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28話 ミニオン達は役に立たない



 やっとのことで脱出に成功したバルは、ことりに何度も頭を下げていた。


 先日の言動や生真面目な対応もあり、バル・ホーマーは不思議と敵とは思えない好青年だ。

 むしろ誰かさんとは違い、優しい目つきに健康的な肌色は見た目に派手さはないが非常に好感が持てる。背もクウより少し高く、頼りがいのあるお兄さんという印象だ。


「本当にありがとう。もう少しでお茶の間に全裸をお届けするところだった」


 最後にもう一度深々とお辞儀をすると、バルは改めてことりと向き合った。


「だが俺達は敵同士、悲しいが最後は戦うのが定め」


「そうですね。それはそれ、これはこれでいきましょう」


「意外としっかりしているな……だが神に仕える者として、礼を欠くわけにもいかない。

 だからお礼に俺の能力をネタバレしておこう」


 バルは十字架のネックレスに軽く口付けし、魔法を体内へと取り込んだ。

 すると彼の両手に十字の紋様が刻まれた漆黒の指貫グローブが出現する。  


「術式は消失。言霊は感謝。導師名はザ・ナックル。

 この輝く拳が、バル・ホーマーの魔法『祈祷拳』だ」


 彼が祈りを捧げると白い輝きが拳に灯る。バルは拳を上げ、自らの能力を叫んだ。


「神に感謝することで輝くこの拳は、様々な魔の力を打ち消すことが出来るのだ」


「すみませんが、よくわかりません!」


「……つまり魔法を殴ってキャンセル出来るんだ」


 自信満々に不理解を宣言する少女に、バルはしょぼんとして要約した。

 魔法を消す魔法使い『解呪師』。それがバル・ホーマーの能力なのだ。


「さあ、それでは始めよう。俺はこれから君の魔法を全て打ち砕く。

 君の魔力が尽きるのが先か、はたまた俺が根を上げるのが先か……

 根性比べといこうじゃないか」


「そんなの……そんなのって……」


 ことりはががん!とバルの言葉に衝撃を受ける。

 思わず数歩後退し――

 半ばヤケクソ気味に叫んだ。


「そんなにポンポン魔法なんか使えませんよ!

 私は一発一発が命がけなんです!」


「……え。本当に!?」


「特に今は割とビビッているので、絶対に失敗する自信があります!」


 だから撃ちません。と、ことりは胸を張って頷いた。マジである。


「俺も消す以外は出来ないからなあ……」


 神に仕えるバルには、年下の女の子をグーパンするという選択肢は存在しない。



「「……どうしよう」」



 見つめ合ったまま、二人の間に気まずい時間が流れ――

 そしてどちらともなく一つの結論に至った。


「……途中まで一緒に行こうか」


「争いは良くないですよね」


 どこか遠くから、名物審判ミスジャッジの「おーっと、ヒヨったー」と実況する可愛い声が聞えたが、二人は聞えないフリをして先を急いだ。







 幾度と無くぶつかり合うルイとフィーリアの魔術と魔術。

 激突した互いの魔力の残滓が光の粒子となってあたりに霧散し、煌きが線となり重なる。

 この戦いの果てにあるのは唯一つ、魔道師としての自己満足のみ。

 けれどライバルだと認めているからこそ、決して譲れない戦いがここにはある。


 自身にプライドという言霊を掲げるルイ・リンバースにとって、今この瞬間は己をより高みに近づける至高とも呼べる時間に他ならない。


「ちょろちょろと、うっとおしい!」


 悪態をついていてもルイの凶悪な笑みは崩れない。


「さすがは、ルーカディア一の飛行魔法の使い手ね。機動力じゃ分が悪いわ」


 見上げる空には、白く輝く六枚の光翼ジュピタルを展開したフィーリア・ホーマーが高速で旋回している。

 紺色の修道服に身を包み、機械的な形の翼を背に装着した彼女の魔法は、思わず魅入ってしまうような神秘的な輝きを放っていた。


 誰も縛ることのできない、この世で最も自由な天使『ワンダーエンジェル』

 自由自在に空を舞い、気まぐれな風を味方に付ける。それがフィーリアの魔術だ。


「でも……勝つのは私よ。このルイ・リンバースのプライドに賭けて!」


 銀髪の魔女は必殺のギアカードを引き出し、唱えた。


「ギアカードオープン 指強化フィンガーアムド。撃ち抜け、タタロス!」


 滞空するシスターへ向け、タタロスは掌を構えると十指をミサイルの様に発射した。





 十本指の岩石弾が空の魔道師を捕らえんと一直線に天へ雲を描く。


「さすがお嬢、攻守共になかなか隙がない」


 迫るルイの術を視界に捉えながら、フィーリアは感嘆の声をあげていた。

 このままルイを無視して目的の塔へ、ひとっ飛びしてしまおうか……?

 悪戯っ子特有の悪い考えが一瞬、頭をよぎった。

 だが心の底から勝負を楽しむルイを見ていると、その気も失せてしまう。


「こんな面白い勝負、楽しまないと『自由』じゃないでしょー」


 へへへと悪戯少年のような笑みを浮かべ、フィーリアは迫る魔術へ突撃を開始する。


 生まれたのは圧倒的な速力――

 天空の魔女は追尾する十指のミサイルをスピードと高度な飛行テクニックですべて回避し、カウンターのギアカードを構えた。


「いっくよー。ギアカードオープン 風撃ヴァン


 魔術の込められた手刀を振り下ろすと同時に、風が収束し衝撃波が放たれる。

 だが、ルイはタタロスの腕を盾にすることで風撃をガードした。


「むむむ、相変らずカッタイなー」


「あなたこそ、相変らず速いわね」


 苦笑いする間もなく、互いに次の術に備える。


 交差する視線が二人の想いをより高め、臨界点を越えたまゆたまの光がスパークする。


 そうだ。もっと……


 もっと遊ぼう、我がライバルよ。


「「ギアカード オープン!」」







 ジャングルの動物には毒が多い。ことりが誤って踏んでしまった蛇がいい例だ。

 襲い掛かる蛇の牙から少女をかばい、毒を受けた神父バル。

 そんな彼を助ける為に少女は解毒剤を求めて原住民と決闘、そして和解。

 解毒後は皆でキャンプファイヤーを囲んだ。


 時にはバルと二人で腹を空かしたトラに追いかけられ、時には途中で出会った像と仲良くなって背中に乗せてもらい、時には求愛行動が過剰なゴリラに攫われた。


 まさに友情、努力、勝利を詰め込んだサバイバルドキュメンタリーは視聴者の涙を誘い、なんとその日の最高視聴率を記録していた。


 ただしここまで魔法は一切関係ない。


 そんなこんなでジャングルを抜けると、だだっ広い平原が広がっていた。

 中央には宝の眠る塔が聳え立ち、入り口をくぐったすぐ目の前の広間に、宝を収める台座が設置されている。塔の内壁をなぞる様に建設された階段は、見上げると螺旋を形作り、最上部ではたくさんの宝箱が空中で浮遊している。


「どれかに宝が入っているのだろう。それをここまで持って降りれば目標達成だな」


 バルが解説してくれたが、ことりは行動を起こせずにいた。

 なぜなら大きな問題が一つ発生したからだ。


「最上階に登る手段がないですね……」


 塔の下位のフロアは無残にも破壊され、ほぼ廃墟と化していた。

 大砲を真正面から打ち合ったような大穴がそこらじゅうに開いていて、その影響で階段も完全に消滅していた。塔が立っているのが不思議なレベルで壁ごと消滅している。


「フィーとルイ君だな。全く、二人とも勝負に熱くなると見境が無くなるな」


 塔すらも屠る二人の魔女の戦い。まだまだ激戦が続いているようで、連続した爆発音が塔の外を騒がし、小さな地響きが絶え間なくことりの体を揺らしていた。

 そして理不尽にも宝へ移動する手段を無くした二人のミニオンは、


「美味いな、このお菓子は。これが手作りだとは蒼井君には恐れ入る」


「えへへ、喜んで貰えて嬉しいです。宜しければ、フィーリアさんの分もありますよ」


「助かる。あいつはお菓子に目がないんだ」


 やることが無いので、野原でまったりとお茶会をしていた。

 全く緊張感のないふわふわとした二人に「人はここまで役立たずになれるのかぁー」「ゼロ+ゼロはゼロにしかならないぞ」とマイクアナウンスが届くが――


「ミスジャッジは、私達が何を言われても傷つかないと思っている節がありますね」


「全くだ。言葉は刃だということを今度ミサで教えてやらないといかんな」


 うふふ、あはは、と役立たず達は現実から目を逸らして笑った。

 すると二人の目の前に、突如として黒い影が落下する。

 激しく大地がシェイクされ、凄まじい土煙が場に立ち込めた。


 影の正体は互いに術をヒットさせ、相討ちとなったルイとフィーリアだ。

 ロックの効果で動けないウィクター二人は声を揃えて叫んだ。


「「戦えよ、あんたら!」」






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