20話 セカンドキッスは渡せません!
「それじゃあ、私は先に行くわ。ことりとクウも合体したらすぐにいらっしゃいね」
パタンとルイが扉を閉めて出て行くと、クウはことりに向かい合わせに立ち上がり、
「じゃあ、するぞ」
そして少年の唇がゆっくりとことりの唇へ近づく
――ボキッ
「な、なにをしようとしているんですか、クウさん」
「ぐへ、こっちの台詞だ!」
クウの首があらぬ向に曲がった。もちろん犯人はことりだ。
「キスしないと術式を取り込めねえだろ」
「もしかして毎回チューしないといけないんですか!?」
「やっぱり理解してなかったか。当たり前だろ」
再び近づくクウの顔をことりは必死に押し返す。
近づく、押し返す、近づく、押し返す。
「抵抗すな。こんなのただ口同士があたるだけだろ」
「乙女のセカンドキッスを何だと思っているんですか」
「胸もお尻もピッタンペッタンのくせに女を語るとは何事だ!」
「そういう倫理観の人に私の唇は渡せません!」
ぐぐぐ、と互いにしのぎを削るが意見も体勢も平行線のままだった。
「お前、ついさっきまでルイとあんなに盛り上がってたじゃねえか!?」
「それはそれ、これはこれです。諦めず他の手段を探しましょう!」
「あったら真っ先にそうしてるっつーの。しゃーねえな、要は適当じゃなきゃいいんだろ」
するとクウは、ことりへ覆い被さるように近づき、そのまま強引に壁際まで押し込んだ。
ドン、という衝撃音と共にクウと壁の間に挟まれ、ことりは完全に逃げ場を失う。
いわゆる壁ドンだった。
「いいから……黙れよ。お前が悪いんだぜ。こんなにもかわいくて魅力的過ぎるから」
「な、な、何を言って――!?」
普段からは想像もつかない大人びた声で、クウはことりの耳元へそっと囁く。
「ことり。お前が好きだ」
「ク、クウさ……ん、くぅ」
刹那、クイっと顎をあげられると、強引に少女の唇は塞がれる。
「んふぅ……」
二度目のキス。
初めての時とは違い、はっきりと感じる魔法と一体となっていく感覚。
長く情熱的な口付けにされるがままに流されると、ことりから思わず甘い吐息が漏れる。
そして全てが終わった頃に、ことりが閉じていた目をあけると少年の姿はなかった。
代わりに翼の髪飾りが、炎に包まれる。
「クウさん……えらく慣れていませんか?」
「シチュエーションその一、ジジイから借りたラノベより、壁ドン。とりあえず適当じゃなく本気でこだわったシチュエーションなら妥協する方向でお互い手を打とうぜ」
「……検討しておきます。あと私にも後でその本貸してください」
「いいよ」と頭に響く返事をよそに、ことりは思わず熱の残る唇を押さえる。
――悔しいけど。ちょっぴり……ドキドキした。
選手入場のコールと共に、ことりにとって夢の舞台への扉が開かれる。
視界いっぱいに広がるのは試合用の大きなリングと、白熱する万の観戦者だ。
歓声と熱気がドーム内で渦巻き、少女を飲み込んでいく。
全身に熱にあてられ、ことりの手や膝が小刻みに震える。
足は頼りなくふら付き、喉もカラカラに渇いている。
極度の緊張でガチガチに固まる少女へ、観衆からの好奇の目が交差する。
試合の進行を取り仕切るのはお団子頭が特徴の女性審判ミスジャッジだ。
童顔で巨乳が売りの人気司会者が、ことりの選手紹介をおこなうと、
『リアルメイド少女キタ―!!』と、ごく一部の男性陣が湧いていた。
ことりは何度も壊れたおもちゃのようにお辞儀を繰り返していた。
最後にミスジャッジは観客席上段に手のひら向ける。
「今日は新人二人を視察しに、なんとあのミックスリードが会場に来ているぞ。
だから気合入れて試合に臨んでくれ!」
同時にスポットライトの光が、来賓席の女性に焦点を合わせる。
光の中心では螺子を模した髪飾りが光を反射しながら揺れていて――
「はあーい。皆大好きミックスリードの登場よん。二人ともがんばってねん!」
ひらひらと手を振り、ルーカディアの創始者がことりへと微笑みかける。
偉大な魔女からの期待の眼差しに、ことりは相も変わらずお辞儀を繰り返していた。




