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31話 すっぽんぽん



 獅子の口から浴槽へ。流れ落ちるお湯の滝は滑らかな曲線を描き、湯船へたどり着く。

 贅沢に大理石で形成された広いお風呂場は白い湯気で満たされ、試合の疲れを存分に癒すのに最適な空間を提供していた。


 いつもは固く縛っているおさげ髪を解きほぐし、雪の様に白い素肌をほんのり朱色に染めて、シスターフィーリアは心地よさそうに叫んだ。


「いえっふー。見つけたぜ、あたしのエデン!」


 肩まで湯船にしっかりと浸かり、気分はまさに極楽極楽。

 フィーリアは自然とほへーとだらけた表情になってしまう。


 試合後、ことりはフィーリア達をお屋敷での夕食に招待していのだ。


「お風呂の後にはキンキンに冷えたフルーツゼリーも用意していますよ。

 助けて頂いたお礼ですので、遠慮なさらずに楽しんで下さい」


「うむ、よきにはからえー」


 一緒に湯船に浸かりながら、ことりは改めて御礼を述べた。

 感謝の気持ちを込めた接待は、シスターの心を見事に射止めたらしい。

 フィーリア達のいる教会は孤児院も兼ねているそうで、バルはちびっこ達の世話が終わってから来る予定だ。だから二人は待っている間に入浴をしていた。


「うちの教会は院長が地球で拾ってきた子ばっかで、皆でホーマーって名乗ってるんだー。

 一番年長が十七歳のバルで、あたしはナンバーツー。えらいんだぞー」


 ブイッとサインを出して胸を張るフィーリアに、ポーっと見とれてしまう。

 巨乳とはいかないがきちんと出る所が出て、凹む所が凹んでいるメリハリのあるスレンダーな体。

 透き通るような白くキメ細やかな肌には瑞々しい弾力がある。

 湯気でしっとりと輝く金髪もエメラルドの瞳とあわさりお人形のように可愛い。


「隙あらば仕事をほっぽらかして逃げ出すシスターがよく言うわ」


「なにさー、お嬢。接待されてるのはあたしなんだから、勝手に入ってこないでよ」


「あら、私はことりの大親友なのよ、だからいいの」


 ね、ことり? とルイに呼ばれたが、少女の視線は一点に釘付けだった。


 ルイさん……大きいです!


 おっぱい。ただその単語が頭の中で繰り返されていた。

 普段から大きいことは察していたけれど、改めて生で見ると驚異的な存在感に心の底から感動した。

 軽く押さえただけで深く刻まれる柔らかな胸の谷間、その華々しく激しい高低差は、ことりには永遠に手の届かない神の領域に思える。


 きらきら光る長い銀髪にサファイアの瞳は、まるでどこかのお姫様みたいだ。

 クウにはアホ毛と馬鹿にされているが、触覚の様にぴょこんと生えた一本の癖毛も高級なアクセサリーの様に見栄えしている。

 さらに健康的な肌色は、ほんのり桜色を含み、お風呂という秘密の園で可憐な花を咲かせていた。


「はわわ。私、なんだか大変なものを見ている気がしてきました」


 世間で有名な美女達の裸を独占している事実に、ことりはドキドキしてしまう。


「それよりも、フィーリア。さっきの話の返事は?」


「いいよ、引き受けてあげる。ことりもお菓子も気に入った」


 フィーリアはことりの肩をがっしりと組み、ご機嫌に返答をした。

 だが当のことり本人は何も聞かされていなかったので、ルイへ詳細を求める。


「あなたをフィーリアに鍛えてもらうわ。正確には飛行魔術フリューゲルの特訓よ」


 この件はクウも了承済みらしく、ルイは順を追って説明を始めた。

 そもそも飛行魔法というのは非常に難しい術だ。操作ミスや、落下イメージからの暴走、わき見運転、空中でガス欠など失敗にもさまざまな要因がある。

 クウがフリューゲルの使用をギリギリまで渋ったのはそのあたりが理由だ。

 使用には魔力コントロールの技術が必須であり。さらに使いこなすには練習を繰り返して熟練度を上げることも重要だ。適切な指導者の存在は成否に関わる。



『マジティアにおいて最も魔導師をおむつにしている魔法は何か?』



 その問いにルイが答えを教えてくれた。


「ランキング一位は飛行魔法よ。理由を聞きたい?」


「ふええ……心当たりあります」


 さっきの恐怖が背筋を凍らせる。確かにあれは死ねる。


「ちなみに二位が爆発系魔法で、三位は火炎系魔法よ。暴走の瞬間に魔力を微調整してアフロ芸で済ませてくれているクウに感謝しておきなさい」


「ギャグで済んでいるうちが華ですもんね」


 ことりは口元をヒクヒクとさせながら答える。

 背後でおむつの足音が聞こえた気がした。


「あたしに任せとけ、びっしびし鍛えるよー」


 えいえいおーと、フィーリアと二人で気合を入れた。


「がんばって特訓して、リオマティアでお披露目だね!」


 魔術国家であるルーカディアが国を挙げて行うお祭り、イヴの生誕祭。

 リオマティアとはそんな大規模なお祭りの中で行われるマジティアのことだ。

 内容はウィクターもミニオンも関係ない完全な個人戦。生き残ることだけを唯一の正義としたお祭りバトルロワイヤルであり、ルイとフィーリアが再戦の場に選んだ舞台だ。


 リオマティアで勝利しても、公式戦のポイントは付かないらしい。


 あくまで催し物の一つの扱いであるため、人気のある選手は他のイベントの方に回る場合も多く、ルイとフィーリアも今回が初参加とのことだ。

 選手であれば参加は自由であるため、もちろんことりも一緒に出るつもりだ。


 そしてイヴの聖誕祭で自由自在に空を舞う自分の姿を想像してみる。

 ……悪くない。むしろフィーリアのように皆の前で可憐に舞ってみたい!


「絶対にリオマティアまでにフリューゲルをマスターしてみせます!」


 少女の胸には少々、邪な野望という名の炎が着火していた。


「今日は結構スピードも出てたし、鍛えればあたしの次ぐらいに飛べるようになるかもね。

 その時はあたしのミニオンにするから、二人で組んでお嬢をボコろうぜぃ」


「ちょっと、人のミニオンを勝手に引き抜かないでくれる!?」


「ふっふーん、少なくともリオマティアでは手を組むのも『自由』だもんねー。

 普段はありえない組み合わせが見られるのも醍醐味の一つじゃん」


 フィーリアはことりへ懐柔を投げかけると、ルイに挑発的な視線を送った。

 そして風呂桶から十字架のマナストアを取り出すと光の翼を広げ――


「なんなら、ことりを賭けた前哨戦でもやる?」


「フィーリアさん、何をしているんですか、すっぽんぽんで!?」


 生まれたままの姿でフィーリアは宙に浮かんだ。


「……おもしろい。その翼へし折ってあげるわ」


「やめてください、ルイさん。すっぽんぽんで!」


 ルイも指輪に口付け、小型のタタロスを召喚する。

 誰もことりの叫びは聞いてくれない。二人の魔女は既にノリノリで構えている。

 もう駄目だ。早くこの場から逃げないと大変なことになる。

 猛ダッシュで脱衣所へ逃げ出すことりの背後から――


「「ギアカード オープン」」


 岩石ゴーレムと風の魔術がぶつかりあった衝撃で、少女は勢いよく吹っ飛ばされた。

 勢い余って脱衣所を抜け、廊下に飛び出し、止まる――

 すっぽんぽんで。


「ううう、本当に二人とも見境が……」


 そして少女は固まった――

 なぜなら目の前にクウがいた。そして自分は全裸だった。


 まだまだ幼く小さな体躯。少しだけ膨らみ始めてはいるが、ルイ達と比べるとあまりにもお粗末な胸。適度に引き締まっているが、全体的に丸みを帯び若々しいお尻。

 生まれたままの姿を、少年の前で全てさらけ出していた。


 だがクウは少女をまじまじと見て――

 心の底から馬鹿にするように、鼻で笑った。


「はん。なんだ、ハズレか」


「は、鼻で笑った! しかもハズレって言ったぁー!!お、乙女の裸を見たくせにぃー!!」


 ことりは急いで身を隠し、顔だけ廊下へ出して抗議した。

 しかし少年は何事もなかったように、背を向けて去っていく。


「ク、クウさんのくせに! クウさんのくせにぃぃー!!」


「すっぽんぽんで人をディスるな」


 少女の金切り声に、クウは背を向けたままひらひらと手を振って答える。

 ことりは今日からしばらくクウの食事を海苔だけにすることに決めた。







 バルはさっきから呼び鈴を押し続けているが――誰も出ない。


「まあ、勝手に入っていいと蒼井君には言われているしな……」


 生真面目な神父は誰もいないのに「お邪魔します」と断り、屋敷の中へ入る。


「立派な屋敷だな。お、犬もいるのか」


 はぁはぁと勢い良く尻尾を回す犬が近づいてきた。

 愛嬌いっぱいの大型犬は、じゃれるようにのしかかると、バルを床へ押し倒した。


「こらこら、よさないか。人懐っこい犬だな」


 よしよし、と撫でているうちに気づく、ポンポンポーンと服を脱がされていく事実に。


「ちょ、ちょっと待つんだ。なんで俺の服を脱がす!?

 そ、そんな所を舐めるのは、あふん……や、やめてくれぇ――!!」



 その後、ピカピカになったすっぽんぽんのバルが屋敷の隅で発見された。






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