中王都アステルにて
着いた街の名前はアステルというらしい。人類族第一の街であり、中王都とも呼ばれるアステルでは、多くの冒険者や貴族、商人など様々な人間がいる。もちろん王族もアステルに城を構えている。
「すごい数の人だな………………消していいか?」
「最後の言葉は聞かなかったことにしとくよ。アステルは様々な人、物質、情報のたまり場だからね。ここで手に入らないものはないって言われるくらい巨大な都市だよ。」
見渡すと確かに武器屋、食堂、さらには雑貨屋までもある。街の入り口付近でこれほどの店が目にはいるのだから街全体の店の数はよっぽどのものだろう。
働いている人はもちろん人間だったが、なかには亜人もいた。今目にはいるどの店にも一人は亜人が働いている。よく見ると奴隷かと思ったが働いている亜人は皆いきいきとしていた。人間の店員も亜人を差別せずに楽しそうに働いていた。
さらには、道行く人の中にも亜人に見えるような人は数多く見える。さすがにフードを被り、姿は隠しているが不自然はほどに周囲を警戒していた。同じ亜人にしてもどうしてこうも違いが出てくるのか。面白いものを見たと征也は口角をあげた。
まだまだ興味を引かれるものはあったがメアリー達もなにやら急いでいるらしく先ほどから依頼主の居場所を通行人に聞いている。しばらく辺りを観察しながら待っていると目的地への道のりが分かったらしく全員が集まった。
「依頼主の居場所がわかった。私達はこれから奴隷を渡しに行かないといけないからあんたとはここでお別れだね。これはあんたが出した条件、有り金の半分だよ。」
「そうか。いろいろ世話になったな。」
「最後にアドバイスをあげようか。この道をまっすぐ進むとギルド本部がある。そこで冒険者登録をすれば、あんたも冒険者になれるよ。何か聞きたいことがあるならギルドに聞きな。大抵のことは教えてくれるはずだよ。」
そういうとメアリーらは再び馬車に乗り、征也に教えた道の反対方角に馬車を走らせていった。征也はそれを見ながら内心でお礼を言い、馬車が消えるまでずっと見送っていた。
馬車が見えなくなるとすぐさま教えて貰った道を進みギルドを目指す。ギルドまでは五百メートルぐらいの一本道だが、人の多さが異常であったためかとてつもなく長く感じた。ギルドにつく頃には身も心も疲れきっていた。
もう帰りたいと思いながらギルドに入ると一瞬にして疲れが吹き飛んだ。ギルドの内部はゲームやアニメのような造りだった。受付は五つあり、受付の人は全員が美女、美少女だった。そして受付の右側を見てみるとバーらしきものがあり、冒険者達は酒を飲み、マスターはグラスを磨いていた。
見渡す限りテンプレに溢れており、征也は多少ながら心が踊った。踊る心を押さえながら受付のところに歩いていく。ギルド内にいた冒険者は熟練者は征也がギルドに入ってきたときから、そうでない者も征也が視界に入ると殺気を立てた。素人は帰れと言っているように感じた。普通の素人ならこの雰囲気に耐えられなくなり、すぐさま出ていくだろう。
しかし、それを気にしないのが征也だ。征也はなに食わない足取りで受付の美少女の前に立った。
「冒険者登録をしたいんだが。」
「はい。ではお名前を教えてください。」
「神木征也だ。」
簡潔に伝えると受付の美少女は何かの紙に征也の名前を書いた。その間も冒険者達は警戒を怠らずに殺気を放ち続けている。ちなみに征也も殺気を出すことはできる。元の世界にいたときから殺気の出し方、調整など自分の身を守るために身に付けていた。殺気は死の恐怖、いつでも死ねる覚悟等が大きければ強大なものになる。征也はそれらの要素が常人より大きくかけ離れており、恐らく征也が半分の殺気をぶつければ熟練の冒険者でも気絶するだろう。
自分も殺気を出すか迷っているとちょうど受付の美少女が征也に謎のカードを出した。
「それはステータスカードです。自分の魔力をそのカードに流せば自分のステータスがわかります。そのカードは身分証明書にもなりますので無くさないようにしてください。再発行はできませんのでご了承ください。」
ステータスカードの説明が終わると差し出されたステータスカードを受け取った。七十㎜×一五〇㎜のカードには自分の名前が記入されていた。そのカードに魔力を流してみると文字が浮かび上がった。ステータスを見てみると征也は頭に?を浮かべた。
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神木征也 男 十七歳
LV 1
筋力:???????
体力:???????
魔力:???????
耐性:???????
敏捷:???????
スキル
種言語解析、神界魔法
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筋力などのステータスが表示されていなかった。レベルやスキルなどは分かる。種言語解析というスキルに目がいったが恐らくはアルヴァータの言葉や文字が理解できることと関係しているのだろう。
(セノン、ここまでしなくても自分でなんとかできるぞ。)
征也はアルヴァータの文字は恐らく今の自分には読めないだろうと思い、一から勉強をするつもりだった。しかし、種言語解析というスキルのおかげでその必要はなくなったのだ。心配事が杞憂で終わったため少しがっかりするが、もうスキルとしてあるのだから今更どうこう言うつもりはない。これで様々な言語が読め、書くことができる。こんな便利なスキルを使わない手はない。快く使わせてもらおうと征也は決意した。
「何か質問はありませんか?」
受付の美少女の一声でステータスのことを思い出した征也はどうしようかと悩んだ。ここで聞いたほうがいいのだが、この事が過去になく、初めてのことならばいろいろと面倒なことになるだろう。だが、何も知らないままでは気分が悪い。面倒ごとになるのを覚悟してステータスカードをみせた。
いきなりステータスカードを出されたので受付の美少女は驚いていたが、征也のステータスカードを見た瞬間目を開いて固まった。額には冷や汗が見える。
「何ですかこれは……!こんなの見たことないですよ……」
「そうなのか?」
「ええ、ここで働いて六年ぐらいですがステータスが表示されないことは一度もありませんでした。」
どうやら予想は当たっていたらしい。
(こうなると面倒なことになるな。)
初めてのことならば上位の人間に相談や報告をするのがふつうだ。ギルドの関係者ならばまだ許容範囲だが、軍のような国を動かす関係者が出てきたならば最悪の事態になるだろう。それは勘弁だと一応釘を打っておく。
「あーこの事は誰にも話さないでくれないか?」
「何でですか!?これは異常事態ですよ!すぐにギルドマスターか、国家騎士団に報告しなければいけません!」
「ギルドマスターはともかく国家騎士団?とやらには関わりたくない。面倒なことになるのは目に見えてる。」
ここでの国家騎士団というのは元の世界での軍にあたるものだろう。これが表示されないほど"弱い"というのならまだ気が楽だ。周りから非難されるぐらいですむだろう。しかし、その可能性はゼロに等しい。征也は冒険者が討伐に出てやっと倒せるというレッドグリズリーを魔法一発で瞬殺したのだ。これで弱い部類にはいってしまうとアルヴァータのバランスが崩れてしまう。
では考えられることは一つステータスが"高すぎて"表示されないのだ。そうなってしまうと国家騎士団に目をつけられても不思議ではない。受付を美少女はステータスが表示されなかっことは過去にはないと言っていた。それが本当なら国家騎士団は喉から手が出るほど征也を欲しがるだろう。なぜなら征也はアルヴァータ史上最強となってしまうからだ。
征也が戦争に駆り出されれば、人類族は少なくとも有利な状況にもっていけるだろう。しかし、征也は人類族のために戦争に参加するのはまっぴらごめんだった。
そんな征也の心情を察したのか受付の美少女はそれ以上は踏み込んで来なかった。若干しょんぼりしてるが気にしない。なんてできた娘なんだろう等と考えていた征也だが一つ不安がよぎった。
はたして面倒事を避けてこれから生きていけるのかと。征也は一応神を殺す事を目標としている。その過程で誰にも関わらずに神の元まで行けるだろうか。
征也はある決断をし、再び受付の美少女に声をかける。
「……ギルドマスターになら報告をしてもいい。そのかわり俺もギルドマスターと話させてくれないか?少し聞きたいことがあるんだ。」
それを聞いた受付の美少女は、安心したように笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!今からギルドマスターのところに行くのでついて来てください!」