09話 十三歳の誕生日
ちょっと短めです
ああ、これは夢だ。ことりはそれを理解している。
これは時々みる、なんだかちょっぴり哀しい夢。
どこかで見たことのある男の子が、懸命に何かを探す夢。
何枚も、何枚も、男の子はページをめくる。
何冊も、何冊も、男の子は本を開く。
たった一つの何かを求めて、いつまでも暗い部屋で探し続ける。
そう、これは夢だ……ことりはそれを理解している。
時々みる夢だから、ことりは部屋の扉が開かれることを知っている。
大丈夫だから、もう泣かないで。もうすぐあなたと出会うから――
扉の開いた先にいる女の子が、あなたの求めていたものなのだから。
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いよいよ、ことりは十三歳の誕生日を迎えた。
魔法使いになるのを諦めるという約束を前に、焦っていた少女はもういない。
むしろ今日という日を、とても清々しい気持ちで迎えている。
その代償に一日三十回のペースで「絶対使えますよね!?」と迫られ続けたクウが、疲れ果てた顔をしているが大した問題ではない。
「ことりよ、魔術師にとって十三歳とは重要な意味を持つことは知っておるな?」
とはいえ、毎年の行事は欠かせない。
誕生日を祝うのは、御館様が一日の仕事を終えてからというのが暗黙のルールだ。
ことりは、はやる気持ちを抑え、テンと共に書斎で夕暮れを迎えていた。
「はい。魔法使いは十三歳になると大人扱いになります。魔術契約も保護者無しで行えますし、教会で『いきかえらせる』『どくのちりょう』『のろいをとく』も大人料金です」
「後半は違う世界観が混ざっておってがっかりじゃが、かわいいから許す」
がっはっはと大笑いしながら、テンはことりの頭を撫でまわした。
「兎にも角にも、悪質な魔術契約詐欺には十分注意するんじゃぞ。つまり……怪しい書類にサインは――」
「決して書かない!」
「ハンコを求められても簡単には――」
「決して押さない!」
「怪しい男の甘い言葉は――」
「ノーサンキューです!」
見事に全問正解した少女へ、テンは綺麗にラッピングされた小箱を手渡した。
それはテンから十三歳を迎えることりへの誕生日プレゼントだ。
「欲しかったマジティアの髪飾りだぁー」
翼はルーカディアのマジティアのシンボルマークだ。大きな両翼を対に描いたマジティアの象徴は、ルーカディアで様々なグッズとなって販売されている。
テンからのプレゼントは、白い翼を模した頭の左右で対になる髪飾りだった。
ことりはメイドのフリル付きカチューシャを外して、さっそく髪飾りをパチンと止める。
純白の両翼は、まるであつらえたように少女の黒髪と調和を果たしていた。
「ありがとうございます。とっても嬉しいです!」
「うむ、それとクウ坊の魔法の件なんじゃが……」
「今すぐ貰ってきます! 魔法、魔法、まほうぉーだぁー!!」
「……ワシのプレゼントよりテンション高いのう」
少女のはしゃぎ様を見て、テンは「まだまだ子供じゃのう」と微笑んだ。
この三年で背丈は多少伸びたが、知識も行動も大人扱いには程遠い。
元気はつらつなのは素晴らしいが、大人の女性の立ち振る舞いもそろそろ教育せねば。
廊下へ駆け出した背中へ、テンがそんな想いを巡らせていると――
ことりは途中で足を止め、くるりとテンへと振り返った。
「えへへ、御館様。だーい好きです!」
そしてマシュマロのように愛らしい笑みを振りまいて、そっと扉を閉める。
大切な家族を理不尽に失い、夢への才能にもそっぽを向かれる。
それでも曲がることのない真っ直ぐな少女の眩しさを目の前に。
「くう……本当に立派に育ちおって……」
物静かになった部屋で、老人は義娘の成長にマジ泣きした。
次話でいよいよ魔法ゲットだぜ!




