キス
「・・・んーそっか」
とあっさり引き下がる先生に少し残念がる自分がいる事に、私は驚いた。
前から思ってたけど先生ってかなりモテる。
生徒以外に、先生からも。
だからなのかな、面倒だけどちょっと嬉しかった。
でも、勉強なんて放課後までしたくない。
普通の成績で普通に卒業できればいいし。
それより、
先生が度無しの眼鏡をかける理由がなんとなく気になって「なんで伊達眼鏡かけてるんですか?」と私は聞いた。
すると佐々木は「・・んー、だってほら」と眼鏡を下にずらし、上目使いで少しずつ晴夏に詰め寄った。
「え? 先生?」
佐々木はキスしてしまうぐらい近い距離でようやく止まり、暫く晴夏をみつめると「眼鏡ないと俺モテすぎちゃうから、だから伊達メガネしてんの」と耳元でそっと囁いた。
「う、うわぁぁぁあ!」
き、キスされるかと思った!
叫び声をあげ、飛び退いて、きっと耳まで真っ赤に違いない。
そう思ったら更に自分の顔が熱くなるのが分かる。
「なに?キスでもされると思った?」
「お、思ってない!!」
目の前の先生は余裕の笑みを浮かべて楽しそうだ。
心を読まれたようでなんだか悔しい。
晴夏はギロリと佐々木を睨んだが、全く動じない為、更に悔しさが増した。
この余裕の表情を崩したい。
こっそり私に悪魔が囁いた。
「うそ、ほんとは思った」
晴夏は佐々木から眼鏡を取り上げ机の上に置くと、膝の上に座り、頬に手をあて、唇を佐々木の唇に触れるぎりぎりまでもっていき彼を暫く見つめた。
晴夏が彼の表情をちらりと見てみると少し驚いたような困惑しているような、なんとも言えない表情だった。
うん、満足。
この顔が見たかった。
「なーんてね、仕返しだよせんせ」
そう言って晴夏が離れようとしたその時、佐々木は晴夏を机の上に押し倒し、両手は頭上に、彼の手で拘束される形となった。
「え? 先生?」
佐々木は無言のまま晴夏に口づけをした。
「んぅ、や、やめっ」
初めてのキスに、どんどん深くなっていくキスに、息もできない。
ただただ頭がぼーっとする。
どれだけそうしていたか。
彼が離れると私はもう立っていられずにその場で床にへたりこんだ。
「・・仕返しだよ」
そう言ってフッと微笑む先生はやっぱりかっこよくて、眼鏡をしないとモテすぎるっていうのはムカつくけど、あながち嘘じゃないのかもしれないと思った。