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09話 十三歳の誕生日

ちょっと短めです


 ああ、これは夢だ。ことりはそれを理解している。

 これは時々みる、なんだかちょっぴり哀しい夢。

 どこかで見たことのある男の子が、懸命に何かを探す夢。


 何枚も、何枚も、男の子はページをめくる。

 何冊も、何冊も、男の子は本を開く。

 たった一つの何かを求めて、いつまでも暗い部屋で探し続ける。


 そう、これは夢だ……ことりはそれを理解している。

 時々みる夢だから、ことりは部屋の扉が開かれることを知っている。


 大丈夫だから、もう泣かないで。もうすぐあなたと出会うから――


 扉の開いた先にいる女の子が、あなたの求めていたものなのだから。

 




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 いよいよ、ことりは十三歳の誕生日を迎えた。

 魔法使いになるのを諦めるという約束を前に、焦っていた少女はもういない。

 むしろ今日という日を、とても清々しい気持ちで迎えている。

 その代償に一日三十回のペースで「絶対使えますよね!?」と迫られ続けたクウが、疲れ果てた顔をしているが大した問題ではない。


「ことりよ、魔術師にとって十三歳とは重要な意味を持つことは知っておるな?」


 とはいえ、毎年の行事は欠かせない。

 誕生日を祝うのは、御館様が一日の仕事を終えてからというのが暗黙のルールだ。

 ことりは、はやる気持ちを抑え、テンと共に書斎で夕暮れを迎えていた。


「はい。魔法使いは十三歳になると大人扱いになります。魔術契約も保護者無しで行えますし、教会で『いきかえらせる』『どくのちりょう』『のろいをとく』も大人料金です」


「後半は違う世界観が混ざっておってがっかりじゃが、かわいいから許す」


 がっはっはと大笑いしながら、テンはことりの頭を撫でまわした。


「兎にも角にも、悪質な魔術契約詐欺には十分注意するんじゃぞ。つまり……怪しい書類にサインは――」


「決して書かない!」


「ハンコを求められても簡単には――」


「決して押さない!」


「怪しい男の甘い言葉は――」


「ノーサンキューです!」


 見事に全問正解した少女へ、テンは綺麗にラッピングされた小箱を手渡した。

 それはテンから十三歳を迎えることりへの誕生日プレゼントだ。


「欲しかったマジティアの髪飾りだぁー」


 翼はルーカディアのマジティアのシンボルマークだ。大きな両翼を対に描いたマジティアの象徴は、ルーカディアで様々なグッズとなって販売されている。

 テンからのプレゼントは、白い翼を模した頭の左右で対になる髪飾りだった。

 ことりはメイドのフリル付きカチューシャを外して、さっそく髪飾りをパチンと止める。

 純白の両翼は、まるであつらえたように少女の黒髪と調和を果たしていた。


「ありがとうございます。とっても嬉しいです!」


「うむ、それとクウ坊の魔法の件なんじゃが……」


「今すぐ貰ってきます! 魔法、魔法、まほうぉーだぁー!!」


「……ワシのプレゼントよりテンション高いのう」


 少女のはしゃぎ様を見て、テンは「まだまだ子供じゃのう」と微笑んだ。

 この三年で背丈は多少伸びたが、知識も行動も大人扱いには程遠い。

 元気はつらつなのは素晴らしいが、大人の女性の立ち振る舞いもそろそろ教育せねば。

廊下へ駆け出した背中へ、テンがそんな想いを巡らせていると――

 ことりは途中で足を止め、くるりとテンへと振り返った。


「えへへ、御館様。だーい好きです!」


 そしてマシュマロのように愛らしい笑みを振りまいて、そっと扉を閉める。


 大切な家族を理不尽に失い、夢への才能にもそっぽを向かれる。

 それでも曲がることのない真っ直ぐな少女の眩しさを目の前に。


「くう……本当に立派に育ちおって……」


 物静かになった部屋で、老人は義娘の成長にマジ泣きした。






次話でいよいよ魔法ゲットだぜ!

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