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22話 彼女の輝き

 突如、タタロスの肩へ魔力の編みこまれた魔法の矢が飛来する。


「ボーっとするな、来るぞ!」


 クウの叫びも空しく、矢は見事にことりへと命中してしまった。

 矢の正体は体が数メートルも吹き飛ぶ衝撃を生み出す魔法だ。


 さらに今回はイナク体に刻まれる『リバウンド』のルールが反応する。


「ひ、ひえええー、飛ばされるぅー!!」


 ことりの体はまるで零れ落ちたピンポン玉の如く軽快に、ポンポンポーンと海岸へ向けて跳ね飛ばされた。さすがのルイも我に帰って振り返るが時はすでに遅し。

 ことりはあっという間に森の外まで押し飛ばされ、ようやく反発の効果を終える。


「ううう、やっと止まりました」


「油断するな、敵はもう目の前だ!」


 クウの声と同時に砂浜で竜巻が起こり、中から鎧姿の少年がド派手に登場する。

 ことりの前に立ちはだかるのは、ミニオンのダレン・ニードルス。

 魔導の杖である緑色の魔法鎧に全身を覆った、もう一人の参加者だ。


「勝負だ、コラ。兄貴とは違う俺様の植物魔法を受けてみろ」


 そして彼は植物で構成された弓矢を構えた。


「千変万化の弓。ギアカード アローエンチャの威力をくらえ、コラ!」


 一撃目、緑の大矢――束縛の効果を持つ魔法の矢が放たれ、見事にことりへヒットする。

 矢は衝突後、ツタに変化して体に巻き付くと、ことりの自由を奪った。


「な、何ですかこれ。動けません!」


 動きを封じられた少女へ穿たれる二撃目は黄緑色の小矢。

 新緑が日光から集めた活動エネルギーを凝縮したイエローグリーンの光矢の嵐だ。

 この矢の一撃一撃の威力は低い。

 故の束縛と連撃のコンボだ。



 植物による武装魔法――これがダレンの魔術である。



 ダメージ蓄積の効果により、先より強力な反発効果がことりに襲い掛かる。

 二度目のリバウンドで、生き残ったのはたまたまだ。

 飛ばされた方向が運よく岩礁地帯だったため、ギリギリの所で岩に引っかかった。


「も、もう少しで落ちるところでした」


「もう後がない。フォーゲルで突破口を開くぞ!」


 ことりはツタから抜け出と、生まれたギアカードに手を伸ばす。

 ここから……反撃開始だ。


「わかりました。ギアカードオープン、フォーゲル(爆裂火球)」


 最初に出たのは、ぱすんという間抜けな音。続いて明らかに小さく弱弱しい火の玉が、へろへろとした軌道を描いて、ゆっくりと目標へ向かって飛び出した。

 もちろんダレンはひらりと身をかわし、「なめてんのか、コラ!!」と、むしろ怒った。


「……失敗だ、このヘタレ。魔力が全然足りないぞ!」


「ひーん、だって怖いものは怖いんですよ」


 失敗の原因は怖れ。

 つまり、ことりはびびっていた。


 仮の肉体イナク体とはいえ、魔法で受けた衝撃も、地面に叩きつけられる痛みも本物だ。

 おまけに攻撃一つ一つに迫力があるので、思わず身がすくんでしまう。

 彼女の言霊は『勇気』その対極にある怯えの感情は、容赦なく魔力を削っていた。


 ダレンから再び矢の嵐が放たれたので、ことりは岩場の陰に身を隠す。


「一度ルイさんの所へ戻ったほうが……」


「そんな隙をくれる相手じゃない。素早い魔法の発動に状況判断も適切、なかなか高いレベルにまとまった術者だ。でも――」


 頭に響くクウの声が、熱のこもった口調で少女を説く。


「でも――お前と俺なら戦えるさ」


 まただ……とことりは思う。

 初めて魔法を使ったときも、少年の言葉が不思議と自分の中で染み渡った。

 そして今も、彼の言葉が自分に力を与えてくれる。


「まずは落ち着いて周りを見てみろよ。ここをどこだと思ってるんだ?」


 頭にまとわりついていた靄が、すっと晴れていく感覚がする。

 顔を上げて見渡した場所は――マジティアだ。



 ここは母と一緒に憧れ続けた、ことりの大好きなマジティアなのだ。



「そっか……うん、そうですよ。どうして忘れていたんでしょうか。

 ここはとてもキラキラで眩しくて、皆がワクワクできる素敵な場所。

 私とルイさんが夢を叶える魔法演武マジティアなんです!」


 そうだ、何も恐れることはない。

 そして信じろ――魔法の力を。


 怯えも、恐れも、全てを乗り越えて少女に勇気の力が宿る。

 魂を震わせる言葉が魔力を生み出し、まゆたまに神々しい炎が燃え盛る。


「クウさん、今なら……いけます!」


「準備できてるぜ、あいつの手数に対抗する新カード。これがお前の新しい力だ!」


 現出したギアカードを握り締めると同時に、奇跡の光が灯る。

 この感覚は忘れもしない、初めて魔法を使った時と同じ力の躍動だ。

 それを一枚のカードに込めて――

 解き放て新呪文。



「ギアカードオープン 爆裂火球群ツーク・フォーゲル



 ダレンの攻撃の隙をついて新生魔法が具現化される。

 術式が展開すると同時に、ことりの周囲に数十の炎の弾が生まれ――


「いっけぇー!!」


 少女が手を振り下ろしたのを合図に、炎の弾が次々と発射されていく。

 炎は魔矢を全て相殺し、手数を制した火弾の数発がダレンへ着弾する。


 一発一発はフォーゲルよりも小さいが、複数の炎弾を操ることで敵を迎撃する呪文。

 爆発する火球群が降り注ぐ広範囲撃滅魔法――

 それがツークフォーゲルだ。


「くそっ、なんて数だ。さっきとはダンチだぞ、コラ!?」


 ダメージ分の反発を終え、ダレンはことりの予想以上の実力に喉を鳴らした。


「しかもこの威力……可愛い顔して、中身はごりごりのパワーファイターか。

凄え、そしてそれ以上に……情熱的で面白え奴だな、コラ」


 予期せぬ好敵手の登場にダレン・ニードルスは嬉しそうに毒を吐いた。





「どうしようクウさん……私、ドキドキが止まらない」


 魔法を打ち合った瞬間に、ことりは自然と理解していた。

 ダレンのまゆたまと、自分のまゆたまが、真正面から激突し、練磨される感覚を。


 それは熱く激しい魂の邂逅だった。


「一つ一つの魔法に込められた相手の気持ちが、私の中に流れ込んでくる――

 その瞬間が……とても眩しくて、ドキドキが止まらないんです!」


 マジティアとは魔法使いがまゆたまを鍛える為の儀式である。

 頭では理解していたはずのその言葉が魂魄の経験を経て、ことりの中で智見へと至る。 


「やっとわかりました。こうやって魔法と魔法を……

 まゆたまとまゆたまを……

 むき出しになった魂が、互いに全力を出してぶつかり合う――


 これがマジティアなんですね」 


 するとダレンが声高々と吼えた。

 少女が全力を出すに値すると認識した少年は魔導師としての口上を述べる。


「術は草木。言霊は情熱。導師名はグリーンナイト。俺様はダレン・ニードルスだ」


 お前の名は? と問いかけるダレンの眼差し。

 彼の名乗りに、ことりも精いっぱいの声量で応えた。


「私の名前は蒼井ことりです。術は爆炎。言霊は勇気。導師名はまだありません。

 でも私は……私は魔法使いになりました!」



 互いが互いの魂を認めたその瞬間、二人のミニオンのまゆたまが激しく輝いた。







 仮想世界で生まれた強烈なまゆたまの閃光に――


「すばらしい光だ……美しい」


「凄い。これがことりのまゆたまの輝き……!?」


 二人のウィクターは戦いの手を止め、思わずその光に魅入っていた。


「ダレンの輝きもなかなかに魅力的。だが一見、気弱そうなあの少女があそこまで見事な輝きをもっているとは興味深い……ルイ嬢、彼女は一体何者なんだい?」


 レイヤへの答えは一つだけ。

 ことりのまゆたまの波長に引き上げられ、徐々に力を増していく共鳴りの力を胸の内に感じながら、ルイは不敵な笑みで答える。


「あの子は、私の選んだミニオンよ!」


 魔女の笑みを火蓋に、実力者達の戦いはクライマックスへと突入した。






 

 二人のミニオンの最後の激突――

 先に動いたのはダレン・ニードルスだった。


「ギアカードオープン ソードエンチャ。いくぜ、情熱的に勝負だコラ!」


 草木で編まれた魔法剣を装備し、ことりへ突撃を開始する。

 それと同時にクウが、最後のギアカードを少女に託していた。


「ここまできたら小細工はいらねえ。特大のフォーゲルでぶっ飛ばしてやれ!」


 輝きを得たまゆたまが、今までにない力を与えてくれる。

 生まれた力の全てをギアカードへと託し――

 眼前に迫るダレンに向けて、ことりは必殺の魔術を解放する!



 だが―――



「ギアカードオープン フォー……ぐえ!?」


 勢い余って少女はこけた。そして噛んだ。


「ば、馬鹿! そんなことしたら―――」


 クウの焦りも時は既に遅し。ギアカードを中心に激しい爆炎が巻き起こる。

 炎の波は場にいる者の全てを巻き込み、絶望的な熱量の暴動が猛威を振るう。

 そして内包した魔力の炸裂が地形を変えるほどの大爆発となり仮想空間を揺らした。


 結果、大量の白煙が爆心地を覆い、残ったのは焦げた大地と底深い大穴だ。


 観客と審判はダレンとことりを探したが、二人の姿はどこにも無い。



「ううう、あんなに盛り上げといて自爆なんて……私って締まらないですね」


 ことりがいたのは数メートル先の海の上だ。

 爆発のせいで見事なアフロ頭になった少女が海に浮かんでいた。


「相打ちだったのがせめてもの救いだな」


 クウの示す先には、同じく丸コゲになったダレンが浮かんでいた。


「ふふふ、熱い。まるで俺の情熱と同じような女だ……惚れ……たぜ、コラ」


 ダレンが残した最後の呟きは、誰にも届いていなかった。

 そしてこれを機にメイドのミニオンには、アフロ頭のことりをモジった『アホウドリ』や、『こけし爆弾』という不名誉なあだ名がつけられたのだった。








 注目の二人、ルイとレイヤの戦いは佳境を迎えていた。


「オープン『コンクエスト・レイヤ』。さあしもべたちよ、ルイ嬢を捕らえよ」


 同時に地面からレイヤの上半身が生まれ、両腕から動きを封じるツタを放つ。

ツタはタタロスに絡みつき、ルイごと巨人の動きを封じた。


「相変わらず趣味が悪い魔法ね。こんなに自分ばかり量産して気持ち悪くないの!?」


「ははは、僕は自分が大好きなのさ!」


「くっ、いろんな意味で恐ろしい奴ね」


「すぐに君も身をもって理解できるよ、僕の美麗な魔法へのこだわりがね」


「やれるものならやってみなさい!」


 二人は互いにギアカードを構え、最後の一撃に備える。

 だが突如、海岸から強風が流れ込みレイヤは体制を崩した。


 その正体はことりの起こした爆風――

 強烈な荒風にたまらずレイヤは顔を伏せる。


「もらった。ギアカードオープン 掌強化パームアムド


 その隙をルイは決して見逃さない。

 巨兵タタロスの広げた掌が、魔力に覆われて桁外れの力を宿した。


「はたけ、タタロス!」

「し、しまったー!!」


 振りぬかれた巨人の強烈な掌は一撃でプリンスを場外へと吹き飛ばす。

 大きな飛沫をあげて着水するレイヤを見て、ルイは満足そうに鼻を鳴らした。



「ほら、やっぱり。私のほうが硬い!」



 そして試合終了の合図が鳴り、オリハルコンイーターの勝利が確定した。








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