表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/57

25話 悪戯好きな修道女


 おむつに怯えるメイド少女と、それをニヤニヤと見つめるニート。

 そんな二人の会話は突然の終わりを告げた――


「ふええええー!!ス、スカートが勝手にめくれるー!!」


 どこからともなく風が吹き、ことりの縞々パンツを御開帳し始めたのだ。

 不思議ないたずら風は、いつまでたっても吹き続け――。


「クウさん、た、助けてぇー」


「いや、なんだかさ……生きていてごめんなさい」


「どうして落ち込むんですか!?クウさんのくせに、クウさんのくせに!」


「パンツ丸出しで人をディスるな」



 メイド服のスカートを押さえながら、ことりは半泣きで罵倒した。

 混沌とする状況――

 その原因はフルートを思わせる張りのある声と共に現れる。


「へっへー、ギアカード そよブリーズ。この魔法は迷える子羊達にスカートの中という夢と希望を届ける、めくる側にもめくられる側にも優しいそよ風を生む魔法だよー」



 元気いっぱいの少女が、ひょいと通路の影から顔を覗かせる。

 小麦畑のような金髪を後ろで束ねた一本のおさげがご機嫌に揺れ、吸い込まれそうな青い瞳は爛々と輝き、悪戯っ子のような愛くるしい笑顔が太陽のように輝いている。

 紺色の修道服に身を包み、首から十字架のネックレスを下げた若いシスターだ。



「やるなシスター。だが術の対象は慎重に選ばないとな……」


「うん。そだね……ごめんね」


「どうして二人揃って、落ち込むんですかー!?」


 なぜか意気投合するクウと謎のシスターへ、ことりは必死に叫んだ。

 シスターはことりの前に踊るように移動すると、ぱーっと明るい笑みを向ける。


 まるで天使のような彼女の姿を見て、ことりは思い当った。


「あなたは――フィーリア・ホーマーさんですか!?」


「そだよー。今日はお嬢のミニオンがどんな子か見にきたのさ!」



 胸を張るおさげのシスター、フィーリア・ホーマー。

 愛嬌のある笑顔に、人懐っこい言動、そして天才的な魔術の実力を持つ十六歳。

 歳相応のふくらみを包む清楚な修道服姿からにじみ出るボーイッシュな感じが、世の男性陣から絶大な支持を得ている大人気ウィクターだ。


 ルイのライバルとしても有名であり、二人の戦いはテレビで何度も見たことがある。

 もちろん大好きな選手だから、ことりの心は踊りまくっている。



「サイン下さい! ああ、でもスカート押さえなきゃ……でもサインが……しかしパンツが……

 あー、もうパンツとかどうでもいいです! フィーリアさん。サイン下さい!!」


 葛藤の末、少女は色紙とペンを差し出した。

 全てを天秤にかけた上でのパンツ丸出しだった。


「大したもんだよ。お前って奴は……」


 妻のミーハー根性に、クウは心の底から称賛を送った。






 

 ごちん。とフィーリアの頭に拳骨が振り下ろされた。


「いい加減、魔法を解除してやれ、フィー」


「いったぁー、バルが殴ったぁー」


 神父姿の少年に叱りつけられると、フィーリアは名残惜しそうに魔法を解いた。

 そしてバルと呼ばれた彼はフィーリアの頭を掴んで深々とお辞儀をする。


「フィーのミニオンであるバル・ホーマーだ。この度は誠にすまなかった!」


「バルは本当に糞真面目だね」


「お前は本当にちゃらんぽらんだな」


 神父とシスターのやりとりは夫婦漫才のように熟練していた。

 ことりは「いいですよー」と、サインを小脇にご機嫌な笑みを二人へ向ける。


「なーんだ。お嬢の相棒だから石頭かと思ったら……いい奴じゃん」


「ルイ君も十分良い娘だろう。お前も彼女を見習ってだな――」


「ちぇー、バルはいっつもお嬢の味方ばっか。もっとあたしのこと甘やかしてよー」


 甘えたい盛りの子供のようにフィーリアが駄々をこねる。

 だがバルはフィーリアを無視して、急にモジモジし始め――



「それよりも……俺のサインはいらない……のか?」



 しーん。と気まずい空気が流れた。



 短髪をプルプル震わせ涙を流す神父の名前はバル・ホーマー。

 フィーリアの陰に隠れてしまった、地味で不人気なマイナー選手だった。









 ルイが打ち合わせを終えて戻ってくると、メイド少女の目の前で、金髪のシスターが不人気という言葉を連呼し、短髪の神父が大地に手をついて泣いていた。


「やっほーお嬢、おひさー」


「何をやっているのよ、あなた達は……」


 明るく話しかけるフィーリアに対して、ルイはうんざりした顔を向ける。


「なにさー、ぼっちが無理してチーム組んだみたいだから笑――心配してあげたのに」


「何かが凄く引っかかるけど、心配はご無用よ! 私とことりは固い友情で結ばれているもの! そう、かたい……カタイ……ことりはカタイ……」



 NGワードに反応して、ルイの目がギランと輝いた。



「はうあー!?ルイさん『かたく』ないです。私達の友情はふにゃふにゃのゆるゆるです!」


 必死になだめ、「あやうくぺちゃんこになるところでした。ふう」と汗を拭うことりへ、

 フィーリアは「本当に大丈夫なの?」と疑惑の視線を向けている。


 我を取り戻たルイに、ことりは一連のドタバタの理由を説明した。

 するとスカートめくりという単語が出た瞬間――


「私もやられたわ。公衆の面前で……」


 メラメラとルイに復讐という名の炎が燃えたぎった。

 フィーリアは悪戯の常習犯らしい。


「ちょうど良かったわ。実は次の試合が決まったの……」


「もしかして、あたしと当たるのかな?」


「ふふふ、察しがいいじゃない、フィーリア」


「そろそろかと思ってたしねー。お嬢の鈍足ゴーレムとも久々に遊びたいし」


「面白い冗談ね。あなたの非力なハエ魔法なんてワンパンで潰してあげるわ」


 にひひ、とシスターは挑発的な笑みを作り。

 うふふ、とお嬢様は邪悪に笑った。


「試合の日までに、オムツの準備をして待ってなさい!」

「お嬢こそ、オムツの買い溜め忘れないようにね!」


 訳すると『当日ぶっ殺してやんよ』の意。

 マジティアにおけるオムツの正しい使い方を、ことりは学んだ。


 するとルイは意気揚々と胸を張り、宣言した。


「次の試合の種目はトレジャーバトルよ!」



 宝探しゲーム。それが次の試合の内容だ。

 選手はフィールド内にある所定の位置を目指し、まずは宝をゲットする。

 その後、宝を運んで決められた位置に収めたチームが勝者だ。

 今回の特殊ルールは『ロック』。正式名は『ロックマッチ』だ。

 内容は初戦のリバウンドマッチと少し似ている。

 攻撃に魔法膜が反応する仕組みは同じだが、違うのは『拘束される』という効果だ。


 選手はダメージを受けると動けなくなり、拘束時間はダメージ量に応じる

 リバウンドの時とは異なり、ダメージの蓄積はない。またロック効果中の追加ダメージ判定もないので、動けない相手に攻撃を加えて続けて、永遠にロックすることも不可能だ。


 ルイがポイントをかみ砕いて、ことりに説明してくれた。


「宝を探すか、相手を止めるか。どちらを優先するかの駆け引きが肝になるゲームね」


 そして獣のように荒々しく口元を歪めて、対戦相手へ敵意を向ける。


「もちろん、わたしは後者が好みよ」


「いいよー勝負だね、お嬢」


 金髪の魔女は、あっけらかんと受け止め、「にしし」と最高の笑顔を携えた。



「術は天空。言霊は自由。導師名はワンダーエンジェル。


 このフィーリア・ホーマーの力、見せたげちゃうよー」







感想受け付け中です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ