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青葉のレター  作者: ほし
10/13

第9話「パーティー」

「おはようございます、春日さん」


今日は前向きに明るくクレアは言ってみた。


「お、おう」


「じゃあ、私、自分の席に戻りますね」


「おい」


「はい?」


「その、きょ、今日のパーティー楽しみだな」


春日さんが照れている。

とても可愛いとクレアは思った。


「はい!」


学校が終わり、夕方。

パーティーの時間がやってきた。

クレアは家で洋服の準備をする。


「青葉さん、でも、私、パーティーに着ていくほど綺麗な服持ってませんよ」


「大丈夫、今日のパーティーのために服を買っておいたから。これを着て」


そう言われて、クレアは綺麗な服を渡され着た。

とても可愛らしい。

いや、でも、クレアは似合わないと思った。

今までの自分と違う感じがする。


「青葉さん、私、これで合ってるんでしょうか? 似合わない気が」


「似合わなくなんかないよ、クレアちゃんにはクレアちゃんの良さがあるんだから。それを服が強調してるの」


「はぁ」


「さあ、行こう」


服もバッチリ整え、身だしなみも大丈夫。

このまま外出するにも、おじ様が心配するので声をかけた。

トントン。


「お父様、これから美鈴さんの家にパーティーへ行ってきます。お留守番お願いしますね」


そうドアの前で青葉さんが言うと、こちらに足音が近づいてきた。

そして、ギィとドアが開いた。


「おお、そうか。北条家へ行くのか、あまり失礼のないようにな」


「はい、分かっております」


軽く青葉さんがおじぎをした。


「じゃあ、行こうか。クレアちゃん」


「はい」


そのままクレアと青葉さんは家を出た。

時刻は五時半。

パーティーの開演は六時だ。

大丈夫、まだ間に合う、と青葉さんが言っていた。

そういえば美鈴さんの家に行くのは初めてだ。

どんな家なのだろう。

やはり青葉さんと同じ家みたいに大きいのか。

そこが気になる。

青葉さんの専属の車で、商店街に出た。

もうお店は終い支度を始めていて、お店の人が外に並んである野菜や商品を閉まっている。

お客さんの姿もあまりなく、歩いているのは仕事終わりの男性や女性だけであった。

どうやらこの辺の商店街は早く店を閉めるらしい。


「クレアちゃん、あまりこっちに来たことないよね」


「はい、初めてですね」


「この辺は、お父様の友達がたくさんいるの」


「そうなんですか」


「私は会ったことないけどね、そうお父様が言ってたの」


「いつか会ってみたいですね」


「そうね。あ、着いたわ」


青葉さんと話している内に美鈴さんの家に着いた。

すごい、の一言しか浮かばなかった。

青葉さんの家もすごいが、美鈴さんの家もすごい。

洋館っぽくて、クレアがいた海外の近所の家みたいだった。


「大きいですね」


「そうね、小さい頃は小さかったのよ」


「ほんとですか」


「ええ、よく美鈴さんと遊んだんだけど、あの時は貧しかったから」


貧しい、その言葉にクレアは考えた。

自分も孤児院にいた時、すごく貧しかった。

食べる物もあまりなく飲物もごくわずか。

その中、クレアは必死に生きてきた。

でも、シスターがいてくれたおかげで、支えてくれたおかげで、ここまでこれた。

そして、今、青葉さんが助けてくれたおかげで、前よりもっと孤独から解放されたのだ。

でも、何だろう、まだ孤独感が残る。

どうしてだろう。

クレアはこの気持ちを思い出してきた。

今は忘れよう。

そうだ、今は美鈴さんの家にお招きされているんだ。

暗い顔をしていてはダメだ。

きっと美鈴さんが悲しんでしまう。

美鈴さんの家の中に入ると、そこは大きい広間があった。

そこには男性の人や女性の人がワイワイと楽しそうに会話している。

クレアは青葉さんの後ろを付きながら歩いた。


「あら、貴女は南小路家の娘さんじゃなくて?」


「はい。この前はお世話になりました。お父様も喜んでましたよ」


「まあ、そうだったの。なら、今度はもっとプレゼントしないとだわ。今度お父様に会った時、話してくださる? 次はもっと高い物をプレゼントするからって」


「でも、そこまでしてもらわなくても。お父様、気持ちだけで嬉しいって仰ってましたから」


「そうはいかないのよ、この前、大切な手紙を公園で失くしてしまって、それからずっと一人で探してたのを貴女のお父様が一緒に探してくださったのよ。あの手紙は亡き夫の大切な手紙だったの。だから、見つかって、お礼をものすごくしたいの。言葉だけじゃ物足りないわ」


「分かりました、貴女がそういうのであれば、お父様に伝えておきますね」


「ええ、お願いしますわ」


青葉さんの会話を聞いていて、クレアは思った。

青葉さんはどこにいても人気者なんだなと。


「ふぅ、クレアちゃん疲れてない? 大丈夫?」


「まだ大丈夫ですよ、だって来たばかりじゃないですか」


「それはそうだけど、クレアちゃんこういうところ初めてでしょ? だから、少しでも休憩しないと終盤まで持たないかなと思って」


「そんなにパーティーって疲れるんですか?」


「もちろん、だって、美鈴さんの家の関係の人や、さっきみたいに私の家の関係の人がきてたくさんお喋りするのよ。しかも立ちっぱなしで、だから、あまり座ることはできないの」


「そうなんですか」


「しかも、終盤にはダンスがあるの」


「ダンス?」


「男女でパートナーを組んでね、ここで踊るの」


ダンス。

それはクレアにとって初めてのことだった。

ダンスとか、孤児院ではしたことない。

どういうものなのだろうか。

すごい気になる。


「え、男女とペアってことは、私も踊るんですか?」


「もちろんよ、と、いっても、クレアちゃんは男の人に対してまだ怖いでしょ?」


「あ、はい」


そうだ、日本に来た時、空港で男の人に嫌な思いをされたんだ。

知らない男性に。

話すのが怖い、目と目を見つめるのが怖い、触れるのが怖い。

まだクレアにとって怖いものはたくさんある。


「大丈夫、私がついてるから」


「青葉さん…」


クレアと青葉さんで二人で話していると、男性がやってきた。


「おや、君は見かけない子だね。もしかして、南小路家の親戚か何かかい?」


「ええと、私は…」


どうしよう、すごく怖い。

茶髪の男性、黒い服を着ているが、空港の男の人によく似ている。


「失礼します、この子、私の妹なんで」


「え」


今、青葉さんは何て言った。

いや、間違いなく妹と言ってくれた。

確かに青葉さんの妹なんだけど、口で言ってくれたのは初めてかもしれない。

この前のお風呂の時、青葉さんは自分のことを姉と呼んでもいいと言ってたが、妹と青葉さんの口から聞くのは初耳だ。


「へぇ、南小路家に妹さんなんていたんだ。初耳だな。もしかして血の繋がってない姉妹とか?」


何だろう、すごい心が痛む。


「それが何か?」


「いや、だって、血の繋がってない姉妹とか、家族じゃないじゃん。ただの他人同士。そうでしょ。あはは、南小路家にこんな隠し事があったなんてね」


「あなたに教えてもただの無意味。得することないじゃないですか」


「そんなこと言っちゃっていいのかな? 俺はあの財閥の息子だよ? 俺は何でも情報が入ったら世間に、財閥関係者に知らせることができる。もし、他人同士の姉妹が一緒の家に住んでるってことになったら、君の学校になんて響くかな」


「別に響いたって、何の影響もありませんよ。もう既に噂は広まってますから」


「えっ。それは早い話だな」


青葉さんが怒ってる。

怒ってる青葉さん初めて見た。

揉め合ってるからか、青葉さんとその男性の周りの人たちは少しずつ離れていく。

そこに一人の声が入った。


「ちょっとそこで何をしていらっしゃるんですの」


「おっと、これは失礼。美鈴様」


「揉め事を起こすような人はこのパーティーにふさわしくないわ。ただちに出ていってちょうだい」


「でも、俺はあの財閥の息子で」


「それが何か? ここは財閥とかそんなの関係ない。ただ知らない人同士が話をして交流を広める場ですわよ。そんなくだらない事で揉め合う優位など、捨ててしまいなさい」


「くっ…覚えてろよ」


そう言うと、男性は会場を去って行った。

残されたクレアと青葉さんは去っていった男性の後ろ姿を見つめる。


「ごめんなさい、あのような人を招いてしまって」


誰かと思うと美鈴さんであった。

とても綺麗な服を着ていて、お嬢様みたいであった。


「大丈夫よ、それより、美鈴、あのお方にいるのが美鈴のお母さま?」


青葉さんが見つめた先には椅子に座ってる少し年配の女性の姿があった。

それを見つめ、美鈴が言う。


「ええ、いつもはパーティーに参加しないのだけれど、今回は参加してくれることになったの」


「そう。ちょっと挨拶してくるわね。美鈴、クレアちゃんのことお願い」


そういい残すと、青葉さんは美鈴さんのお母さんらしい人に近寄っていった。

残されたクレアと美鈴さんは会話を進める。


「今日は来てくれてありがとうございます、クレアさん」


「いえ、さっきはちょっと怖かったですけど、美鈴さんが助けてくれて安心しました。あと、青葉さんにもお礼を言っておかないとですね」


「クレアさんは優しいのね。それで話は変わるんだけど、春日さんは来てないかしら? 彼女、携帯も持ってないから連絡つかないのよ」


「春日さんですか? そういえばまだ見てないですね」


そうだ、春日さんも来るはずだ。

なのに未だ、彼女の姿は見ていない。

どこにいるんだろう。

この広間はものすごく大きいから見つけるには苦労しそうだ。


「どこか迷子になってなければいいんですけど」


「そうですね、私、春日さんと仲良くなりたいのに」


「う~ん、もしかしたら、変な人に絡まれてるのかも。私、ちょっと探してきますわね」


「あ、はい」


美鈴さんは行ってしまった。

どうしよう、一人になってしまった。

とても心細い。

周りは男の人や女の人が会話に夢中だ。

クレアのことは見向きもしないが、また、変な人に絡まれると、と、思うと怖くてたまらない。

相変わらず青葉さんは美鈴さんのお母さんらしい人と会話に夢中だ。

知らない男女の波に呑まれて、クレアは隠れそうになる。

下を向いてうつむいていると、ある声が聞こえてきた。


「おい、離せって」


「なあ、いいだろ? 一緒にお酒くらい飲んでも」


クレアは声のする方へ向かった。

するとそこには春日さんいた。

しかも、クレアと同じように男の人に絡まれてる。


「私は未成年だ。あんたたちと同じにするな。この薄汚いおっさんめ」


「なんてことを言うんだ。このアマが」


「ああ? 今、何て言った?」


「アマって言ったんだよ、この恋愛にしか興味ない浮かれた女め」


「くっ。もういっぺん言ってみろ。お前の大事なところへし折ってやるぞ」


「やれるもんならやってみろ。女は力ないからな。あははは」


そう男性に言われると春日さんは男性の腕を掴み、体ごと投げた。

当然、周りの参加者たちは驚く。


「い、いてぇええええ。何、するんだ、このアマ」


「大人が子供を甘くみるからだ。女だとか子供だとか、恋愛にしか興味ないと思ったら大間違いだ。もっと世間のことを勉強するんだな」


「くっ、覚えてろよー」


男性は逃げていった。

クレアは春日さんの意外な一面を見た。

綺麗な服のほこりをパッパッと払い、春日さんは周囲を気にする。

それもそうだ、今まで喧嘩して、しかも放り投げたんだから。

みんなひそひそと話しながら、春日さんから距離を取っていた。


「あ、あの…」


「あ」


クレアは声をかけた。


「なんだ、見てたのか」


「すみませんでした、なんか、見てはいけなかったですよね」


「いや、こんな騒ぎじゃいずれかは見られることになってたし、気にするな」


「はい…」


「そう落ち込むなって、落ち込んで話がうまくできないのがお前の悪い癖だぞ」


「じゃあ、春日さんともこれから話していいですか?」


「それは、私の気分次第だ」


「そうですか。でも、学校ではたくさん話したいです」


「それも気分次第だな。その時の状況による」


「そんな。でも、私、頑張りますから」


「何を頑張るか分からないけど、まあ、その時はその時だな」


そうやってクレアと春日さんとで会話してると、みんなが騒ぎ出した。

何かと思い、二人とも、みんなが見ている方向に視線をおくる。

するとそこには美鈴さんがいた。


「お待たせしました。これから、ダンスを始めたいと思います。皆さん近くのペアと組みダンスを始めてください」


青葉さんが言っていたダンスはこれか。

クレアは周囲を見渡す。

するともう既にペアを組んでる男女がいた。

どうしようかあたふたしていると、そこに、青葉さんがやってきた。


「クレアちゃん、やっと見つけた」


「青葉さん」


「さぁ、私と踊ろう」


「え、でも」


隣には春日さんがいる。

春日さんがこのままでは一人になってしまう。

そんなことも気にせず、青葉さんはクレアの手を取りステップを踏み始めた。

クレアは青葉さんの思いのまま踊らされる。


「青葉さ…ん…」


そして、次にさっきまで遠くにいた美鈴さんもやってきた。

クレアと青葉さんの踊りを見て、美鈴さんは苦い顔をしていた。

もちろん、春日さんも暗い表情をしていた。


「クレアちゃん、もっと落ち着いて。体を楽にして」


「は、はい」


このままでいいのだろうか。

青葉さんのいうとおりに踊るが、二人の表情は冷めていた。

このままでは悪い気がする。


「あ、あの…!」


クレアはダンスをやめる。


「どうしたの、クレアちゃん」


「私、今日は疲れちゃいました」


「そうね、もう帰りましょうか」


「はい」


近くにいた美鈴さんに青葉さんは言った。


「美鈴さん、クレアちゃん疲れちゃったみたいだから、私たちはこのへんで帰るわね」


「あ、え、ええ。お気を付けて」


「さようなら、また明日学校で」


青葉さんは美鈴さんにそう伝えると、その場を去った。

クレアも一緒にその場を去り、何とか無事、パーティーを終えた。

だが、何でだろう、帰り際に、春日さんと美鈴さんの表情が暗かったのは。

そこにクレアは引っかかった。

夕方と同じように青葉さんの専属の車で、二人は無事家に帰ってきた。

食事は軽くだが、美鈴さんの家のパーティーの時ご馳走になったから食べなくても平気だろう。

だが、お風呂は入らなくてはならない。

今夜は一人ずつお風呂に入った。

そして、クレアは自分の部屋に入り、机に向かった。


「はぁ、今日は疲れた。でも、美鈴さんのパーティー楽しかったな。また行ってみたい」


「でも、男の人との付き合いは苦手だな。怖いし」


「それより春日さん、喧嘩強かったな。私も何か悪いこと言って殴られないように気を付けないと」


「それより、どうして帰り際、春日さんと美鈴さん表情が暗かったのだろう。そこが気になる」


「まあ、明日、二人の様子を伺ってみよう」


サッ。

一通の手紙がドアの隙間からやってきた。

それはもちろん青葉さんからだ。


「青葉さんだ」


今度は白色の手紙と便箋であった。

素早く開けてみる。


『クレアちゃんへ 今日の初めてのパーティーどうだった? 私は楽しかったよ。最初は男の人で戸惑ったよね、あの時、私、強い口調で追い返したけど、本当は心の中で怖かったんだ。暴れるんじゃないかって。クレアちゃん怖い思い何度もしてきたんだよね、私、あまり怖い思いしたことないから気持ち分からなかったけど、あの時で気持ちすごい分かったよ。クレアちゃん大変なのに今まで気が付かなくてごめんね。私もクレアちゃんを守れるように強くならないと。あ、そうだ、今日は美鈴さんのお母様と話をしたの。すごい楽しかったよ。美鈴さんの小さい頃の話や、お勧めの料理の話、私のお父様と美鈴さんのお父様の話とか。色んな話を聞けてすごい楽しかった。あと、クレアちゃんの話もしたんだ。どんな話をしたかは秘密ね。あと、クレアちゃんにとっては初めてだったけど、ダンスはどうだった? なんかいきなりグイグイ引っ張っちゃってごめんね、クレアちゃんに怖い思いをさせないように集中させてたんだ。これからはゆっくり練習していこうか。昨日の手紙の素敵な思い出、今夜のダンスのことだったんだけど、思い出になれたかな? あ、もう寝る時間だね、それじゃまた、おやすみなさい』


「青葉さん、気をつかってくれてたんだ、ありがとう」


「でも、一番はしゃいでるの、私より青葉さんみたい」


「青葉さんにも意外な一面があるんだな」


「そういえば今日は春日さんと少しだけ会話できたけど、明日、学校で話せるといいな。気分次第か…私も落ち込まないで話を上手く続かせるようにしないと。明日が本当の勝負だ」


「青葉さん、おやすみなさい」


クレアは大切な三枚目の手紙を机の引き出しにしまった。

そして、翌日、クレアにとって最悪な出来事が続いてしまうのであった。









今回はパーティー編でしたね。

クレアの男嫌いはこのまま生かしていこうかなと思ってます。

そして、春日の力喧嘩に強いことも生かしていきます、春日はヤンキーっぽい女の子なのでw

もうちょっとクレアと青葉のダンスシーン書いてもいいかなと思ったのですが、ちょっと難しかったです。

でも、次回は、ギスギスしたお話になるかと思います。

クレアはどうなるのか、どういう行動をとるのか楽しみですね。

それでは。

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