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人間嫌いの神殺し  作者: 蒼三晃
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世界について

征也は目の前にいる五人の奴隷商人に目を向けた。全員浮かない顔をしていた。征也が出した追加条件が気に入らないのだろう。しかし、征也が言ったことは正論なので何も言い返すことができない。そんな五人を見て、征也は満足そうに笑った。


「さぁ取引開始といこうか。まずあんたらのお願いを聞こうか。なんとなく予想はできるが。」

「はぁ、よくもまあそんな生き生きと……私達のお願いは、町に着くまで私達の護衛をして欲しいということよ。」

「やっぱりか。そんなこったろうと思ったよ。」


あぁやっぱりかという目で五人組をみた。お願いがあると言われた時から征也はある程度予想していた。先ほどの五人組の言動から見るにレッドクリズリーはこの辺りでは出現しないモンスターなのだろう。そいつが出現したということはモンスターの中の生態系が崩れかけてる可能性がある。そうなるとレッドクリズリー以外にも強いモンスターに出会うかもしれない。


そこで征也だ。レッドクリズリーを魔法一撃で殲滅した征也ならばどんなモンスターに会っても倒してくれると思ったのだろう。実に図々しい考え方である。


「まぁいいか。どうせ俺も町に行くつもりだったからな。荷物が多くなったと思えばどうってことない。」

「私達は荷物か……」


征也はこの五人を信じているわけではない(征也の場合は信じることが"できない"のだが)。しかし、いくら人間が嫌いでも取引に応じてくれた相手を蔑ろにはできない。征也が言った"荷物"とはもちろん本当に荷物だったが、征也自身の妥協点でもあった。


「それでお前は受けてくれるんだな?」

「あぁ面倒だが、行く場所は俺も同じだからな。ついでだ。」

「ついで扱いとは……まぁいい。それでお前の質問とはなんだ?」


征也はニヤリと笑いこれまでで気になったこと、この世界の常識についていろいろ聞いた。


ーさっきのモンスターはなんなのか?

A、レッドグリズリーという魔物。普段は森の中におり、草原には滅多に現れない。危険魔物として普通は熟練の冒険者が討伐にでる。


ー魔物とはなんなのか?

A、魔族の成れの果て。知能は魔族と比べて低いが、身体能力は高

く、上位種は固有魔法をもつ。殺すには体の中の魔石を破壊しなければならない。壊した魔石は回収して売ればそれなりの金になる。


ーこの世界の通貨はなんなのか?

A、下から銅貨、銀貨、金貨、大金貨がある。銅貨十枚で銀貨一枚。銀貨十枚で金貨一枚。金貨十枚で大金貨一枚というようになる。宿谷に止まる場合は銀貨一枚で五泊できるらしい。


ーこの世界にはどれ程の種族がいるのか?

A、この世界には人類族、魔人族、亜人族、エルフ族、魔族が存在している。それぞれを細かく分類するとその数はさらに多くなるらしい。ちなみに人類族は魔族、魔人族と争っており、亜人族は奴隷、エルフ族は森の中に身を潜めているらしい。


ー自分の強さを知るためにはどうすればいいか?

A、ギルドで貰うステータスカードに魔力を流せば分かるらしい。


ーギルドとはなんなのか?

A、冒険者が依頼を受けたり情報を交換する場として使われている。冒険者登録もギルドでしなければ依頼を受けられない。冒険者にはランクがつけられ下からF,E,D,C,B,A,S,SSになるらしい。強いやつは当然ランクも高いらしい。


ー魔法について詳しく

A、魔法には火、水、風、土、光、闇の六属性がある。適正は人それぞれで適正が高い属性の魔法は使える種類も幅広く、適正が小さい属性の魔法は場合によってはつかえないこともあるらしい。


等々他にも様々な事を聞き、征也の知りたかったことは大体知ることができた。


「ふむ、大体はわかった。」

「あんたの質問は知っていて当然の事ばかりだよ。あんたどっからきたの?こんな常識を知らない奴初めて見たよ。」

「あぁ田舎から出たばっかりでな、常識を知らないんだ。」


こっちの世界の田舎というものがどういったものか知らないが異世界から来ましたと言うよりも信憑性があるだろう。五人組はそれでもなあという顔をしていたが自分達も田舎という場所には行ったことがないので信じるしかなかった。


「そう言えばあんたらは奴隷商人か?」

「……奴隷商人ではないね。」


見たときからずっと気になっていた。奴隷があることは予想していたが、 五人組が連れている奴隷は見た目三十代ぐらいのおじさんばかりなのだ。これでは買いたい奴も出てこないだろう。


五人は征也の質問を聞くと眉をひそめた。またか……という顔だった。


「それじゃあそいつらはなんなんだ?見た目はともかくとして奴隷にしか見えないが?」

「こいつらは確かに奴隷だよ。だけど、ただの奴隷ではない。犯罪を起こして死刑の罪に問われている奴等だよ。」

「死刑で奴隷?悪いよくわからないんだが?」


普通なら死刑になった時点で殺されるだろう。アルヴァータでの死刑がどうなのか知らないが奴隷でいかされているのに死刑の判決はどこか矛盾しているように思えた。


「こいつらは元貴族なんだよ。いくら大罪を犯して判決が死刑でも貴族を殺すのはその家の者全てを敵にまわすことになるからね。」

「なるほどそれで奴隷か。確かに殺さずに罪を償わせることができるな。だけど奴隷って死ぬより辛いんじゃないか?貴族が黙っているとは思えないけどな。」

「あぁ確かに奴隷は死ぬより辛い。だけど奴隷になる場所によっては天国とでもいえるんだよ。」


よく分からなかった。奴隷なのに天国というのはそれは奴隷と言えないのではないか。征也はもう一度深く考えてみた。するとある一つの考えが浮かんできた。


「まさかそいつらを買い取った奴はそいつらの家族か?」

「そういうことだよ。買い取ってしまえばそいつはもう自分の所有物だからね。どんな仕打ちをしてもかまわない。それはこれまで通りの生活を送らせてもかまわないってわけだよ。」

「ほーなるほど。貴族様は犯罪も起こしても良いってことか。」


それなら例え奴隷になったとしても彼らは多少制限がつくがこれまで通りの貴族の暮らしができる。他の奴隷や犯罪者が聞けば怒り狂うだろう事実に興味なさげに答えた。


「言い方は悪いが、そういうことだね。私達は、こいつらを買ったお客様のところに届けに行くところだったんだよ。」

「あんたらの事情はわかった。でも何でこの仕事をしてるんだ?裏社会で亜人の奴隷を売ったほうがよっぽど金になるんじゃないか?」


いくら貴族の奴隷を貴族に売る(この場合は返すに近いが)にしても貴族の犯罪者なんてそうそう出てこないだろう。それなら亜人を売ったほうがまだ金になるのでないか。征也はそう考えていた。


「確かにね。でも、それは人間のクズがやることだ。いくら私達でもそこまで墜ちることはできないよ。」

「自分等はもともと軍の者だったんスよ。軍にいた頃に亜人達にはいろいろ世話になったんス。その亜人を裏切ることは国が何と言おうとできないっス。」

「お前らにもいろいろあるんだな。」


周りから見れば征也はいい人に見えるだろうが内心は別の事を考えていた。

(おぉ、あのリーダーぽい女以外の奴、初めて話したんじゃねえか?)

やはり征也にとって自分以外の人間の事情などどうでもよかった。


「もういいかい?これ以上は何も話せないよ。」

「あぁいろいろと参考になった。」

「それじゃあそろそろ出発しようかね。明日までには町につきたい。」


結構な時間話していたのか、もう夕暮れ時だった。征也と元軍人の五人は馬車に乗り込んだ。ちなみに馬車の中は中々に広かった。六人乗ってもあとニ、三人は余裕で入れそうだ。馬車の後ろには貴族奴隷が入っている檻が繋げられていた。奴隷達は楽しそうに話していたのか。奴隷には見えない光景だ。


全員乗り込み三人の男衆の中の一番筋肉質の男が馬を叩き馬車は動き出した。脳筋ぽいのに意外と器用だったので征也は驚いた。


「さっきから不思議に思ってたんだが、あんたは私達を非難しないんだね。亜人の奴隷ではないにしろ私達は奴隷を扱ってる仕事をしてるのに。」


しばらく馬車に揺られていると不意にリーダーぽい女が征也に聞いてきた。


「あんたらのやっていることは端から見れば確かによく思われないことなんだろう。奴隷を解放しろだの、奴隷商人は悪人だの。でも、それは正常な人間の考えだ。」

「あんたは正常じゃないというのかい?」

「どうだろうな。どんな酷い仕打ちを受けている奴を見てもどうでもいいと思えてしまうのが異常ならそうなんだろう。」


征也にとって人間とは忌み嫌う存在であり、必要以上に関わりたくない存在でもある。誰がどんな事をしても、されてもそれは自分には関係ないことで関わろうとはしない。人間に対して無関心なのだ。征也はそれが常人から見ると異常であることだと理解している。しかし、征也にとってその考えは『普通』なのだ。地獄のような生活のなかで染み付いた価値観だ。誰が何と言おうとその価値観を変えることはできないだろう。


「はぁ、一体どんな人生を送ればあんたみたいな化け物になるんだろうね。」

「産まれた時から奴隷のほうがマシだと思える生活を送ってたとだけ言っておこう。」


リーダー格の女は征也の心の闇を見抜いているようだった。その心の闇の深さ、そしてそれを抱えながら今平然としながら自分と話すことができる征也が化け物に見えたのだろう。


「姉さん、その小僧が化け物ってなんすか?」


どうやらわかっているのはリーダー格の女だけのようだった。他の奴らは頭に?を浮かべている。


「こいつの中にあるのはどす黒い闇さ。よくこんな闇を抱えながら正常でいられるもんだよ。普通なら心が壊れてもおかしくないってのに。」

「この小僧に会って間もないのにもうそこまで見抜いたんスか?流石姉さんスっ!!」


おそらく今の説明では半分も理解できなかっただろうが他の奴らもリーダー格の女に羨望の眼差しを向けていた。仲間から頼られているのが分かる。


「よくそこまで分かるな。」

「経験を積んだ女の目をなめるんじゃないよ。」


どうやらこの女は中々に侮れないらしい。征也は自分の中の危険人物リストにその女を入れた。おそらく町につけばすぐに別れ、もう二度と会うことはないだろうが、警戒するに越したことはない。


その会話が終わると征也はもう喋らないようにした。自分の知りたいことは大体分かったし、これ以上喋るのは何かまずいような気がした。黙っている征也を気にせず五人は新たな話題に入った。


ちなみにリーダー格の女はメアリー、魔法使いのような格好をしている女がリリア、馬車を動かしている筋肉質の男がダイン、口調が『~す』の奴がシビラ、もう一人の男がカイズだった。


馬車に揺られて約一日がたっただろうか。レッドグリズリーから一度も魔物に遭遇しないまま、目的の町の前に着いた。




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