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52話 魔法演舞

 天から差す光の眩しさにドロウは目を細め――


「そうか……来てしまったか」


 紅色の炎を滾らせる少女に、かつての師の面影を重ねる。


「やはり似ているな。超がつくほどスロースターターな所も、土壇場で真価を発揮するその姿も。そして……一度タガが外れると天元すらも突破する常識外れなところもな」


 思い出し、口角を吊り上げる。仄かに感じる高揚感が彼にはひどく懐かしい。

 また一つ自身に残っていた人間味を見つけ、男は少女に最後の問いを投げかける。


「いいだろう。相手をしよう、先生の娘よ。ただし始める前に一つだけ証してもらおう」


 少女が現れたことは男にとって理解し難い行為だった――

 もはや封印が解かれるのは時間の問題だ。もう一度、出会ったときは容赦をしないと警告もしたはず。少女にとって、ここに立ち入ることは死地へ来たも同然だろう。


「なのに何故、貴様はここに来た。一体この場所へ何を成しにきたのだ」

「皆を守る為……そしてあなたをこの力で笑顔にするためです!」

「笑顔だと……?」


 魔法を嫌悪する男を、魔法で笑顔にする。少女が言ったのはこういうことだ。


「戯言をぬかす……到底、理解できんな」

「だから始めましょう。私とあなたが解り合う為に……」


 そして少女は大地へ向けてギアカードを構える。その魂で、己の道を示す為に。


「さあ、始めましょう。私とあなたの魔法演武、マジティアを!」


 だから男は天空へ向けて激情を奮わせる。その魂で、他の道を否定する為に。


「ほざけ、この半人前がぁ!」


 信じる物を、信じざる物を、同じくして違える。合わせ鏡のような二人の戦い。

 本物の魔法使い達の戦いが――魔法演舞マジティアがここに始まった。






 弾けるように二人は動き出した。

 ドロウが放つのはギアカードを開放した多属性によるマシンガンのような弾丸の嵐だ。

 対することりは滞空を解除し、すぐに急降下を始めた。

 森林エリアの間を低空で飛行し、木々をドロウの魔弾への盾に利用するのだ。


「ギアカードオープン 爆裂火球フォーゲル


「舐めるな。オープン 対魔法防御シールドロウ


 銃撃の隙間から撃たれた火球は、白い光の盾で完全にガードされた。

 そして生じた硝煙を振り払うように、ドロウから次なる魔術が繰り出されていく。

「オープン 超重力の弾丸グラビドロウ&全てを打ちブラストドロウく光の衝撃」


 かつてルイたちを捕らえた黒い弾丸の連弾と、高威力を誇る光の攻撃呪文の撃弾がドロウの左右の魔法銃から同時に放たれ、ことりへと急接近する。


「来たぞ。加速して十時の方向に上昇。そんで左旋回で回避だ」

「はい、了解です!」


 高位魔術師に対して、ことりとクウが行うのは完全な役割分担だ。クウが戦況を分析して航路を指示する。そして、ことりはクウの言葉を信じて飛行を全力コントロールだ。

 二人で一人の魔法使いにのみ許された一見して綱渡りなタクティクスは、ドロウとの圧倒的なレベル差に追いすがり、戦いの均衡を生み出していた。

 再び低空へ舞い戻ると、ことりは木の陰に身を隠した。


「なかなか近づくチャンスがありませんね」


 額に吹き出る嫌な汗をぬぐいながら、相棒の少年へと話しかけるが、


「これでいい。やっぱりあのおっさんは凄えよ。不用意に近づいたら瞬殺されるわ」


 マジで嫌になるぜ。と、少年がため息をついてしまう。


「今、お前は気持ちが乗りに乗って最高の状態にギアが上がってる。前に説明した、馬鹿の頂点すらも驚くような……『火事場の超馬鹿力』を出してな。すげえぞ馬鹿」

「なんとなくですが調子がいいのはわかります。あと馬鹿を連呼しないで!」

「今までの鬱憤を晴らすスロースターターの真骨頂ってとこか。けど―――」


 軽口を叩いていた少年の声色がそこで重くなった。ことりの魔力が上昇していてもドロウは埋めようのない実力差がある。このままではジリ貧だ。

 再び迫った光の魔弾が木々をなぎ倒したので、ことりは即座に移動を開始する。


「何か手はありませんか!?」

「勝機はある。あいつ、さっきからあの場所を動いてないだろ?」


 クウに言われて初めて気づく。確かにドロウはほぼ開始位置から動いていない。

 よくよく考えれば距離さえ詰めれば彼は簡単にことり達を仕留められるはずだ。


「封印開放の為の術式を今も足元で展開しているんだ。わかりやすく言えば、俺達との戦いは片手間の状態だな……けど魔術の同時起動はコントロールが難しい」


 だから、予想外に粘ることり達のことをドロウは攻めあぐねているのだ。

 マナホルダーのまゆたまを見る能力で、ドロウの力の流れがクウには見えている。


「片手間でこれですか……あんまり勝機に聞こえませんね」

「これだけならな。けど逆に言えば、あの場にいることが術の肝でもあるってことさ」

「じゃあ、ドロウさんをあそこから移動させることができれば」

「ひとまずルイ達は救える。でもお前の望みを叶える為にはあとひと押しが必要だ」


 微かに見え始めた希望の光を手繰り寄せる為に、二人は思考をフル回転させる。

 そしてことりの視界に入ったあるものが、二人に勝利への道筋を照らし出した。


「クウさん。アレって使えませんか……?」







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