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04話 往生際の悪い弟子とはっちゃけ師匠の関係

この世界の説明回 + 師匠の登場です

 

 ルーカディアとは近代に月面で生まれた最新魔術国家だ。

 この国が生まれた際の最大の功労者は? この問いには誰もがこう答えるだろう。

 

 近代魔術の母、大魔術師ミックスリード

 

 最新の魔術式と科学技術を融合した魔法科学理論を生み出した偉大な魔女である彼女によって月はテラフォーミングされ、体感する重力は地球と同等になり、人々は衛星上で生きる為に必要な大気や広大な海洋、そして緑豊かな大地を獲得した。

 生み出された擬似大気は、調整することで四季や天候にも変化を与え、更に本来ならば二十八日周期で変わる太陽光の影響を制御し、月面へ昼夜の変化を再現している。


 そして月という立地条件はルーカディアへ三つの特性を与えていた。


 まずは国籍・人種問わずの多国籍独立国家という点だ。

 原住民がいないこの国は、新天地を求めた人々が集まり社会が形成されている。

 多様な人種の交流は思想や宗教、文化などが制限なく入り混じることで、決して縛ることのできない自由が売りの豊かな国風を産み出していた。


 二つ目は『宇宙ターミナル』と呼ばれる地球との自由貿易。

 つまり経済的な側面だ。


 ルーカディアの誕生以降、地球では宇宙エレベータの建設が活発になった。

各国の思惑は新国家との友好的な外交であったが、結果として需要と供給が増えたことで急速に宇宙航空技術が向上し、更にミックスリードの魔科学技術の提供が後押しとなったことで、宇宙開発市場は低コスト化の時代を迎えていた。

 おかげで月面の空には毎日のように地球各地から訪れる宇宙貨物船が飛んでいる。


 そして三つ目――それは魔法の力だ。



 

「ふふふ、愉快痛快。おぬしらはいつも楽しそうじゃのう」


「笑いごとじゃありませんよ、御館様!」


 不機嫌な少女に対し、初老の老人の笑顔は絶えない。

 漆を塗った様な褐色の肌に、白いカイゼル髪が立派に映える。

 彼の他よりも一回り大きい体格は年齢に反して、ことりを片腕で抱き上げることが可能な程に生気に満ちている。

 幼き日に父を亡くし、三年前の事故で母をも失ったことりを引き取ってくれたこの屋敷の主。

 彼こそが御館様、テン・セルツアーだ。


「ちゃんと聞いて下さい。クウさんが、クウさんがぁ」


「聞いておったぞ。全く、クウ坊はなってないのう」


「そうですよ、ちゃんと叱ってやって下さい」


「新妻プレイではないぞ、自分好みに育てて収穫する育成系幼妻プレイじゃ!」


「……御館様?」


 カッと目を見開き力強く宣言する老人に、ことりは固まった。


 魔法評論家テン・セルツアー。

 彼の多角的な視点から切り込んだ魔道研究は、本人の豪快な性格と同じく評論本を出版するごとに既存の技術へ一石を投じている。

 このように破天荒な部分はあるが、魔法使いとしても有名人であるため、ことりは迷うことなくテンへの弟子入りを希望した。


 その対価が現在のメイド姿でもある。


「ほれほれ、集中が途切れとるぞ。術式の模写と設問の解答を終わらせんと次へ進めん」


「が、がんばります!」


 内弟子として、ことりの一日は広い洋館のお掃除や洗濯などの家事から始まる。

 赤レンガで重圧な雰囲気の外観を持つこの屋敷は、住人が三人しかいないのに無駄に広い。

 お庭の手入れや、クウの世話も含めると午前中は大体が家事で終わる。

 そして午後は通信教育で一般の勉学を学ぶ。これは母が存命だった頃も同じだ。

 教育にも多くの派閥があるルーカディアでは、通信制を取り入れる家庭も多い。


「ううう、やっぱり難しい……」


 そしてテンの在宅時には魔法の授業や、実験の手伝いに参加する。

 一日で一番楽しみにしている時間なのだが……悔しいことにさっぱり理解できない。


「やはりお主には少しばかり難易度が高かったかのう」


「私のような魔法未経験者には理解出来ない内容なのでしょうか?」


「不可能ではないが、術を体感しておらんのは決定的に足を引っ張るじゃろうな」


 今模写している式も術のイメージが固まらず、ただ書いているだけに近い。

 魔法が好きなのに、勉学で全く成果が上がらない理由はここにある。


 誰もが平等に扱える科学とは違い、魔法は個人の適正や才能に依存する。

 故に古来より魔術は門外不出の技術として歴史の裏に隠され続けていた。

 世間にその存在が認知されたのは創世の魔女が現れた五百年前からである。

 その後数百年をかけて教育制度も整えられ、魔法は一般の人々の日常に浸透していた。

 けれど、ことりのように適性の無い者が泣きを見る点は未だに変わらない。


「せっかく教えて頂いているのに、御館様にも申し訳がないです」


「ふふふ、かまわんよ。可愛い義娘の頼みじゃ、愉快痛快にいくらでも時間を作るわい」


 ことりの頭を優しく撫でると、テンは真剣な眼差しを浮かべる。


「ただし、最初にワシとした約束だけはきっちりと守ってもらうぞ」


「……わかっています。十三歳になるまでに御館様から合格を貰えなければ、魔法使いになるのは諦める。それが弟子入りする条件でしたから……」


 弟子だからこそ、義娘だからこそ、後悔はさせたくない。

 厳しい約束が、自分の事を大切に思っているからこそだと、ことりは知っている。


「だがのう、ワシは同時にお主にはなかなかの見込みがあると思っとるよ」


「私にですか……才能無しの烙印を押されたのに?」


「普通ならその時点で諦めるわい。じゃがな――」


 結果が結果だけに、ことりは師の言葉に喜びよりも疑問が先にきてしまう。

 けれど不思議そうな顔をする少女へ、テンは優しく微笑んだ。


「それでも諦めずに指導を希望し続けたのはお主が初めてじゃよ。ワシが見てきた者の中で最も悪い結果にも関わらずにのう」


「それって、あまり褒められている気がしないのですが!?」


 テンは乱暴にことりの頭を撫でながら、かっかっかっと快活に笑った。


「なにはともあれ、それだけお主の気持ちが本物だということじゃ。

魔法が好きな気持ちを才能と呼んでもいいのなら、その点に関してお主はルーカディアで最も優れた女の子じゃよ。全く、愉快痛快じゃて」


 師の大きな手のひらの温かさを感じ、ことりは照れくさそうに頬を緩める。

 普段から豪快で、時々ちょっとおちゃめな面を持つ、そんな笑顔の素敵なお爺さん。


 それがことりが三年間で得たものの一つだった。




次話は『手ごたえの無い魔法の特訓』です


世界と力の基本部分は04~05話ぐらいで一通り出揃います

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