リハの港 パニージ塾
カシャの港から船で五日。
リハの港に無事に着いた。今年、村を出たのは男は俺だけ。女は二人いたけど。カシャの港にある宿屋で働くのが一人、洋服屋の針子になるのが一人だった。
カシャの港の五、六倍の規模のリハの港は本当に賑やかで活気にあふれている。俺は船賃の代わりに船で働かせてもらって金の節約をした。結構ハードだったけど、毎日農作業の手伝いしてたからな。何もしないで五日もボーっとしていたら頭も身体も鈍りそうだと思って。
仕事は船の清掃。部屋に入って清潔魔法をかけ、廊下や階段で清潔魔法をかけ、甲板で清潔魔法をかけ…
普通の魔力の持ち主だとノルマの半分くらいで魔力切れを起こす。だから俺も昼食を食べると少し横にならせてもらって食休み兼昼寝をする。そして昼寝から覚めるともう半分。終わると夕食。食べ終わったら自分に清潔魔法をかけて疲れきって眠る。ぐっすり。
という振りを五日間。楽勝だった。揺れる船の上で歩く方が慣れなかったな。
本当に魔力切れを起こすと丸一日は使いものにならないから船乗りたちも気を使ってくれるし、食事は腹いっぱい食べるように勧めてくれた。家の食事は倹しかったし、腹八分目よりやや少ないくらいだったから嬉しかった。
魔力ってさ、食べて寝ないと回復しないんだって。魔力を回復する薬があれば良いのにな。
船員たちと港で別れた。ギルドの建物に入る。すると入り口の脇に大きな板がかけられていて、そこにはこの辺りの地図が書かれていた。カシャのギルドで教えてもらった学校を探すと、無い。
え?もしかして廃校?
不安になりながら受付窓口に向かう。そこにいる事務員風の灰色の強い癖毛の職員に
「あの、パニージ学校って…」
と尋ねると、その人は苦笑いをして
「あそこ、何年か前からパニージ塾って名前を変えて場所を移したんだ。あそこの地図からほんの少し外れた所にあるんだよ。」
そう言って立ち上がると地図の前に行って
「ほら、東の方に向かう道があるだろう?それをずっと行くと、ここには書いてないんだが小さな森がある。安心しろ、小さいから魔物もいない。その森の手前にいくつか家が建ってる。全部がパニージ塾なんだが、その中でも一番大きい、三階建ての家に塾長がいる筈だ。」
「ありがとうございます。」
「子どもの足でも一時間とはかからない。薬師志望か?」
「はい。タイクといいます。よろしくお願いします。」
「そうか。私は受付のハイラ。ポーションはいくらでも必要だから良いものが出来たら持って来て欲しい。あそこの塾生は作ったポーションや余った薬草をここで売りながら学びをしている。」
「はい。ギルド証はカシャの港にあるギルドで作りましたから持っています。これからどうぞよろしくお願いします。」
そう挨拶してギルドを出て、道を辿る。
途中、お腹が空いたのでパンに肉野菜炒めを挟んだサンドイッチを食べ、牛乳を飲む。
アイテム袋は時間経過しないし、ほぼ無限に入るからここ二年ほど、カシャの港に行く度に食べ物をチョコチョコ買っては貯めてある。船で出された食事も(食べ放題だったから)パンにオカズを挟んでサンドイッチを作っては放り込んでいた。うん、一食につき二、三個くらい。そんなだからここひと月やふた月は食べ物や飲み物には困らない。
牛乳はウチの牛を三年前から世話をしていて、毎日朝と夕方の搾乳の度にコップに一杯分を生産魔法で作った陶器の入れ物に入れては保存してきた。これは搾乳した時に飲んで良いと言われていたのを取って置いたものだ。まぁいざとなれば魔法で水を出して飲んだって良い。
さらに歩くと家と麦や野菜の畑が見えてきた。平屋の家は結構広く、二階建ての家は平屋にくっつくように建っている。その中にある三階建ての家は、二階建ての石造りの家の屋上に木造の小さな家が乗っているという感じの変な家だった。
うん。ここがパニージ塾だな。間違いなく。