第8話「美鈴」
「…春日さん」
「今度は何?」
「ええと…」
まただ、何も言いだせない。
言うのはあっという間だと思う。
でも、言ってしまったらその後のことはどうする。
その後のことを考えてしまうと、また状況が悪化しそうで怖くてたまらない。
クレアはそれを恐れていた。
謝るだけなのに、クレアは最初の一歩が踏み出せないといると、そこに、美鈴さんがやってきた。
「クレアさん、おはようございます」
「お、おはようございます」
「最近、春日さんと仲がいいんですね」
「え、えっ、いや、仲がいいとかそんなんじゃ」
「違うの?」
「その、何といいましょうか」
クレアが何て答えたらいいか悩んでると、春日が言ってきた。
「私たちは言葉の遊びしてるだけだから。ただそんだけの関係。別に友達とかそんなんじゃないから」
「まあ、そうでしたのね。私はてっきり友達なのかと思ってましたわ」
友達、じゃなかったのか。
いや、当たり前か。
春日さんと仲良くしようと思ってもきつい言葉しか返ってこないし。
まだ友達じゃない。
クレアは仲良くしたいのにと思っていた。
落ち込んでいると、美鈴さんは。
「今度私の家でパーティーをしますの。もしよかったら、私の家に来ませんか?」
「パーティーですか、楽しそうですね」
「はい、青葉さんと仲がいいみたいですし、今度青葉さんも一緒に誘っていただけませんでしょうか」
「いいですよ、たぶん、青葉さんも喜ぶと思います」
「まあ、楽しみですわ」
落ち込んでいた空気が何となく晴れたような気がした。
「あの」
「何ですか? 春日さん」
「わ、私も行っていいか? その、パーティーに」
その言葉を待っていたかのように、美鈴さんは微笑んだ。
「ええ、もちろんですわ。賑やかのほうが楽しいですもの」
もしかしたら、美鈴さんが自分のために春日さんと仲良くなれる場所を提案してくれたのかもしれない。
そう思っただけで、美鈴さんに好感が持てた。
すると授業が始まるチャイムが鳴り、美鈴さんは離れていった。
もちろんクレアも自分の席へと戻る。
春日さんのほうを見ると彼女は外を見ていた。
クレアは思った。
今度のパーティーで絶対に仲直りしよう。
そして、春日さんと友達になろうと。
放課後。
クレアは自分の家に帰った。
「青葉さん、は、まだ帰ってないか」
どうやら今日はクレアが一番最初に帰ってきたらしい。
自分の部屋にいても暇なので、リビングで青葉さんの帰りを待った。
おじ様は相変わらず自分の部屋で何かしているようだ。
恐らくきっと仕事だろう。
「暇だな」
ぽつり、クレアは呟いた。
テレビを見るにしても、そんな気分ではない。
本を読むにしても、今は色んなことで頭がいっぱいで恐らく集中力が途切れてしまうだろう。
何かないかなと、リビングのソファで足をバタバタさせる。
「青葉さんが帰ってきたら美鈴さんが言ってたこと話さないと」
「まだかなー」
ガチャ。
家の玄関が開いた。
青葉さんだ。
そう思い、クレアは玄関の前に移動する。
すると話し声が聞こえる。
どうやら女の子のようだ。
しかも聞いたことある声。
この声は。
「まあ、そうだったのね。またパーティーに参加できるなんて嬉しいわ」
「きっと今回も盛大なパーティーにしてさしあげますわ」
やばい、そう思った。
そうだ、この声は美鈴さんだ。
しかも、何で青葉さんは自分の家に招いているんだろう。
私が青葉さんと一緒に暮らしてること内緒にしてと頼んでおいたのに。
どうしようか悩んでると、クレアは急いで階段を上り自分の部屋に逃げ込んだ。
ガチャリ。
青葉さんと美鈴さんが家の中に入ってきた。
すると、美鈴さんはクレアの靴を見て青葉さんに尋ねた。
「青葉さん、この靴。私たちの学校のものですわよね、誰かいらっしゃるんですの?」
「え。ああ、この靴は…」
どうやら青葉さんは上手く誤魔化してくれたらしい。
クレアは自分の部屋のドアに耳を当てて、二人の会話を聞いていた。
そして、階段を上る音が聞こえてくる。
上がってきた。
「それで、今回のパーティーは私と同じクラスのクレアさんも誘おうと思ってますの」
「ほんと。きっとクレアちゃんも喜ぶわね」
「それからそれから…」
美鈴さんが青葉さんに対していつもよりテンションが高めだ。
いつもこんな感じなのだろうか。
そういえばこの前、中庭で話してた時、美鈴さんやけにテンション高かったな。
もしかしたら美鈴さん青葉さんのことを気にいってるのかもしれない。
ガチャ。
二人は青葉さんの部屋に入ったようだ。
部屋に入るともちろん話し声は聞こえてこない。
リビングに戻ると美鈴さんが帰る頃、はちあわせになるので帰るまで、自分の部屋で過ごすことにした。
カチコチ、また時計の秒針の音が聞こえてくる。
クレアはハッと思い目を覚ました。
まただ、眠っていたようだ。
よいしょと体を起こし、自分の部屋のドアに耳を当てる。
美鈴さんは帰ったのかな、そう思い、そっとドアを開ける。
すると、そこには美鈴さんがいた。
「あ」
「あ。クレアさん? どうして青葉さんの家に」
「ええと、それはですね。その」
まずいことになった。
まだ美鈴さんは帰ってなかったのか。
どうしようか悩んでるとそこに青葉さんがきた。
「青葉さんこれはどういうことなんでしょうか?」
青葉さんはクレアを見つめる。
もうこのまま隠しきれない。
どうすることもできないので、クレアは青葉さんに、バラしてもいい合図を目でおくった。
その合図を見た青葉さんは。
「美鈴さん、今まで隠していてごめんなさい。実はクレアちゃんと一緒に住んでるの」
「え」
「このまま隠していてもいずれはバレることだったの。だから、もう学校でも明かしていくことにするわ」
「そうだったんですね。なら、今までのことが納得しました。この前、中庭で一緒にお昼食べてましたし、初対面のはずなのに仲良さげに見えましたから」
「ごめんなさい」
「青葉さんが謝ることないですよ、人それぞれ事情がありますから」
「ええ」
なんとか美鈴さんに説明できた。
いや、詳しく説明できてないが、あまり詳しく話すことはやめておこう。
「それでなんだけどクレアさんと青葉さん、今度のパーティーに二人一緒で来てくれますわよね?」
「ええ、もちろん」
「はい、行きます」
「なら、よかったわ。それじゃそろそろ帰らせていただきますわね」
そう言って、美鈴さんは帰っていった。
「なんかごめんね、クレアちゃん、美鈴さんに家バレるの嫌ってたのに」
「いえ、いずれはバレることだったですし、むしろすっきりしたかもです。悩み事が一つ消えました」
「そう? なら、いいんだけど」
クレアは悩み事が一つ消え安心した。
美鈴さん、明日の学校でみんなに何か話すかな。
自分と青葉さんが一緒に住んでること噂になってなければいいなと思った。
そして時間は過ぎていき、夜。
クレアは自分の部屋にいた。
「今日は色んなことがあったな。隠していたはずなのに美鈴さんにバレちゃったし」
「これから色んな予想できないことが起こっていくんだろうな」
サッ。
何か物音がした。
どうやら、ドアからのようだ。
クレアはドアに近づいた。
するとそこには手紙があった。
「これは青葉さん…!」
そうだ、昨日も青葉さんから手紙があった。
励ましの手紙が。
そういえば毎日手紙くれるって書いてあったような気がした。
クレアは自分の机の上に向かい、明かりをつけた。
もちろん机の上だけの明かりだ。
「今日はなんだろ?」
今日の手紙は薄いブルー色の封筒であり便箋であった。
犬のマークがついている。
「青葉さん女子力高いな」
そして、読んでみることにした。
『クレアちゃんへ 今日は何だか私、悪いことしちゃった気分。ごめんなさい。クレアちゃんは大丈夫って言ってくれたけど、申し訳なくて気分が済まないわ。だからお詫びとして、美鈴さんのパーティーの時素敵な思い出をあげる。これ約束ね』
「約束…」
クレアにとって初めての約束だ。
約束というものは、あることを決めてそれを実行させられて何事に対しても守らなければならないと聞いたことがある。
だから、青葉さんは、美鈴さんのパーティーの時、何か実行してくれるんだ。
そのことを絶対に守るために約束してくれたんだ。
クレアはそう思うだけで、嫌な思い出から楽しい思い出へと解放された。
すごく楽しみでしょうがない、自分だけの特別な約束。
クレアは二枚目の大切な手紙を机の引き出しの中に閉まった。
今回は美鈴にクレアと青葉が一緒に住んでる家がバレちゃうお話でしたね。いや、もうちょっと家を隠してもよかったかなと思ったのですが、書いてる内に煮詰まってしまってw
だから、もうバレてもいいかなと思い書いてみました。
さて、次回は美鈴のパーティー編かな。たぶんそうなると思います。
お楽しみに、それでは。