梅雨
梅雨の季節は雨ばかり。
私の一番嫌いな季節。
あの、泣いた帰り道を思い出すから。
見ないようにしてる現実を突きつけられるようで。
「タバコ似合わないよ?」とふいにベッドから起き上がった彼は私を後ろから抱き締めた。
肌と肌が重なるこの感じがたまらなく好きだ。
これがあの人なら。
目を閉じてあの人の感触を思い出す。
それだけで身体が火照るのがわかる。
「嫌ならやめる?」
この関係。
「い、嫌とかじゃないよ! 」
慌てふためく彼の唇を深いキスで私は塞ぐ。
決まって彼はタバコの臭いにむせ、苦い顔をするけれど「もう一回」と私が耳元で囁くと獣のようなキラキラとした目に変わる。
けれど、この人と、いくらしても満たされない。
何人と、誰と肌を重ねても、あの人の代わりでしかない。
「小田さん」
声をかけられた私は、またか、と思った。
振り向いた私に「付き合って下さい」と目の前の名前も知らない彼は手紙を渡していう。
高校1年の時から気になっていた、と
目を潤ませ頬を赤らめて。
制服の袖からでるセーターを握りしめる彼は、まるで女子生徒のようだ。
「ありがとう」
「えっ?!じゃぁ・・・!」
「・・・でもごめんなさい」
いつものようにお断りする。
走り去る彼を見送ってから、私は近くにあるゴミ箱へ紙を破り捨てた。
いじわるでじゃない。
以前、手紙をそのまま捨てて、噂が広まり、茶化され、その男子生徒が泣いたから、『次からは読めないくらいビリビリにしなきゃ』とそう思った。
私のせめてもの優しさ。
ガサっ
草むらが揺れる音に人の気配を感じた晴夏はそちらをじっと見つめる。
「いやぁ、まいったなぁ!」
そう言って頭を掻きながら出てきたのは数学の佐々木先生だった。
「覗き見しようとしたわけじゃなくて、たまたま通ったら出くわしちゃったもんだから、出るに出られなくて」と佐々木はばつが悪そうに言った。