49話 そして誰もいなくなった
「き、き、決まったぁー!!」
起こったのは最大火力の激突だ。最高クラスの熱戦を前にミスタージャッジにより扇動された観客の歓喜の嵐は、その風速を更に上げて拍手と声援の雨を激しく打ちつける。
「オリハルコンイーターの超強力な回転ロケットパンチが巨大なサーヴァントを打ち砕き、ワンダーエンジェルの目にも写らぬ超高速の大連撃が標的を仕留める。
三者共に凄まじい魔力と高度な技の応酬。なんとド派手な必殺技のぶつかり合いだ!」
ミスジャッジの称賛を背にルイとフィーリアはレイヤの前へと集まっていた。
「これで終わりね。ここまでレイヤの力を使いこなせるなんて、本当に驚異的だわ」
「おっそろしいねー、前情報が無いと絶対にわからなかったよ」
気絶している男は本当にレイヤそっくりだ。ルイ達はまじまじと観察していた。
すると二人の背後から、ミスジャッジが一声を掛ける。
「おーい、お二人さん。試合はあくまで個人戦だよ」
そうリオマティアの勝者は一人なのだ。
互いにその事実に気付き、目を合わせると視線がバチバチと火花を散らした。
「あたしがこいつを仕留めたんだから、あたしの勝ちだよね」
「私が一番硬そうな魔法をぶっとばしたんだから、私の勝ちでしょう」
ニコッと乾いた笑顔をフィーリアは浮かべ、ルイは苛立ちを混ぜた怒声を上げる。
そして二人の魔女の醜い言い争いが始まった。
進行しない試合に名物審判は痺れを切らし、飛行魔具から降り立った。
「ルイ選手、フィーリア選手。口喧嘩はそこまでにして!」
決着は魔法でつけるようにと二人の肩を叩き、あきれながら注意を促した。
観客席からも笑い声が上がり、お祭り特有の寛容な雰囲気が会場を包んでいる。
「もういいわ。ここで決着をつけようじゃないの」
「オーケー。望むところだー」
そして互いに構えた瞬間、フィーリアの足元に一枚のカードがコツンとあたった。
「何これ……レイヤのブロマイド?」
そこには、優雅にポージングを決めたレイヤの姿が印刷されていて――
「メッセージと連絡先入り……今夜、パーティを開くからおいでって書いてあるじゃん」
裏面には会場であるニードレス家への地図が描かれ、ご丁寧に可愛いイラストまで添えられていた。しかも一枚一枚の全てが手書き。余程、時間をかけて作ったのだろう。
フィーリアの背には冷や汗が流れ、ルイも徐々に表情を強張らせていく。
「こっちには私達の分もあるわよ。むしろ女性選手の名前は全員あるわね」
「じゃあ結局、この人はドロウじゃなくて……」
「ただのナンパ目的だったみたいね……」
哀れにもフルボッコにされたレイヤを前に、しばしの静寂。そして――
「お嬢がちゃんと確認しないから!」
「仕留めたのはあなたじゃないの!」
再び、ぎゃあぎゃあと二人はわめき散らす。試合はいつまでたっても再開しなかった。
するとミスジャッジはいい加減うんざりしてため息をつき――
「やれやれ、しょうがないな……」
パチン。突然、ルイとフィーリアの背後で乾いた音が弾けた。
瞬刻、二人の首筋に青い方陣が浮き上がり、体から力が抜けその場に崩れ落ちる。
「何が起こったの……急に……魔力が抜けていく……」
地を這い蹲りながらルイは音の元凶へと振り返った。この状況を作り出した女の陽気な笑顔は傲慢に歪んだ薄ら笑いへと変わり、剥き出しの悪意の瞳がルイを見下している。
そう、彼女は……。いや彼は最初からずっと目の前にいた――
「ミスジャッジ……。あなたが、ドロウ・フォバー!?」
驚愕の声を振り絞るルイの為に、女は不気味な声色で言葉を唱えた。
「さあ始めよう。この呪われた力に、裁きの時を!」
リオマティア残り魔道師数、現在 0名




