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33話 特訓開始です!~飛行編~


 本日も空は晴天。ガラスの様に透き通った青空に、薄く白みがかった地球が浮いている。

 少し薄いが空気は清涼感に溢れ、時折に流れる心地よい風量が優しく肌を撫でていた。

 遠くでは月面のポートを行き来する宇宙貨物船が忙しなく飛んでいる。


 そんな爽快な空のど真ん中で――

 ことりは体を震わせ、泣きそうになっていた。


「ううう、怖いよぉー」


「情けない声を出すなよ」


「だ、だってぇー。前は夢中で気付かなかったですけど……」


 飛行魔法フリューゲルの特訓。

 その内容は実際に生身の体で空を飛ぶことだった。


 現在の高度は地上の人々が豆粒の様に見える高さ。


 高い、そして怖い。


 初飛行の時の高揚感を失った現在、ことりは気を失いそうになっていた。

 カタカタ震える幼い手をフィーリアがしっかりと握り締めている。


「やっぱり、リアルボディで空を飛ぶのは怖いです!

 せめてマジティアみたいにイナク体で練習することを希望します」


「むだむだー。イナク体での基礎練習は意味無いよ。仮の肉体の感覚は現実に戻るとぼやけちゃうからねー。

 そもそもあのシステムって高いから迷える子羊には買えないし」


「財力ってある意味、魔法ですよね……」


 前回の暴走のイメージが頭をよぎり、どうがんばっても空を飛べる気がしない。

 この高さまで来られたのもフィーリアがいたからだ。


「最初は私が目を光らせてるから安心して飛びなよ」


「ううう、ありがとうございます」


「あ、バルが見える。いえっふー!!」


「ひぃー、手を離さないで! こっち見てぇー!! 落ちる、落ちますー!!」


 残念なことに命綱はいまいち命の保障をしてくれない。

 ことりは縋る気持ち半分、恨めしい気持ち半分でフィーリアを眺めた。


 フィーリアのいる教会は意外とお屋敷の近所だったようで、おかげで毎日のようにシスターはサボりに来ていた。そして連れ戻しにきたバルと追いかけっこをしている。


 神父との普段のやりとり。そして今も嬉しそう手を振っているフィーリアのキラキラとした笑顔を見て

 


  ―――はうわぁ! と、ことりは感づいた。



「デュフフ、クウさん。私、気づいちゃいました」


「何をだよ、いきなり不気味に笑いやがって」


「デュフフ、フィーリアさんって実はバルさんのことデュフフなんですよー」


「気持ち悪いからその笑い方やめろ」


 魔法、イケメン、恋愛話。この三つはことりにとって大好物の話題なのだ。

 ことりは手足をジタバタさせてフィーリアに近寄ると、ずばり問いただした。


 すると彼女は、にしし、と微笑み返す。


「バルのこと? 好きだよー。だから一生お世話してもらうんだ」


「……なんだかデジャヴュを感じますね」


 どこかのダメニートの残した台詞と重なり、ことりのトラウマが抉られる。


「それより、本当に旦那と合体してるんだね。すっごいやー」


 精神的なダメージを受けていることりを軽く流し、フィーリアはまじまじと見つめると――

 突然、「うへー」と呻き、たまらず口元を押さえた。


「でも合体ってグロいんでしょ!?」


「グロい……ですか?」


「バラバラに分解された旦那の肉を、ことりがついばむってお嬢が言ってたよ」


「まさかの猟奇事件!?」


 するとクウがこっそりと念話を飛ばす。

 魔法を使うごとに裏でチュッチュしていることを知られたいか? と――


「……その通りです。うげーって感じなので決して見ないで下さいね!」


 人として大切なものを天秤にかけた結果、少女は何かに魂を売り飛ばした。







 しばらくすると浮遊にも慣れ、恐怖も少しずつだが薄れ始めた。

 そして特訓は軽く速度を出す内容へとステージを移している。


「上手、上手。思ったより筋は良いねー」


「本当ですか!?やったぁー」


「……おお神よ、懺悔します」

「お世辞なんですね……気を使わせてしまって、申し訳ないです」


 しかし一進一退だが、空を飛ぶというイメージは身につき始めている。 

 相変わらず不器用な姿を晒してはいたが、成長はしているはずだ。


「まあ、気にしない気にしない。それに飛行特訓は魔力コントロールを身につけるのにも役立つから、ギアカードのフルオープンやユニゾンドライブの習得にもつながるよ」


「……はあ。フルオープン? ユニゾンドライブ?」


 全く理解出来ていないことりに、クウがやれやれと補足を始める。



「どっちもギアカードを使った高等技術だ。


 フルオープンは通常のギアカードより何倍もの出力を扱う技。


 ユニゾンドライブは二人以上の魔道師が互いのカードをシンクロさせて放つ技。


 わかりやすくいえば、超必殺技と合体魔法のことだよ」



「あ、それならわかります。試合で出ると、すっごく盛り上がっていますよね」


「要するにこの特訓を続ければ、全体的な魔法のレベルアップにも繋がるってことさ。

 お前はその辺が絶望的にド下手だからなおさらな」


「いつも解説はありがたいですが、最後の一言は余計です」



 クウの解説が終わったちょうどその時――

 二十代後半の婦警さんがタイヤのない空飛ぶバイクに乗ってやってきた。


「ちょっと、そこの君達ー」


 魔法のバイクを扱う彼女はガーディアンクルと呼ばれる魔法警察だ。

 普段は魔法の事故防止に目を光らせ、魔術事件が起こればたちまち急行する。

 捕獲用術式が詰まった大きな銃を背負った姿が印象的な魔法のお巡りさんである。


 彼女の話によると、このあたりの空は飛行禁止のエリアらしい。

 ことり達はいつの間にかセントラルポートにかなり近づいていたのだ。


「それじゃあ、移動のついでに今日の仕上げといこっかー」


 するとフィーリアは丈夫そうなロープをことりの体に括り付け――

 天使のような笑顔を振りまいて、悪魔のような言葉を告げる。


「最後に高速飛行の感覚を体で覚えて貰うよー。そーれっ!!」


 そして全速力でことりを引きずりまわした。


「ふええー。と、と、とめてくださーい! うっ、気気持ち悪っ!!」


 目の回るような全力飛行に振り回され、ことりの絶叫が空に響いた。

 胃からこみ上げる何かが吐き出される瞬間は、刻一刻と近づいている。





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