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27話 メイド少女は強引にされるのがお好き



 開始と同時に醜態を晒したものの、着実にことりは目的の塔へと近づいていた。

 けれど途中で何度もトラップにひっかかりかけ、その都度クウから注意を受けて事なきを得ているのが現状だ。


「そもそもお前は観察力が無さ過ぎるんだよ」


 故に道すがら、クウからのお説教が始まっていた。

 おかげでことりの頬はずっとフグのように膨らんでいる。


「拗ねるなよ。今日の合体はあんなに素直だったじゃねえか」


「――っ、言わないで下さい!」


「お前ってさ、強気でこられると拒めないタイプだよな」


「わーわー!!聞こえない。聞こえないです!!」


 一瞬で少女の頬が赤く染まる。

 流されて受け入れた、恥ずかしいキスの思い出に――




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 それは試合前の選手控室でのこと――


 クウによって抵抗も虚しく壁際に追いやられ、ことりは全てを諦めていた。

 顔は悔しさが滲み、最後の意地としてクウへ吐き捨てるように悪態をつく。


「さ……さっさと終わらせて下さい」


「なんだよ、急に投げやりになったな」


 何度拒んでも結局は押し切られ、受け入れてしまう。

 言いたいことは山ほどあるが、これが魔法を使う為の対価だというのなら――


「諦めるしかないんです。ルイさんの為にも我慢します」


「へえ、なかなかに殊勝な心がけなこった」


 にやにやと、クウは厭らしい顔を浮かべ――


「でも――それは違うだろ?」


 突如、表情と声色を重く暗く豹変させる。

 全てを見透かすような瞳と真に迫る声がことりの背筋を凍らせる。


「夢の為にはこの力が必要不可欠。だからお前は俺のことを受け入れたんだ――

 ルイのせいにして、そこから目を逸らそうとしてんじゃねえよ」


 投げかけられる言葉の一つ一つが幼い少女の胸を締め付ける。

 大事な秘密を箱から出して目の前で並べられていくような感覚を前に、ことりの背にゾクゾクと奇妙な電流が走っていた。


「人に責任を押し付けても、汚れちまったお前の体はもう元には戻らねえんだぜ?」


 少年の親指が、ゆっくりとことりの唇をなぞる。

 これまで交わした口づけの記憶を反芻させるように、ゆっくりと優しく。


「大切なものを捧げて、望んだ対価を得る。

 喜べよ。欲望に従順に生きる今のお前は、見事に魔道の真髄を体現してるぜ」


「……そんなこと……ないもん」


 掠れるような声で、ことりは小さく反論する。

 だが、それはもはや意味のない行為だ。


「それじゃあ、やめるか? いいいんだぜ、俺は今すぐ降りたってな」


「―――っ、嫌です! 私はもっとルイさんとマジティアに出たいです!」


「なら……言わなきゃいけないことはなんだ?」


 私はもう、逃げられない。

 そう悟った少女は瞳を潤ませ、上目遣いで懇願した。


「……キス……して下さい」


「お願いします。だろ?」


「……お願いします。私にキスして下さい」


 逃げ道のない屈辱的な羞恥心が、ことりの中で背徳的な疼きとなって駆け巡っていた。

 震える少女の唇を、クウは顔ごと強引に上へ持ち上げると、


「いいぜ。ご褒美にとっておきをくれてやる」


 途端に、奪われる。

 最初は触れるか触れないかの距離を保っていた唇が、強引に一線を越えた。

 互いの唇を通して流れ込む、術式の熱い波――

 膝はあまりの心地よさに耐え切れず力を失い、ことりは姿勢を維持する為に、おずおずとクウの服をぎゅっと握る。


 そして合体を終え、火照った体を壁に預けた少女は――


「……ちなみに今日のシーンの元ネタは?」


「ジジイと共同購入したギャルゲー」


「あとで私にも貸して下さい」


「十八禁だからダメだ」


「……十六歳のくせに!」



 そうやって虚勢を張らないと流されてしまうぐらいに、今日のキスは凄かった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「まんざらでもないかも……なんて思ってないですから――!!」


 ジャングルのど真ん中で少女の声が木霊し、少年に「うるせえ」と怒られた。

 クウには秘密だが、回を増すごとに合体が気持ちよくなってきて非常にまずいのだ。


 それに影響されてか、キスを迫ってくるクウのキリッと顔も格好良く見え――


「忘れましょう! それがきっと正しい答えです」


 雰囲気に流される――

 自分がそんな押しに弱いタイプであることを少女は学んだ。


 ことりは一瞬よぎった愚かな答えを切り捨てて、ずかずかと前進を続ける。

 すると道の脇にまた巨大な食虫植物があり――


 思わず足を止める。なぜなら隙間から人間の足が見えたからだ。

 何度見直しても、間違いなく食虫植物に人が飲み込まれていた。


「ほっとこうぜ。敵だろ」


「でも人としてどうでしょうか?」


「そ、その声は蒼井君か!?」


 かろうじて漏れ出る衰弱した声は、神父バルの声であった。


「すまない。恥を忍んでお願いする。引っ張り出してもらえないだろうか」


「どうしましょう……」


「頼む! この植物は……人は溶けないが、実は服を溶かすんだ」


「服……ですか?」


 よく見るとことりも服が所々で溶けかけていた。

 そして気付く。このトラップの真髄は―――


「そう……このままだと俺は……全裸になってしまうんだー!!

 もう嫌なんだ。ネットでスレッドが乱立するのは、もう心が耐えられないんだ!!」


「安心して下さい、バルさん。あなたを全力でお助けします!」


 泣き叫ぶ神父を、ことりは心の底から救ってあげたいと思った。








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