44話 リオマティア
第一章の最後の戦い リオマティア編スタートです!
リオマティアは半径三キロの円形に形成されたフィールドで行われる。
フィールドには様々な環境が用意されていて、まずは中央に市街地があり、その周囲を囲むように森林、氷雪、砂漠、豪雨などのエリアが展開されている。
スタート位置は選択可能だ。選手は自身の属性や戦略に合わせた位置をマップ上から選択し、試合のゴングが鳴ると同時にフィールドに転送される。
ルールは至ってシンプル。魔法を使って最後まで生き残った者が勝者である。
イナク体への制約も無い、五十一名による何でもありのサバイバルバトルだ。
鍛錬を兼ねてソロで挑戦する者や、ウィクターとミニオンといういつものコンビを貫く者、逆に自分のミニオンとガチ対戦する者など色々な組み合わせで盛り上がる中――
その全てを差し置いて、とある美少女コンビが会場を沸かせていた。
「これはこれは、一体誰がこの展開を予想したのだろうかー!!」
試合開始から上がり続ける熱気を受け、童顔巨乳審判ミスジャッジはフィールド内を飛行ボードで飛び回り、大興奮でマイクパフォーマンスを続けていた。
「火花散る広大なバトルフィールドで、先ほどから快進撃を進めるのはマジティアきっての美少女天才魔導師オリハルコンイーターとワンダーエンジェルだ。
なんとなんと、この二人が手を組むとは一体、誰が予想できただろうかー!!」
その間にもまた一人、タタロスの拳に選手が屠られる。
テラソフィア内でのみ使える特殊なボード型飛行魔法具は凄まじいスピードと自由自在の軌道を描き、ミスジャッジをダウンした魔道師へと導いた。
そして選手達の安否を確認すると、彼女は頭上で手を交差させてジャッジを下す。
「ダウーン。『天蓋の魔術師』ノックス・ダグラ、『見えぬ存ぜぬ』花萌りんご、『ビックスリー』ミミコ・ラーテル。以上、三名はここでリタイアだぁ――!!」
興奮するミスジャッジに扇動され、会場のボルテージはグングン上がっていく。
選手も観客も予想外のドリームタッグ。二人の連携と期待溢れる試合展開が、生中継を通してルーカディアにいる全てのマジティアファンを沸かせていた。
「早い、早い、早すぎるー!!ルイ・リンバースとフィーリア・ホーマーの戦術は至極単純。
パワーがひきつけ、スピードで屠るか。スピードで翻弄し、パワーが打ち砕くか。
この二つのみ――だが止まらない、止められない! 強い、強すぎるー!!」
その間にも移動を始めるルイ達を見送りながら、ミスジャッジは問いかける。
「みんなー。ライバル同士が手を組むのは反則なのか? 天空と大地が共闘するのは理に反するか? 相手に見せ場を与えることもなく屠るのは汚いことか?」
大きく両腕を広げ、歓声をより促すようにミスジャッジは高らかに叫んだ。
「いいや、これでこそリオマティア。とことんやっちまえ、十代の少女達よ!」
会場中から彼女に同意する黄色い声援と拍手が盛大に巻き起こる。
全ての観戦者が息もつかせぬバトルに胸を高鳴らせて歓喜していた。
様々な想いが交差する混沌とした熱狂の渦の中で、
「お嬢、そろそろバテてきたんじゃないの?」
フィーリアはにししと笑い、
「そちらこそ、何なら休んでいてもいいわよ」
ルイは邪悪に口元を歪ませた。
リオマティア残り魔道師数、現在 三十九名
お屋敷のクウの部屋で、ことりはルイ達の戦いを見守っていた。
「すごい……」
次々と強敵を撃破していく二人の魔女の華麗な魔法乱舞の生中継――
その凄まじさ、そして美しさに、ことりは心の底から感歎の言葉を漏らしていた。
「互いに手の内を知り尽くしたライバルが手を組んだんだ。当然だろ」
一方、クウは涼しい顔で戦況を分析する。
ルイとフィーリアは互いの術の強みも弱みも深く把握している。
迎撃力と可動性を最大限に補い合えば、準備のない選手は太刀打ちできない。
「むしろここからが本番だ。今は奇策がハマってるが、時間が経つにつれて他の選手もルイ達のコンビ技に対応し始めるだろう。それに常に全力で戦い続けているからルイたちも魔力の消耗が激しいはずだ。策も魔力も終盤に進むにつれて段々キツくなってくぞ」
クウの解説に不安を駆られて、ことりは祈るように手を合わせた。
しかし心配をよそにルイとフィーリアは更なる強敵を打ち砕いていく。
「すごい……本当に凄いです。胸が……ドキドキする」
キラキラと輝く笑顔を振りまく魔女達に魅入られながら、ことりは再び呟いた。
夢の舞台で戦い続ける二人の姿を、鮮烈に胸に刻み――
再び灯り始めた、マジティアへのときめきを少女はゆっくりとかみ締めていた。
リオマティア残り魔道師数、現在 二十二名




