君に伝えたい
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登場人物
・圭太 (けいた)
一応、主人公。高校3年生。 七海とは中学からの同級生で、当時はそこそこ仲は良かった。しかし、中学2年生の時に一度七海に告白してフられて以来、互いに全くと言っていいほど喋らなくなり、現在までに至る。七海のことがまだ諦めきれていない様子である。
・七海 (ななみ)
一応、ヒロイン。高校3年生。圭太と同じ高校に通っていて、家もそこそこ近い(と、中学の時に初めて知った)。人見知りでほとんどしゃべることはしないが(仲の良い友達とは普通程度に会話できるがその他の人とのコミュニケーションはほぼジェスチャーで乗り切っている)感情は顔に出やすいタイプ。圭太とA斗が惚れるくらいには可愛い。(彼ら曰く、「なんか、守りたくなるよね。」) 圭太とは中学時代はそこそこ仲が良かったが、中学2年生の時に圭太に以下略。
・A斗 (えーと)
圭太の高校の友達。高校1年生の時に七海に告白したが、フられる。A斗のために言っておくが、この時圭太とはすでに友達だったが、彼と七海との間で何かあったことは知らなかった。 尚、A斗は本作では名前しか出てこないから、この情報だけ知っていれば良いのであとは割愛。
舞台設定
高校3年生の10月31日、帰宅中。(言い忘れていたが、圭太も七海も電車通学で、同じ駅から高校まで行くという設定。それでも、互いとほとんど話さないのである。)
(以下本文)
「ありがとうございました。◯◯、◯◯です。お忘れ物のないよう、ご注意下さい。」
ほぼ毎日のように同じ車掌さんから同じアナウンスを聞いて、圭太は電車から降りる。ここ数週間で急激に気温が下がってきて、もうさすがに夏服を着ている人など一人もいない。冷たい風が、駅を降りる人達に無情に吹きつける。
「今日で10月も終わりか...。結構風強いなぁ。」
そうつぶやくと、わずかに白くなった息が一瞬だけ目の前に留まっては消えていく。
ー 今日こそ言おう。今日言わないと、もう二度と言えない気がする。
「よし!」
と圭太は気合を入れる。すぐ後ろにいた40歳くらいのサラリーマンがこちらを怪訝そうな目で見つめていたが、そんなことはおかまいなしに辺りを見回す。
ー ...いた。
圭太の視線の先では七海が、いつも駅までは一緒に帰っている友達とちょうど改札で別れて手を振っていたところだった。いつも通りのとびきりの笑顔で。世界中の誰よりも無邪気で、素敵な笑顔で。
ー …って言った時にはさすがに七海も顔赤かったなぁ…。まぁ、多分俺の顔はそれよりももっと赤かったんだろうけど。
不意に中学2年生の時の記憶が圭太の脳裏をよぎり、同時に七海の方へと向かっていた足も止まってしまう。いろんな感情が心から溢れかえる。肌寒い風がそこそこ強く吹いているはずなのに 、汗がゆっくりと身体をつたっていくのが鮮明に感じられる。
ー ダメだダメだ!またここで引き返しちゃダメなんだ!
また歩き出す。一歩一歩がとてつもなく重い。七海までの距離が何十キロもあるかのように遠く感じられる。それでも一歩ずつ確実に圭太は歩を進めていった。
圭太はやっとの思いで七海の数歩後ろにたどり着いた。七海がたまたま横断歩道で信号が変わるのを待っていたのは、もう神様に感謝するしかないだろう。圭太は七海の左肩をトンッと叩いた。途端、七海はビクッとしてものすごい勢いで後ろを振り返る。肩を叩いた犯人が圭太だと分かると、今度は超高速で下を向く。
ー やっぱり、中学のときみたいには話してくれないよな…。
「久しぶりだね。あ、いや、一応帰りの電車で結構見かけてるからそうでもないのか、ハハハ… 。」
圭太がそう話しても、七海ただじっと下を見つめたまま何も答えない。
ー 今言わないと…
「あのさ、」
再びビクっとする七海。
ー 言うんだ俺!
「その…なんて言うか…」
ー 早く言うんだ!
「は、話したいことがあるんだけど、今時間空いてますか!…まぁ、迷惑だったら別にいいんだけど…」
と、七海はブンブンっと首を横に振る。
「時間大丈夫なの?」
今度はこくこくと何度も頷く。
「よかった…。じゃあ、とりあえず横断歩道だけ渡っちゃおうか。もうすぐ信号また赤になっちゃいそうだし。」
横断歩道を渡り終えてから数分、ここまで来たはいいけれど本当に伝えたいことをなかなか切り出せない圭太と、その間ずっとうつむいたままの七海が、向き合ったままお互い何も話さずに、ただ時間だけが刻々と過ぎていく。はたから見るとなかなか怪しい感じの2人組だが、幸いなことに、周りにはもう誰もいない。というか、他の人はもうすでに家帰ってしまったのだ。なにせここは田舎の駅、電車は30分に一本しか来ないのである。さすがに気持ちの整理も出来たのか、圭太が再び口を開いた。
「あ、あの、それでさ、話したいことなんだけど…。あ、聞きたくなかったら聞き流してくれてもいいからね。」
七海は下を向いたまま、ゆっくりと相づちをうつ。
「えっと、その…ちゅ、中学の時ね、やっぱり七海と話してる時が一番楽しかった。そして、高校はあまり七海と話せなかったから、今更だけどちょっと物足りなく感じてる。あと…これは言うべきなのか分からないけど」
圭太は一息をつく。
「実は、A斗が七海に告ったことをあいつから直接聞いたんだけど、」
ここで、七海ははっとして、初めて圭太の方を見た。上目づかいに、控えめに、だけど確かに見ていた。
「情けない話なんだけど、正直、俺さ、あいつが七海にフラれたって聞いてさ、なんかこう、ホッとしちゃったんだよ。…えっと、つまり何が言いたいかって言うとね、」
圭太はまっすぐ七海を見つめる。七海も今度は目をそらさない。
「やっぱり俺、七海のことまだ好きなんだよ。大好きなんだよ。 …でもさ、七海はやっぱり俺のこと、恋愛対象としては、見てくれていないんだよね?」
七海は 何か言おうと思ったのか口を開いたが、すぐにグッと唇を噛んでまた下を向いてしまった。
ー …やっぱりそうか。
「だからさ、これだけは言わせて。言わないと俺、絶対後悔しちゃうから。卒業して俺が東京に行っちゃたら、もう多分二度と帰る電車が一緒になることなんてないから。七海。」
圭太は声の震えをグッとに抑えて、ずっと心の奥に溜め込んでいた言葉を七海に伝えた。
「ありがとな。」
もう限界だった。涙がこぼれ落ちそうになっているのを見られないように、圭太は七海に背中を向けた。
「じゃあ、俺は先に帰るから。七海も気をつけて帰れよ。」
そう言い残し、圭太は歩き始めた。
「待って!」
その声は、中学の時は当たり前のように聞いていた声だった。その声は、圭太が今までで聞いたどんな声よりも澄んでいて、美しい声だった。圭太が後ろを振り返ると、七海が目に涙をいっぱいためてこちらをまっすぐ見ていた。
「わ、わ、私も!」
七海が目をこする。
「私も、中学の時、圭太くんと話してて楽しかった!告白してくれた時は、びっくりして断っちゃったけど、でもそれから…それから、圭太くんのことが頭から離れなくなっちゃったの!でも、圭太くんに直接言う勇気なんてこれっぽっちもなかった!だから、今日好きだって言ってくれてすごくすごく嬉しい!でも私、すぐに言いだせなくて、だから、えっと…えっと…」
七海は大きく息を吸う。
「私も!圭太くんのことが!大好き‼︎」
そう言って七海は圭太に笑って見せた。泣いていても、その笑顔は、世界中の誰よりも無邪気で、誰よりも素敵な笑顔であることに変わることなどなかった。それにつられて圭太も笑顔になる。もちろん、涙も流しながらだが。
「すぐに言えなくてごめんね、圭太くん。」
「いいんだよ、そんなの。それより、早く涙拭いた方がいいぞ。ひどい顔だぞ。まぁ、俺はこの顔もいいと思うけど。」
「ふふ、圭太くんもなかなかのものだよ。でも、この顔の圭太くんも私は大好きだよ。」
そんなたわいもない言葉を交わしながら、二人は泣きながら、そして笑いながら帰った。肌寒い、10月の終わりを告げる風は、いつの間にかやんでいた。
初めまして、八神 一叶 と書いて ヤガミイチカ です。こちらではこれが初投稿です。これからも暇とアイデアがあれば続けて投稿していくつもりですので、よろしくお願いします。
前書きにも書きましたが、アドバイス、コメントどんどんしてください。