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46話 彼女の答え

 

 これは幼い日の記憶。一度だけ、母がミスリルに連れて行ってくれた日のことだ。


 舞台の上ではマジティア優勝者の表彰式が行われていた。

 選手が優勝トロフィーをかざすと同時に、会場を埋め尽くした人の波から盛大な拍手が送られていく。


 けれど慣れない人ごみに圧倒され、幼いことりは母の胸の中で怯えていた。

 いぱっい人がいるのが怖い。幼子はそんな気持ちから、思わず顔を俯いてしまう。

 だがそんな時、母は優しくことりを空へと導いてくれた。


「見なさい、ことり。とっても綺麗よ」


 優勝者が手をかざすと、小さな火の粉が桜の花びらのように空から降り注ぎ始めた。

 母に促され、ことりは恐る恐る舞い散る炎へ手を伸ばす。

 そして花びらが掌と触れ合った瞬間――炎は小さな鳥へと生まれ変わった。


「お母さん、見て見て!凄いよ!!」


 人々に触れた炎は次々と小鳥へと変わり、群れとなって一斉に大空へと羽ばたいてゆく。

 ことりは無限の空へと飛び立つ翼を、母と二人でいつまでも見つめていた。


「小鳥だ。私と同じ名前だぁ!」

「ふふふ、そうね。とっても素敵な魔法ね」

「うん。私あの魔法大好き!」


 どこまでも羽ばたく鳥達へ瞳を輝かせ、ふと周りを見渡せば……怖かったはずの人だかりは笑顔の花畑へと生まれ変わり、幼い少女の世界は美しく塗り替えられていた。

 自分の世界が急に色めき出した喜びに、ことりの胸は暖かく満たされてゆく。


「お母さん、やっぱり魔法って凄いね。見てると胸が、きゅーっとする」

「そうでしょう。お母さんもことりと同じで魔法が大好きよ」


 えへへー。と、柔らかくはにかむと少女は母に頬ずりをする。


「魔法は皆を幸せにする為に生まれてきたんだもんね」

「そうよね! でも――」


 すると母の表情がみるみる暗くなっていく。


「そう言うと、研究所の皆は私のことをまだまだ子供だーって笑うのよ」

「お母さんなのに子供なの?」


 母の言葉にことりは不思議そうに首を傾げる。


「部下の子にも鼻で笑われたし、おねえ――知り合いの女の人も軽く流して聞く耳すらもってくれないの。証明したくて今のお仕事始めたけど、お母さん魔法下手糞だし……」


 言葉を綴るごとにみるみる落ち込む母の頭へ、ことりは小さな掌をそっと添えた。


「元気出して、お母さん」


 そして思いつく。そうだ、だったら――


「じゃあ私がお母さんの代わりに皆に教えてあげる。マジティアージュになって、魔法は皆を幸せにする為に生まれてきたんだよって」


 娘の一言に母は一瞬驚くと、やがて再び明るさを取り戻した。


「うふふ、ありがとう。でも大変よ? お母さんだって、たくさん勉強したんだから」

「するもん。いっぱい勉強して、いっぱい練習して、魔法使いさんになるの」


 笑顔で溢れる会場を、ことりは大きく見渡して嬉々として母に伝える。


「魔法も、魔法で皆が笑っているのを見るのも胸がきゅーっとして、とっても大好き!

 だから私がマジティアージュになって、イヴレコードで皆がもっともっと素敵に笑えるようなすっごい魔法を教えてもらうの」



 いつかその願いを叶えるから――



「そうすれば皆、信じてくれるよ。お母さんの言葉を」



 だから笑って――いつまでも






 

 心のパズルに描かれた愛する母の微笑みが、少女に全てを教えてくれる。

 きっかけは単純だった。単純だったから忘れていた。

 最初から、答えは自分の中にあったのだ。


「わかりました、クウさん。本物の魔法使いに必要なものが!」


 だからことりは立ち上がる。自分達が本物へと踏み出す為に。


 ――そうだ、この夢の始まりは


「魔法使いさんは皆――」


 ――母の笑顔が見たかっただけなのだ




「すごく我がままです!」







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