします。何をしてもしなくても構いません。好きなように生きてください。ただ幸運を祈ります。お元気で。」
「おお。ありがとな。」
でも俺、本当に休みたいんだけどな…