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14話 襲撃者には友達がいない

 いつものように大きな手のひらで、テンはことりの頭をわしゃわしゃと撫でまわす。


「術は爆炎。言霊は勇気。導師名はまだ無いが、お主もこれで魔法使いの仲間入りじゃな」


「あ、ありがとうございます。御館様ぁー」


 初めて魔法を使ったこと、それを師が喜んでくれていること。

 その事実が嬉しさの限界を突破して、ことりは感涙に声を震わせる。

 この瞬間をどんなに待ち望んでいただろう。

 ついに自分は夢に向かって第一歩を踏み出したのだ。


「しかし、ちとやり過ぎたのう……我が弟子ながら末恐ろしい威力じゃ」


 けれど弟子とは反対に、師のテンションは急激に下がっていた。

 原因はフォーゲルの衝撃で生まれた大きなクレーターだった。

 穴からは未だ熱の煙と焦げついた匂いがたちこめ、戦いの爪が未だ残っていた。


「そろそろ騒ぎを聞きつけてあの娘が来るじゃろうし。色々と片すのも面倒くさいのう」


 そしてテンはピコンと漫画のような電球マークを飛ばした。


「決めた。ワシ、しばらくバックレ―――いや、自分探しの旅にでるぞい」


「突然、どうされたんですか御館様!?」


「歳を考えろよ、ジジイ。見つける前にポックリいくぞ」


「嫌じゃ。ワシ怒られるのも、面倒くさいのも嫌いじゃ。しばらく身を隠すぞい」


 テンは倉庫からお気に入りのハーレーを引っ張り出すと颯爽とまたがり、


「色々と愉快痛快なことになると思うが後は宜しく頼むぞ、我が弟子よ!」


 アクセルを回し瞬く間に走り去った。わかりやすくいうと逃亡した。


「ま、待って下さい。ず、ずるいです。せめて後片付けだけでも手伝ってぇー!!」


 地球の輝く夜の空に、ことりの切ない叫び声が虚しく響いた。






 夜の帳が完全に下りた庭園に、ぽつーんと少女は残される。

 すると、ことりは改めて術を放った掌をまじまじと見つめた。

 鮮烈に残る奇跡の感触が、不思議なときめきを胸の奥に与えてくれる。


「わたし……魔法を使ったんだ」


「なんだ、まだ信じられねえか?」


 同時にことりの体から赤い光が抜け、中からクウが現れた。

 彼の声と顔を見て思い出すのは、共に試練に立ち向かったという一体感と――


 そして初めてのキスの――


「ひーん。クウさんなんかに私のファーストキスがぁ! ニートのくせにぃ、引きこもりのくせにぃ、クウさんのくせにぃ!返せぇ―。乙女の純潔を今すぐに返せぇ――」


 我慢していた怒りと悲しみが、せきを切ったように大爆発する。

 たった数時間で、人生であった嫌なことランキングを少年が総なめにしていた。


「おまけに結婚なんてめちゃくちゃです!」


「婚姻届で魔術的に繋がらないと合体出来ないんだよ。しゃーない」


「乙女の人生の大事を『しゃーない』とはなんですかぁ、『しゃーない』とはぁ!」


 何を言っても火に油。ことりの怒りは、ますますヒートアップしていく。

 するとクウは急に頬を染め、恥ずかしそうに目を逸らした。


「なんだよ……俺はお前のこと好きなのにさ」


「すすす、好きて。いきなり何を仰るんですか!」


 突然の告白に、ことりは動揺し、思わず声が上ずってしまった。

 え、え、まさか本気ですか!?と口元に手を当て、怒りのトーンが徐々に下がる。


「ど、どうせいつものでまかせのくせに……」


「嘘じゃねえよ。お前のことを心の底から愛してる」


「クウさん……そんな……急にそんなこと言われたって――」


「だから一生、俺の面倒見てね。頼りにしてるぜ☆キラン」


「それは愛じゃないです。ただの堕落です!」


「ちっ、甘い言葉にちょろく騙されてろよ」


「うわーん、クウさんのくせに! クウさんのくせにぃ!!」


 なんかもう一瞬でも騙された自分が情けなくて――

 目じりに涙を溜め、ことりは攻撃力が皆無な拳でクウをポカポカと叩き続けた。




 突然――、大質量の何かが飛来したために、ことりは固まった。

 まるで地震のように大地は激しく揺れ、着地した何かの足元は想像を絶する重量のせいで大きくひび割れを起こしていた。周囲には視界を完全に遮断する砂煙がたちこめている。


 大質量の正体は、二階建ての家ほどの高さがある石の巨人だ。

 巨人はすでに臨戦態勢に入り、ことりたちへ身構えていた。


 刹那、唖然とすることり達の耳に、澄んだ少女の声が叩きつけられる。


「助けに来たわよ、クウ!」


 声の主は巨人の肩の上で、純白のドレスを可憐に舞わせていた。

 空に浮かぶ地球の光が抜群のプロポーションを強調し、背まで伸びる長い銀髪が風になびく姿は、少女の持つ凛々しさと可憐さを瞬時にことりへ伝えてくれる。

 そして彼女の鋭い眼差しが、ことりへ敵意を向けていた。

 混沌とする状況についていけず、ことりがぽかーんと呆けていると――


 巨人の主である少女は、既に次の一手を打っていた。


「ギアカードオープン。拳強化フィストアムド。砕け、タタロス!」


 携えたギアカードに反応し、輝く巨人の拳が振り下ろされた。

 大地に穿たれた拳圧に吹き飛ばされ、ことりは「うきゅう」と目を回す。


「さあ、かかってきなさい!」


 もちろんかかって行く者など誰もいない。 

 拍子抜けな状況に、巨人の主は「あ、あら?」と、クウに瞳で助けを求める。


 そしてクウは少々勘違いが過ぎる銀髪の少女と、くるくるとお星様が頭上に回る自分の契約者を交互に見比べて、心の底から面倒臭そうにため息をついた。


「空気読めよ、ルイ。だからお前、友達いないんだよ」


「ほ、ほっといてちょうだい!」



 ことりとルイ。いずれ名を馳せる二人の出会いは、タタロスの拳から始まった。









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