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21話 NGワードは言いません!



 マジティアのリング『テラソフィア』は試合が始まると、球体状の特殊結界に覆われ、内部に仮想空間を生成する。

 その空間内では広大な市街地戦から、無人島でのサバイバルバトル、天空に浮かぶ島や海底ダンジョンなどの環境を自由に生み出すことが可能だ。


 入れるのは選手と審判のみ。

 観客は外で試合のライブ映像を楽しむ。


 テラソフィアの前で誓いの言葉を唱えると、選手の体は結界内へと転送され、同時にイナク体と呼ばれる仮の肉体へと存在が置き換わる。

 イナク体で得られるものは、選手の『最低限の安全』と『ルールの遵守』だ。


 今回、組み込まれるルールは『反発』。正式名は『リバウンドマッチ』だ。

 選手は特殊な魔術膜で体表を覆われた状態で競技を開始する。

 膜は魔法の攻撃を吸収し、込められた魔力値に応じた距離を『反発』するのだ。

 つまり、受けたダメージが大きいほど長い距離を弾き飛ばされる。

 そうして攻撃で互いに相手を弾き合い、最後にリング上に残った者が勝者だ。


 ルイの丁寧な説明で、ことりはやっとゲームの要点を理解する。



「つまり早い話が、押し合いっこですね」


「そうよ。さらにダメージ値は蓄積するルールだから、おそらく決着は早いわ。

 ワンストック制、つまり一度リングアウトしたら終了の単純な魔法のぶつけ合いよ」


 勝負の鍵となるのは永続的に蓄積するダメージ判定だ。

 試合中に同じ攻撃を、二度受ければ二倍。三度受ければ三倍。と試合が進むにつれ損傷が身体に蓄積され、どんどん反発力が増していくのだ。

 仮に弱い攻撃でも、ヒットし続ければ最終的にはかなりの衝撃になる。

 シンプルだが実戦的な短期決戦型の魔法勝負だ。


 そしていよいよ、ことりにとって初の公式戦のマジティアが始まる。


「私……がんばります!!」


 リングを見つめる少女は自然と拳を握っていた。







 試合開始の合図と共に、ことりとルイは仮想世界へと転送された。

 別空間への移動とイナク体への置換はなんの違和感もなく、一瞬で終わった。

 ここはもう……マジティアの舞台の中なのだ。


 今回のフィールドは周囲を海で囲まれた南国風の小島だ。

 眩しい太陽光が燦燦と照り続け、初夏を連想される少し高めの気候が汗を呼ぶ。

 島の大きさは直径四百メートル。中央には島の面積の半分を占める森があり、残りは海岸に沿う形で砂浜地帯と岩石地帯が交互に入り混じっている。

 島がリング、海が場外であり、両者の間をわける段差が境界線を主張していた。


 ここは間違いなく魔法使いの決闘の場なのだ。


 だがしかし――



「うわぁ、綺麗な海。水着持ってこればよかったなぁー」


「泳ぐなよ。その瞬間に試合終わるぞ」


「二人とも集中しなさい。もう勝負は始まっているのよ!」


 ことりは心の底から浮かれている。


 熟練者であるルイはことりの手を引いて森の中へ歩き出した。

 今回のルールでは一撃が致命傷に成りえる。だからまず身を隠すのだ。


 クウの声は念話であり、ルイにも聞こえるように声を飛ばせるらしい。

 どう動くかを三人で話し合っていると――


 突如、ルイが足を止める。


「ちっ、先手を取られたわね」


 その言葉を合図に、敵対する魔術が発動する。


「先手は譲って貰うよ、ルイ嬢。オープン『ソードマン・レイヤ』」


 男性の美声が響き、周囲の植物がまるで動物のように動き始めた。

 木、花、雑草がそれぞれが人の形へ変化し、ことり達をずらりと取り囲む。

 自らと同じ植物で構成された大剣を携え、群集で迫る魔法のグリーンヒューマン。


 人々の顔は、すべてがレイヤ・ニードルスのものだった。


「術は草木。言霊は美麗。導師名はムーンライトプリンス。

 このレイヤ・ニードルスの美しき植物魔法を、存分に楽しんでくれたまえ」


 緑髪の美青年、レイヤが三メートル程の樹木のソードマンに乗って現れた。

 魔道の杖であるバラのムチを構え、彼は純白の歯をキラリンと光らせる。


 植物を兵力と化す魔法。それがレイヤの能力だ。


 緑の魔法兵達は月面の王子の指揮により、統率された美しき軍団となる。



 ことり達は数に押され、あっという間に追い込まれてしまう。

 先手を取られたルイは即座に黄金の魔杖を構え――


「この数を相手にしてられないわ。一気に本体を仕留めるわよ」


 巨大な大地の化身タタロスを召還して、ことりと共に肩へと乗り込んだ。

 タタロスの基本身長は十メートル。レイヤのソードマンより約三倍も高い。


 数で攻めるレイヤに対して、本体のサイズ差を利用した正面突破を狙うのだ。



「いけ、タタロス。あいつの本体を踏み潰しなさい!」


「ふふふ、それが正しい選択だよルイ嬢。僕のソードマンは元が植物とはいえ、鋼の様に硬い。

 一体一体相手にしていたら、いくら君でも消耗してしまうからね」



 レイヤが何気なく放った台詞『硬い』。

 ――それが耳に届くと、ルイの行動が一変する。



「硬い……ですって?」


「やべ、不味い。ことり、早くこの馬鹿を止めろ!」


「ほえ!?どうしたんですか?」


 隣のルイから不穏な気配を感じ、ことりは冷や汗を浮かべる。

 ルイの目は赤く血走り、悪魔のようなキレッキレの笑い声をあげ始めた。


 あまりの邪悪な姿に、ことりは言葉を失ってしまう。


「ギアカードオープン 足強化フットアムド。全てを踏み潰せ、タタロス!」


 ルイは足元に群がるソードマンをもぐら叩きのように踏み潰し始める。

 石の巨体は強化された足の動きに合わせて激しく上下に揺れていた。

 ことりはルイへと縋り付き、必死に訴えるが全く聞く耳を持ってもらえない。


 事情を知っているクウへ、慌てて助けを求めると――


「まずいな……この脳筋女の悪い癖が出てきたぞ」


「一体、ルイさんの身に何が起こって!?」



 ルイは幼少の頃より、『硬い』ものこそが最強と信じているらしい。

 故に、『硬い』ものがあると、我を忘れて片っぱしから破壊を試みる。

 最強を目指すルイにとって、自分より硬いものは常に超えるべき壁なのだ。


 タタロスというのは、そんなルイが生み出した『硬さ』の魔法だ。



「結果、つけられた導師名がオリハルコンイーター。最硬すらも食らうものって皮肉さ」


「そういう重要な設定はもっと早く教えて下さい!」


 激しく揺れる巨人の肩で、ことりは泣き声に近い絶叫を上げた。



「昔、うっかり言っちゃたんだよな。『硬いほうが強いに決まってる』ってさ」


「真犯人が私の近くにいたー!?」


「とにかくルイの前では絶対にカタイって単語を使うな。でないとお前もああなるぞ」



 地面には煎餅の様にぺちゃんこになったソードマンが転がっている。


 暴れ続けるルイを前に、ことりはその言葉だけは使いませんと心に誓った。







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