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17話 朝チュン

 夜も更け、時間はもうすぐ日付が変わるころになっていた。

 いつもなら二十二時には寝てしまうことりだが、今日はいつまでたっても部屋の電気が消えることはない。


 ベッドの傍でルイが金の指輪に口づけを行い、魔法を初期起動させる。

 すると銀色に輝く光が肉体に宿り、同時に黄金のロットが顕現していた。


 これがルイの魔導の杖であり、そして――


「紹介するわ、これが合成召喚タタロスよ。私の魔法は大地のエネルギーと自身の魔力を合成して超硬質ゴーレムを生み出すの。硬くて強いわよ」


 杖を振り上げ、ルイが叫ぶと人間大の石ゴーレムが召喚される。初めて出会った時の十メートルほどの身長が基本だが、場所や用途に合わせてサイズは変更が可能らしい。


 現在の場所はことりの部屋。そして用途は魔法ショ―だ。


 ことの始まりは、クウが「新婚といえば初夜だろう」と悪ノリして、婚姻届の強制力でことりに嫌がらせしたことだ。

 そしてそれはルイの拳骨で事なきを得た。


 その後、少女の貞操を守るためにルイはお泊りすることになったのだ。


 ルイはことりの希望に答え、様々な技を披露してくれている。

 あこがれの魔女の美貌と華麗な魔術に、少女はうっとりと魅入っていた。


 こんな素敵な人と自分が『共鳴り』だなんて嘘みたいだ。

 クウにはマナホルダーの能力でまゆたまの相性がわかるらしい。

 実際、ルイが目の前で魔法を使うたびに、ことりの胸の中で何かが高揚する。

 互いが影響しあうことで起こる魂の震え。それが共鳴りの証だという。

 ルイのまゆたまも共鳴りの影響を感じているのだろう。


 いつも以上に感じる魔法への興奮に身を任せ、ことりへ胸の内を打ち明けた。


「私が目指しているのは最強の魔法使いよ。

 もちろん世界最強のおじい様や、他のダブルデルタズよりも強くね!

 その為にマジティアージュになってイブレコードでもっとタタロスを強くするの。

 そして、どんな悪い奴も一発でぶっ飛ばす正義の味方になるのが私の夢よ!」


 言い終えてすぐにルイは、しまったと苦い表情を浮かべた。

 そして恐る恐ることりを見るが――


「カッコいい!素敵な夢ですね」


 ルイに向けられていたのは惜しみない羨望のまなざしだった。


「わ、笑わないの?」


「どうしてですか?」


「だって大抵の人は笑って馬鹿にするもの」


 世界最強――言葉にすると単純でシンプルな言葉だが、彼女の夢の規模は大きく困難だ。

 世界に名を連ねるダブルデルタズの面々やイヴの魔法の継承者達、さらに凶悪な犯罪者達も含めると最強という名に果ては無い。それを十代の女の子が本気で口にしているのだ。

 身の丈を超えた目標は、常にルイを嘲笑の的にしていた。


「もしくは説教ね。地球の実家に戻るといつもお母様に口酸っぱく言われるもの

もっと女の子らしい夢を持ちなさいってね」


 ルイは母親の口調を真似ながらも、それは仕方のないことだと語る。

 ことりはルイの夢の難しさを一割も理解できていないだろう。まだ知り合ったばかりでお互いのこともよくわかっていないし、生まれも育ちもまったく違う。


 けれどことりは不思議とルイの夢が不可能なことだとは思えなかった。


 何より、応援してくれる誰かがいる喜びをことりは知っている。

 だから満面の笑みを花咲かせてルイに伝えた。


「ルイさんならきっとなれますよ!」


 夢の中の母が自分にしてくれたように、心の底から未来を信じて応援する。

 ことりの言葉を受け取ると、ルイは目じりに涙をにじませていた。


「ダメ人間ホイホイか……クウがあなたを選んだ理由がわかった気がするわ」


 誰にも聞こえぬ小さな声で、ルイはそっと呟く。


「私、これからもテレビの前で応援しますね!」


 対してことりは嬉しそうに言葉を続ける。共鳴りならパートナーになるべきだとクウは言っていたが、自分とルイでは舞台が違いすぎて現実味がなさすぎる。


 もちろんことりもマジティアを目指すつもりだが、きちんと実力をつけてからだ。

 なによりも共鳴りという打算を盾にして一緒にいるというのは、ルイに対しても失礼であるとことりは思った。


 すると突然、ルイは何かを思いついたように顎に手を当てて考え込みだした。


「ねえ、あなたマジティアに出たいのよね?」


「はい。いつになるかわかりませんが、必ず出場してみせます!」


 次に行ったのはことりの意志の確認だ。

 そしてルイは意を決して――


「もし良かったら――」 


 けれど、その言葉は最後まで続かなかった。

 はぁはぁと鼻息を荒くした雄犬の影が、乙女達の背後から襲いかかってきたせいで――






 誰もが眠る丑三つ時に、テンのハーレーはエンジンの回転数を上げていく。


 気分はまさに愉快痛快。弟子は独り立ちを始め、宝の番人もお役御免。

 そしてあの男もやっと動きだした。

 あとは全ての糸を運命と名づけて結わいつけるのみ。


 ただひとつ。とある少年の至った心境だけが予想外で、テンを驚かせてくれた。


 リンバース家の横槍が入っても、ことりの意思を尊重する。

 

 そんな少年との密約と引き換えにテンだけが知り得た、ひねくれ者の最後の秘密――


「まさか契約の条件が『クウ坊が恋をすること』とはのう。しかも契約の縛りで無理やり相手を自分のものにしてしまうとはなかなかに独占欲の強い……

 いや、情熱的な一族じゃ」


 決して世に出ぬ秘め事は、颯爽と走り去るバイクと共に、夜闇の彼方へ溶けて消えた。







 ちゅんちゅんと雀のさえずりが朝の空気に混ざりこむ。

 ことりは差し込む日差しの眩しさに目を細めた。


「本当に申し訳ないです。ルイさん」


「いいのよ、ことり……もう忘れましょう……」


「私、昨晩のことはお墓まで持っていきますね」


「ううう、これで二回もあの淫獣に……しかもあんなところまで……」


 全身ピカピカになった二人の少女は、一晩でとても親睦を深めていた。


「えらく仲良くなったな、お前ら」


 廊下ではクウが、頭から噛り付くラインハルトと格闘中であった。

 ルイはジーッと少年を睨み、積もり積もった三年分の怨嗟を込めるように呟いた。


「羨ましい。私もあんたみたいに犬畜生にすら嫌われる社会のゴミになりたいわ……」


「なんか知らんが、ピカピカで人をディスるな」


 クウの隣で真っ白な大型犬が楽しそうにバウッと吼えた。








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