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07話 まゆたまの輝き

 あなたは何かをする時に周囲の雑音が気になりますか?

 この質問にクウは、必ず「いいえ」と答える。


 そもそも物事に集中するとは自分自身の問題であり、他人や環境に依存している時点で考え方に甘えがある。特に何かしら人のせいにばかりするメイド少女は不合格だ。

 自分なら例え何があっても、周囲に流されない自信がクウにはあった。


 しかしその考えは、現時点をもって改めるべきだと少年は思い知った。

 クウはゲームを中断し、部屋の隅にいる原因に話しかける。


「いい加減、人の部屋でマジ泣きすんなよ」


「だっでぇー、だっでぇーまひょうがじぇんびゅだめだっだんだんだみょん」


「何言ってるか全然わからん」


 原因はことりだ。部屋に飛び込んできた瞬間から大泣きしていた。

 鼻をすする音と嗚咽が騒音レベルに喧しく、気になって仕方がない。


「だって、だって魔法が全部ダメだったんだもん!」


「ジジイのコレクションも数撃って外れたのか……」


「世界を地獄に変える鬼の召喚術や、世の為政者を意のままに操る呪術、更には二次元の嫁を現実にする禁術も試したのに、全部失敗したんですよぉ」


「逆に、使えたらどうする気だったんだ?」


 テン秘蔵の魔法コレクションもこれで全滅だ。

 自分の魔法探しという最初の一歩での挫折に、ことりの涙は止まらない。


「邪魔だから、自分の部屋で落ち込めよ」


「それだと私が構ってもらえなくて、寂しいじゃないですか」


「うわぁ。こいつ、めんどくせえ」


「ううう、御館様も真っ青になってお部屋で頭を抱え込んでいて……

 情けないやら申し訳ないやらで、私もいっぱいいっぱいなんですよ」


「さすがのジジイも愉快痛快とは言えなかったか」


 いつものように笑い飛ばしてくれれば幾分かはマシだったのかもしれない。

 陽気な師匠が本気で凹んだ後姿は、想像以上に弟子の心を抉っていた。


 泣きじゃくることりを前に、クウはやれやれとため息をつき、


「しゃーねえな……今からマジティア始まるけど、一緒に観るか?」


 ポンポンとソファーを叩いて、隣へ座るように促した。


 ことりが落ち込んだ時はクウの部屋で時間を潰す。それがいつものパターンなのだ。

 少年は機嫌が良くなるまでメイド少女の相手をする覚悟を決めた。


「……観る」


 トコトコ、ポスン。と弱弱しい擬音をたてながら定位置へ座った少女は、「いつもお世話しているんですから、これぐらい当然です」と反論するだろうが、なんだかんだで少年に甘えている事実に気付いていなかった。






 ルーカディアの三つ目の特性、魔法産業。

 古来より魔法と月は密接な関係であることが多い。

 その特性を利用し、月面で得られる力で特殊鉱物や魔工技術、儀式理論などの地球では不可能な新技術を産み出す。この国の誕生はそんな理想を追及した結果でもある。

 現在、ルーカディアは新魔術開発の舞台として名を轟かせ、技術交換を名目にした留学や研修が盛んに行われることで、世界中から魔法使いが集まっている。

 そうして集まった技術は、国内で様々な形で提供され、他国からは「魔法の遊園地」と呼ばれるほど魔法が身近なものとなっていた。


 魔法使いのスポーツ、マジティアもその一つだ。


 今日も画面の向こうで、選手達の技が華麗に咲き誇っている。

 魔法はまさに十人十色。各々の特性に合わせ極限まで練り上げた術はまさに絶技。

 一流の魔道師達から生まれる超常現象は、ギアカードを繰り出す瞬間も、技が格好良く決まった時も、人々の胸を高鳴らせ、老若男女を問わず夢中にさせる。


 そして中でも、ことりを惹きつけるのは――とある光だ。


「きれい……」


 試合中、魔法使い達が全身から放つ、強烈な輝き。

 人によって光の色や強さもバラバラなのに、なぜだか眼が離せない。

 そして見ていると胸が熱くなり、自分に元気を与えてくれる光だ。


「あれはまゆたまの発光現象だよ。ジジイに習ったろ」


 口が半開きになっていたことりへ、クウは肩をすくめて話しかけた。


「まゆたまって確か、魔法使いさん達の魂のことですよね?」


「正確には、まゆたまっていうのは全ての人間に存在する魂の核のことだけどな。

 魂魄っていうのは心のエネルギーを生み出す核となる深層部と、そのエネルギーを魔力に変換する表層部の二層構造だ。んで、核の部分は魂魄が成長する瞬間に特殊な波長を産む。それが肉体に宿る魔法と同調して全身に発光現象を引き起こすんだよ」


「つまりあの光は、RPGでいうレベルアップですね」


「まあ、そんな感じ。 まゆたま自体は誰にでもあるけど、ああやって光るのは魔道師だけだから、いつの間にか『魔法いの魂』と呼ばれるようになったんだよ」


 ことりのふんわりとした情報が、クウによって補足される。

 普段はムスっとしているのに、魔法の話をするクウの表情は少しテンと似ている。

 二人ともとても楽しそうで、ことりは見ていて飽きない。

 人間的にどうかと思う部分は多々あるが、こういう時のクウは嫌いではない。


「クウさんって、遊んでばっかりなのにいつ勉強しているんですか?」


「魔術書を一回読めばたいてい覚える。お前と違って賢いんだよ。お前と違って」


 訂正する。やっぱり嫌いだ、こんな人。


「はーい。毎度お馴染み、ミックスリード様のありがたーいお言葉の時間よん」


 クウへの反論はテレビから流れた陽気な女性の声に遮られた。

 ゆるくウェーブの掛かった薄紫色の長髪と、頭の左右に装着された螺子を模した宝石飾り、そして額へ刻まれた星のタトゥーが特徴的な大人の女性が演説を始めている。


 彼女こそルーカディアの創始者、大魔術師ミックスリードだ。


「俺、こいつ嫌いだな。なんかうさんくさい」


「私はこの人好きですよ。耳の形がお母さんに似ているとことか」


「評価のポイントがマニアック過ぎるだろ」


 少女の独特な感性について盛り上がるうちに、演説が終わる。

 最後に見事な体の凹凸をめいいっぱい広げ、ミックスリードは高らかに叫んだ。


「来たれ若人。マジティアージュになってイヴレコードへの道を開くのよん」


 人類最高の魔法使いの称号、マジティアージュ。

 その単語に少女は眼を逸らしていた現実を思い出して、焦りを覚える。

 十三歳までに合格を貰えなければ、魔法使いになることを諦める。


 テンと約束した期限は、もう残り半月に迫っていた。






なんだかんだで仲良しな二人です


次話『少女の決意』

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