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53話 証

少し長いです。

 


 縦横無尽に飛び回り、ドロウとの一騎打ちを続けることりに、ルイは驚愕していた。


「嘘……あれがことり……? なんて魔力なの!?」


 すると、二人のウィクターの頭にクウの声が響いた。

 マナホルダーの念話を受け取り、ルイは震える腕を支えに立ち上がる。


「全く。クウの奴……無茶振りばっかりなんだから……でもことりのまゆたまと共鳴りで繋がっている私なら術の影響下でもなんとか動けるわ」


 限界以上の力を得たことりのまゆたまに影響を受け、僅かに力が戻ってきている。

 今のルイなら二人のリクエストに答えることができる。


「……あたしもいくよ。引っ張ってでもいいから連れてって」


 ライバルのドレスの裾を掴み、フィーリアは懇願した。


「あの姿を見たら、なんだか力が湧いてきたよ」


 共鳴りではないフィーリアは全く回復などしていない。

 だがことり達の戦いを見つめる彼女の瞳には強い光が戻り始めていた。

 フィーリアに肩を貸してルイは足を引きずりながら移動を開始する。


 ことりの勇気と、今まで与えて貰ったものに応えるために――そのプライドを賭けて。







 木々の隙間から何度目かになる火球の強力な攻撃が穿たれる。

 単純だが高威力を誇るフォーゲルを光の盾で弾くごとに、ドロウは苛立ちを覚えていた。


「三百六十度を自在に舞う飛行術に、上位呪文に迫る火球魔法の組み合わせ。

 つまり高速で移動する大砲か……まだ拙いが戦闘スタイルが完成しつつある」


 このスタイルは、移動を制限された今のドロウとはすこぶる相性が悪い。

 少女は成長している。一時的に上昇した魔力量だけに惑わされてはいけない。

 すると対抗策を思案するドロウの眼前で、ことりは上昇を始めた。


「勝負に出る気か……いいだろう。先手は譲ってやる」


 ことりは術式へ力を流し込み、天空でギアカードを起動する。


「ギアカードオープン 爆裂火球群ツーク・フォーゲル


 発生したのは小火球の群集だ。ただしその数は十を越え、五十を越え――数え切れぬほどの炎を、まるで夜空に輝く星星の様に天へと描き出した。


「なんだ、数は!? あの呪文はせいぜい数十発だったはずだ!」

「いっけぇー!!」


 少女の指揮を合図に、豪雨の如き炎の多球がドロウへと降り注ぐ。


「くっ、相殺しろ。超速数多の氷の機関銃 クイックドロウ!」


 彼が選んだのは反属性による撃破だ。だが咄嗟にとった目論見は失敗に終わる。


「多過ぎる……相殺しきれん……!?」


 物量に押し切られ、すぐさまドロウは防御魔法シールドロウで守りを固める。

 ことりが行ったのは膨れ上がった魔力量を強引に使用した、ただのごり押し戦法だ。

 しかし数の暴力という無慈悲な攻撃は、ドロウに盾魔法での消耗を引き起こさせた。

 さらに火弾の爆発で砂塵と白煙が周囲を覆い、一寸先の視界すらもままならない。


「はぁ、はぁ……無茶苦茶しやがる。こんな無駄な力の使い方に一体何の意味が……」


 片膝をついて悪態を吐くドロウに――その答えは現れた。


「あるわよ……私達があなたをぶっ飛ばせるっていう素敵な理由が!」


 晴れた煙の先にいたのは大地と天空の二人の魔女だ。ルイ達は言霊により残り僅かな魔力を振りぼり、ことりの生み出した一瞬の隙に己の全てをぶつけた。


「「ギアカード オープン」」


 ルイとフィーリアが持つギアカードが、互いに共鳴して術を発動する。

 発動した術は互いに混ざり干渉し合い、一つの事象となってこの世に具現化した。

 これは二人の魔法を合わせて発動する合体魔法――


「「ユニゾンドライブ 巨兵烈風弾タタロスヴォルカン」」


 タタロスが生まれるとその場で分解され、細かな岩石群へと姿を変えた。そして中心で発生した突風によって岩石は次々と打ち出され、天地のマシンガンとなりドロウを襲う。


 ガードは間に合わない。結果、ドロウは弾丸に被弾し――

 再び舞い上がった砂煙の中で、血を吐きだして思わず両膝を突いた。

岩石の機関銃によって左腕と右足は完全に折られている。胸部にも鈍痛を感じており、おそらく肋骨も何本か持っていかれただろう。


「あの炎の球は、俺の目と魔力を裂く囮だったのか……本当の狙いはオリハルコンイーター達による完全に意識外からの不意打ち……まんまといっぱい食わされ――」


 しかし、彼は悔いなければならない。策にはまり傷を負ったことをではない。

 今、この瞬間もことり達の策が――まだ続いていることを見抜けなかったことに。



「いくぜ。絶対に成功する、お前の新カード!」



 突然、ドロウの視界を炎の翼が覆う。

 煙にまぎれ急接近していたことりが、新たなる力を男の眼前に掲げていた。


「ギアカードオープン 自爆アルバトロス


 刹那、カードを中心に大爆発が起こった。

 劇的に襲う魔力の破裂にことりとドロウは成す術もなく吹き飛ばされていく。

 下手な操作はいらない。ただ暴走させるだけ。ことりにとっての十八番――自爆攻撃。

 無謀ともいえる攻撃は、すでに重傷を負っていたドロウをたやすく弾き出し。


「――くっ!?」


 焼け焦げた体が二転三転――同時に仕掛けていた封印開放の術式が消える。

 勢いは収まらず、ドロウの体は四転五転――そして何かに捕まり動きが止まる。

 そこでようやく彼は気付いた。ことりとクウの狙っていたものは――


「う、動けない。これは……フィールドトラップの食虫植物だとぉ!?」


 森林エリアにあった捕獲用の罠、巨大なハエトリ草が彼の動きを束縛していた。


「まさか、最初からこれが狙いだったというのか!?」

「効果は身を持って証明済みです!」


 ことりはボロボロになりながらも立ち上がり、大きく胸を張った。

 巨大植物の拘束から逃れる為にドロウは負傷の少ない右腕を手繰り、術を炸裂させる。

 するとハエトリソウは弾け飛び、脱出はできたが――


「マジティア特有のバットステータスか!?思うように体が動かん」


 ネバネバした粘着液が全身に纏わりつき、動きに制限がかけられている。


「肉体損傷……リカバリーにおよそ百二十秒。バットステータスのディスペルにはおよそ四十秒。同時に行っていては埒が明かない……なんとか時間を稼ぎ、まずはステータスを正常に戻す。大丈夫だ、手負いでもあんな小娘の一人や二人ぐらい――」


 動揺を悟られぬよう。必死に思案し、打開策を組み上げる。

 まだだ――この程度で敗北するほど、百撃のカラーレスは落ちぶれてはいない。



「ギアカードオープン 爆裂火球フォーゲル


 澄み透った少女の声が、フィールドに静かに響いた。

 そしてドロウは、火球を掌に掲げた小さな魔女を目撃する。

 ことりの頭上で輝く紅の球体は、徐々に、徐々に、膨れ上がり続けていた。


「攻撃力の上乗せ……チャージ攻撃だと!?」


 ことりの魔力をさらに吸い上げ、肥大化を続けるフォーゲル。その隠された機能がチャージ性能であり、テラソフィアの外層すらも破壊した少女にとって最大の一撃だ。

 沸きあがる魔力を『込め』、太陽の如く巨大な力を『放つ』。なんちゃってギアカードと、皆で取り組んだ野球の特訓、そして師の言葉がことりの中で一本に繋がる。


「今までの特訓はこの一撃の為に……この一球に魂の全てを込めます!」


 それは少女の想いをこの男に伝える為―― 


「さあ、決着をつけましょう。ドロウさん!」


 そして互いの想いぶつけ合う為にこの瞬間は生まれた。


「なるほどな……あくまで貴様がしたいのはマジティアというわけか……」


 男は気付いた。その一撃をすぐに放っていれば、戦いは終わっていたはずなのだ。


「ここまで手を込んだことをして俺の動きを封じたのも――

 決して逃げられないノーガードでの殴り合いに引き込むため。本当にただそれだけか」


 向かい合う少女の姿は、初めて出会った時の先生を思い出させる。マジティアで男を知り、男を理解し、男を受け入れてくれた――慈愛に満ちた眼差しが記憶と重なる。


「理解できん。理解できん。理解できん。お前ら親子のすることは全く理解できん!」


 それは全て無駄だった。それは全て裏切られた。そしてそれは全て失った。

 だから証明する。目の前の少女を打ち破り、この復讐の正義を証す。


「いいだろう。今ここで、全てを証し、決着をつけよう!」


 ドロウは激痛を越え両手で二丁拳銃を構え、ことりはフォーゲルに更なる力を注ぐ。

 互いが互いに限界を超え、言霊が生み出した純粋な魔力と、最後の極大呪文の術式が溶けて混ざり合い、弾けるように鮮烈な輝きを――二人のまゆたまに燃え滾らせた。


 そして目を開くことすら難しい魂の閃光の中心で、魔法使い達は共に祈る――




「魔法が大好き」

「魔法が憎い」


「魔法で笑う皆が大好き」

「のうのうと笑う奴らが憎い」


「その笑顔を守りたい」

「その笑顔を壊したい」


「そしてあなたを救いたい」

「そしてお前が邪魔だ」


「あの言葉を信じているから」

「あの言葉を否定したいから」



「「だからもっともっと……輝け、まゆたまぁ――!!」」



 二人の想いを乗せた光は、広大なテラソフィアの隅々までを照らし輝いていた。

 伝えたい心の叫びを、叶えたい己の我ままを、その一撃にかけて――

 そして互いに最後の呪文を解き放つ。


「ギアカードオープン 全てを打ちビーグ・ブラストドロウく光の超衝撃」


 ドロウが放ったのは光属性の超高密度な巨大弾丸だ。ブラストドロウの上位互換呪文にして、正面からでの撃ち合いで無敗を誇るドロウ必殺の攻撃である。

 魔法への憎しみを込めた触れるだけで蒸発するほどのエネルギーの塊は、あらゆるものを飲み下しながら、少女に向けて無慈悲に迫っていた。


 だがことりはそれに正面から立ち向かう――


「届け、私の想いのフルチャージ。フォーゲル『一球入魂』!」


 放たれたのは祈りを集約させた超巨大爆裂火球。蓄えられた燃える炎と爆ぜる魔力が、超弩級の魔術となってビーグ・ブラストドロウと正面衝突――そして押しせめぎあう。

 高度な技術もない、戦術の駆け引きも無い、裸の魂の一対一の殴り合い。

 その意地と意地のぶつかり合いを制したのは――


「「いっけー!!」」


 ことりとクウの叫びに応え、紅の火球が加速する。

光弾は砕かれて跡形もなく消滅し、男の視界は赤い閃光に満たされた。


「なんだ……こんなとこまでそっくりなのか……」


 元レーヴァテイン、『百撃のカラーレス』ドロウ・フォバーは――


 紅い光の中で、少女に頬をおもいっきりぶたれた気がした。







 所々で焼け焦げた衣類には硝煙の香りが残り、顔も体も煙突掃除をした後のように薄汚れた煤だらけ。大量の魔力を使用した反動で、体に襲い掛かる疲労がめまいとなって少女の頭を揺らす。とても勝者には見えないその姿が彼女の未熟を際立たせる。


 実力差は歴然だった。あまりの拙さゆえに片手間に扱われ、なりふりかまわぬ策しか選べなかった。友の力を借り、場の罠すら利用した。決して自分の力とはいえないだろう。


 だがそれでも――勝負は決した。


「あなたの勝ちよ、ことり」


 足元のおぼつかない背をルイが支えてくれる。

 ことりは未だ全身から煙を上げ続けているドロウと向かい合った。


「ドロウさん。魔法を通して、あなたがしたかったことがわかりました」

「またそれか……貴様らは親子揃ってマジティア馬鹿だな」


 照れるように笑う少女に、悪態をつくのが男にとっての精一杯の強がりだった。

 なぜならことりはマジティアを通して知ってしまったのだ。

 魔法が嫌いなはずなのに彼が高い技術と知識を今もなお持ち続けている理由を。

 そして彼の憎しみの根底にあるものを。


「あなたは魔法が嫌いなんじゃない……本当は大好きでたまらないんですね」

「貴様ほどじゃない。それに俺は復讐を選んだ。自ら師の教えを裏切ったんだ……」


 魔法のことを信じていたから、愛していたから、だからこそ彼は許せなかったのだ。

 ことりは小さな子供を見守るように、クスリと微笑を漏らした。


「好きな子にそっぽ向かれて拗ねていただけですよ。お母さんなら笑って許してくれます」

「だろうな……」


 不思議とその光景が見えるような気がして男は苦笑しながら嘆いた。


「だが許されたとしても……俺は一体どうすればいいんだ……」


 もう自分には何もない。そう悲嘆に暮れるドロウへ向け――

 ことりは元気に自分の胸を叩いた。


「はい、だからあとは待っていて下さい。いつか必ず、私があなたの夢も叶えてあげます」


 少女の発言にあっけに取られてドロウは口をあんぐりとさせている。

 驚くことはない。なぜなら、ことりは最初からこのことを伝えにきたのだから。


「マジティアージュになって。魔法は皆を幸せにするために生まれてきたということを、あなたの分も私が『証明』してみせるから。だから……もう悲しいことを言わないで」


 ことりは救いの言葉を手向け――そして男はついに見つける。


「だって、この言葉は……私達が大好きな人が残してくれたものでしょう」


 母の言葉は無くなってなどいない。今もなおことりの胸の中に残っている。

 だから彼は無くしてなどいない。今、目の前にちゃんとあるから――

 少女の笑顔を前にドロウは自然と熱い涙が溢れ、胸をかきむしる。


「なんだよ……俺が『証』さなくても……こんな所にあったんじゃないか」


 姉の、先生の、そしてことりの笑顔が、ドロウの心を優しく包みこんでゆく。


「失ったと思っていた。だから取り戻すために復讐を選んだ――」


 欲しかったものにようやく再会を果たし――


「でも先生の残した言葉が、まだここにあるというのなら……貴様が俺の……証しだ」


 男の願いは成就し、ことりは優しく頷きを返した。



 この世界に残っていた唯一の希望を少女に見出し、ドロウの復讐は終わりを告げた。







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