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48話 ギアカード フルオープン


 タタロスの拳は完全にレイヤ捉えたと思った。

 だが美麗の魔術師は先んじて新緑のツタを召還し、一撃必殺をひらりとかわしていた。


「おやおや、ルイ嬢。僕に恋焦がれるのは構わないが、少々ヤキモチが過ぎるね」

「こいつ、よくもぬけぬけと……」


 舌打ちをするルイの前で、彼は謎のカードを収めてバラのムチを構える。

 二人のウィクターが互いにギアカードを携えたその瞬間――


「よくもバルを虐めたなぁー!!」


 第三者の雄たけびが鳴り響き、天空からフィーリアが突撃を開始する。


「いっくよー。ギアカードオ――」

「残念だが、フィーリア嬢。二人なのは君達だけではないのさ」


 レイヤが天空の魔女に向け、意味深に口元を歪ませる。

 同時に草陰から黒い影が飛び出した。


「お前の相手はダレン・ニードルス様がしてやるぜ、コラ」

「くぅ、こんな時に邪魔すんなー!!」


 完全に視覚からのダレンの攻撃はフィーリアの脇腹へクリーンヒットする。

 攻撃の正体は魔法で巨大化した草木の拳、ギアカード ナックルエンチャだ。


「美しく時間稼ぎを任せたよ、ダレン」

「兄貴。情熱的に任せとけ、コラ」


 そして続けて放たれた魔法拳の連打に遅れをとり、フィーリアの体は大きく吹き飛ばされた。ダレンは即座に後を追い、二人は戦いの場を移していく。


「自由を求めて華麗に空を舞うフィーリア嬢が、我が弟によって地に堕ちる姿か……

 それもまた究極の美の一つだね。ああ、本当に美しい」


 遠ざかる二人に呟きながら、レイヤは視線を変えずに巨大な花びらの盾を召還した。

 刹那、盾がタタロスの拳と衝突して火花を散らす。

 衝撃で木の葉が舞い、花の蜜のような甘い香りが周囲に広がった。


「術のキレが全く無い。いつもの美しい君はどこで迷子になっているんだい?」


 レイヤは落胆を込めて、やれやれと大げさに肩をすくめた。

 硬さを信条とするルイの魔法がレイヤの片手間に出した盾に防がれる。タタロスの動きもいつもよりひどく鈍い。ルイが疲弊しているのは誰の目に見ても明らかだ。


「らしくないといえば、フィーリア嬢もだ。二人ともずいぶんとお疲れのようだね」


 二人の乙女がボロボロになってまで駆けつける理由など一つしかないだろう。

 レイヤはきらりと白い歯を輝かせて言った。


「そんなに必死になって会いたくなるほど僕は美しいんだね!」

「気持ち悪いこと言ってんじゃないわよ!?」


 モノマネの完成度の高さに驚きながら、ルイはダウンしている選手の位置を確認する。

 まだ気絶している選手に変わった様子はない。だが何かを仕込もうとしたのは確実だ。

 恐らくは懐に仕舞ったカードに何か秘密があるのだろう。

 しらばっくれているが、目の前の敵は間違いなくドロウ・フォバーだ。


「あなたの目論見はここで終わりよ。リオマティアの選手には手を出させないわ」

「なんと……僕の計画を見抜いたというのかい……」

「ええ。ルイ・リンバースの『プライド』にかけて、あなたはここで止めてみせる!」

「そうか……ならば勝負を急ぐとしよう。パーティに遅れてしまうからね」


 そしてレイヤは艶やかなポーズと共にギアカードを天へと掲げた。

 同時に全身から尋常ではない魔力が発生し、その全てがカードへと集結する。


 これは通常よりも数倍の魔力を犠牲に発動する、魔術師の奥の手の一つ――


「ギアカードフルオープン 樹星王キング・レイヤ」


 嵐が巻き起こり、彼の足元から巨大樹木を元に生まれた緑の王者が誕生する。

 サーヴァントの大きさはタタロスの約三倍、三十メートルを超えていた。

 青葉の鎧で全身を覆い、鋼の様に尖った指は簡単に大地をえぐる。縦横共に太い巨体が一歩進むごとに大地が細かく振動し、放つ咆哮は天に浮かぶ雲すらもかき消している。


「フィーリア嬢も待たせているのでね。美しく出し惜しみせずにいこう!」


 レイヤの合図で青葉が雨の様に降り注ぐ。魔力の練りこまれた葉の爆弾は、隙間なく流れ落ちることでルイとタタロスをその場に釘付けにする。これは時間稼ぎだ。

 キングレイヤは同時に草木に宿るたくましい活力を口内へと集中させていた。


「対峙する者へ、美しい破滅を。全てを穿てキング・レイヤ!」


 充填を終えたエネルギーは極太のレーザー砲として放たれる。

 樹星王の必殺の一撃は周囲の地形を変えながら進み、タタロスに直撃した。

 ルイとタタロスは正面から魔力砲を受け、かなりの距離を弾き飛ばされて後退する。


「……っ、なんて威力なの」


 ルイはタタロスの上で片膝をつき口の端から血を流していた。

 硬さの魔法であるタタロスが防御を行ったのにダメージを受けた。目の前に立ち込める巨大な砂塵と、大地に続く砲撃の爪跡がキングレイヤの攻撃力をまじまじと語っている。 


 ルイの魔力も残り少ない。おそらく二撃目は耐えられない。


「さあ、誇り高き大地の魔女よ。最強の魔術の前に美しく可憐に散り去るがいい!

 もちろんその後には……君への素敵なプレゼントを用意しているよ」


 キング・レイヤは第二射の為に、魔力を口内で集中させる。

 今までにない魔力が発射口へと収束し、最大の一撃を生み出そうとしていた。

 だがその時、ぴくんとルイの眉が動いた。


「最強ですって……? それは絶対に譲れない、私の夢よ」


 最強の魔法使いになりたい――ルイの夢は皆に揃って笑われる。

 けれどルイの夢を、笑わずに信じてくれた男の子がいた。


「私は……本当はあいつにも夢を一緒に追いかけて欲しかった……

 けど殴ることしかできない私じゃ、あいつを救うことなんてできかったのよ」


 やがてルイは一人の女の子に出会った。

 その女の子は決して強いわけではない。てんで素人な上に、おっちょこちょいだ。

 けれど彼女が懸命に前を向き続ける姿は、触れ合った者達に力を与えていく。


 女の子のおかげでルイの親友の心は救われた。

 そしてルイ自身も孤独の道から救われた。

 ずっと望んでも得られなったものを、その女の子は与えてくれたのだ。 


 女の子の名前は蒼井ことり。ルイにとって最高のミニオンであり、大切な恩人だ。


 感謝しても足りないほど多くのものを、ことりはルイに贈ってくれている。

 だからドロウの狙いが、ことりの大切な夢を汚すものであるというのなら――


「私はまだ与えられているだけで何もしていない。

 クウを救えていない、ことりに返せていない。だからここで、あなたを仕留める!

 三人で一緒にマジティアージュになる為に……ことりの大切な言葉は私が守る!」


 かつてドロウに敗北したからではない。

 ことりの為に、今ルイはここにいる。


 強固な決意がルイのまゆたまを成長の輝きで満たし、限界を超えた魔力を生み出す。

 捧げる供物は自身のプライド。祈りを捧げるは、愛おしいミニオンの為。

 極大に輝くギアカードを天にルイは唱える。


 これはルイが行使できる最大級の呪文。


「ギアカードフルオープン 革命強化レヴォリューションアムド システム バレット


 ルイが魔力の全てを捧げると、タタロスの右拳が劇的に膨れ上がった。

 隻腕は編みこまれた術式と流れ入る魔力の科学反応にスパークを起こし、眩い火花が弾け始める。同時に地を鳴らす程の振動を伴い、巨大化した腕部が超回転を行った。


 ルイによって開放された術の正体は、鋼鉄すらも貫く穿孔機の如き螺旋の弾丸。

 エネルギーのすべてを一点に収束した破壊拳にして、タタロスの最大奥義の一つ。


「全てをマジルイガ大地クラッシャーの怒り」


 ルイの叫びを合図に、腕部が標的へ向けて撃ち放たれる。切り離された巨人の腕は螺旋の空圧を纏い全てを屠る弾丸となり、レイヤの魔力波の第二射を正面から打ち砕いた。

 有無を言わさぬ圧倒的突破力。その余波は抉った大地を黒々と焦がし、衰えることなくキングレイヤへと直撃し、軽々と大穴を穿つと砂の城を崩すようにすべてを瓦解させる。


「馬鹿な……キング・レイヤが一撃で!?」


 足場であるサーヴァントを失い、大地へと堕ちて行くムーンライトプリンス。

 衝撃の破壊力を前に驚愕するレイヤへ向け、ルイは『プライド』の威厳を示す。


「当たり前でしょう。あなたがどれだけ大量の分身を生み出せても。どれだけ巨大なゴーレムを生み出したとしても――私の方が、硬い!」





 

 レイヤ・ニードルスの最強の一手が破られた。

 だがルイはこれでほぼ全魔力を使い切り、片やレイヤはまだ十分に魔力を残している。


「見事だ、ルイ嬢。だが試合は僕が勝たせてもらうよ」 


 まだ優位にあるのは自分だといわんばかりに、レイヤは余裕の笑みを崩さない。


「着地と同時に展開するギアカードでこの戦いは幕引きさ。そう着地……しないだと!?」


 いつまで経っても地面に降りることが叶わない。否、レイヤは指一本動かせずに空中で静止している。まるで絡みつく蛇のような空気の帯が、彼を天空へ縛り付けていた。


 有無を言わさぬ風の封殺。この呪文は――


「フィーリア嬢か!?」

「ぴんぽーん。大正解! ギアカード カルムさ」


 太陽を背に、待っていましたとばかりにフィーリアが急降下を始める。


「まさかもうダレンを倒したというのかい……いくらなんでも早すぎるぞ弟よ!?」


 動じるレイヤの前で、フィーリアは「にしし」と可憐に微笑んだ。


「自由を求めて飛ぶ? 違うよ。自由だからあたしなのさ」


 誰よりも疾く、誰よりも軽やかに、そして誰よりも自由に。この空で踊る天女こそ、ワンダーエンジェル。ルーカディアにて最高の天空魔道師の全力が今、開放される。


「ギアカードフルオープン 天をミラークー十八翼・ド・ヴァンの大風撃」


 刹那、レイヤを襲う巨大な衝撃波。そしてそれが一撃、二撃、三撃、四撃――

 打ち下ろし、なぎ払い、蹴り上げる。目にも留まらぬフィーリアの四肢の動きに合わせて、レイヤに巨大な風撃が次々と叩き込まれていく。


 十八にも及ぶ強烈な衝撃になすがままにされ、レイヤに訪れるのは深き敬意の想いだ。


「認めよう。ルイ嬢、フィーリア嬢、限界を超えて輝く君達はなんて美しいんだ……」


 このリオマティアという舞台で誰よりも輝く魔女達に魅入られながら、


「惚れ……たよ……」


 ムーンライトプリンス、レイヤ・ニードルスは意識を失った。



 リオマティア残り魔道師数、現在 二名







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