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35話 幸せの考察

 セルツアー家の庭先で、今にも歌い出しそうなフィーリアの声が響く。


 「いえっふー。本当にこれもらってもいいの?」


 小さな子供の様にはしゃぐ明るい声色に、球拾いでお疲れ気味のラインハルトも日向ぼっこをしながら耳をぴくぴくさせて反応している。


「はい、御館様から特訓のお礼です。腰にギアカードを入れるホルダーもありますよ」


「ありがとー。今度のリオマティアはこれを着て出場するよ」


 いつもの修道服から着替え、フィーリアは緑色の半袖ジャケットにショートパンツという活動的な服装へ変身していた。腕と足の肌を露出する動きやすそうな衣装は、彼女の躍動感溢れるイメージにあわせたて製作されている。


 全体的に軽量化を果たした服と反して、腰に下げた皮のホルダーは重量感を感じさせる大き目のデザインになっており、軽と重の二つのイメージが掛け違えることで生まれる特殊なバランスは、自由を信条とする天邪鬼な彼女にぴったりだった。


 ジャケットの胸にはマジティアの翼のマークが刺繍され、背中には見たものに風を連想させる模様が飾られる。


 まさに高速戦闘を得意とする天空の魔女に相応しい一品だ。


 その完成度の高さを、後から合流した――もとい仕事をほったらかして逃げ出したシスターを捕まえにきたバルにお披露目する。


「ねーバル。どおどお?」


「少し太もも出し過ぎじゃないか?」


「……エロバル」


「デュフフ、フィーリアさん。青春ですねー」


 太ももを隠そうとモジモジするフィーリアを見て、ことりは不気味に笑った。

 元気っ子が時々見せる異性への恥じらい。いつもよりほのかに赤らめた頬。


 そんな甘酸っぱい光景は近所のおばちゃん……いや、蒼井ことりにとって大好物な光景だった。



「へへーどう、お嬢。うらやましいでしょー」


「残念でした。私もおじ様から頂いたわよ。今度のリオマティアで見せてあげるわ」


「私の分もあるんですよ。これです!」


 ことりの取り出した服は、赤いセーラー服だった。  

 セーラー服独特の大きな襟や三角形のスカーフは幼いことりの繊細さと清楚さを引き出し、服の端々に炎をイメージした刺繍が魔法使いとしての力強さを表現している。

 胸元にはフィーリアと同じくマジティアのマークも刻まれ、まさに勝負服といった感じだ。


 新しい服は新鮮でワクワクする。特にマジティア用なのでなおさらだ。


「早くリオマティアの日にならないかなぁー」


 ルンルン気分で衣装を抱きしめることりへ、クウは意味ありげに笑った。


「メンタル面もいい感じに仕上がってるな。最近は合体にも抵抗しなくなったし」


「ふふふ、つらい現実なんて目を逸らしてしまえばいいんです。

 目を閉じて時間が過ぎるのをただ待つだけ……

 そうすれば誰と口と口を合わせようが何も感じません!」


「薄い本が厚くなるような目をしてたのはそういうわけか」


「どうですか、私の辿りついた新たな境地は!」


「そそる。次は絶対ぇ泣かせてやる、その瞳」


「しまった。相手はドSでした!?」


 心を保つ防衛手段を少女は早くも失った。

 膝から崩れ落ちたことりの目の端に、フィーリアのファッションチェックをするバルがとまる。

 そしてふと思った。


「そういえば、さっきの基準でいうとバルさんはどういう評価なんですか?」


 目立たない、地味、あいついらない。などとミニオンとしてはかなりのバッシングにあっているバル。自分も似たような立場だからこそ、ことりはクウの採点が気になった。


「あいつは……化け物だな」


 返ってきた答えは予想外過ぎた。


「魔法キャンセルなんて言葉は簡単でも、実際はそんなに単純な技術じゃねえんだよ。 

 解呪師っていうのは大掛かりな儀式や対価を必要とするのが常識なのに、あの神父は拳一つで全てを解決してる。

 しかもギアカード抜きの完全なマニュアルテクニックでな。

 術を見抜く力や、反エネルギーを生み出すセンスが正直、神業と呼べるレベルだ」


「クウさんがそこまで褒めるなんて……」


「お前とルイのコンビが『単純で馬鹿丸出しのパワータイプ』なら、あの教会コンビは『天武の才能を秘めたテクニックタイプ』ってとこかな」


「ちょいちょい人のこと貶さないと解説できないんですか?」


 同時に、バルが野球ボールに足を滑らせてコケていた。


「でも、それだとバルさんの評価が低いのは可哀想ですね」


「見た目は地味だしな。おまけに解呪師は魔導師から逆恨みされる不遇職として有名だ。

 そう考えるとマジティアでギャグキャラやってる今ってわりと幸せなんじゃね?」



 すると向こうではバルが足元のボールを拾い上げ――


「これが野球の硬球か……初めて触ったが、名前通り硬いんだな――」


 刹那、タタロスの拳がバルごと硬球を叩き潰した。


「私の方が硬い!!」


 なんかプチって鳴った。



 ゴキブリの様に潰された神父を見て、幸せってなんだろう。と少女は深く考えた。





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