イチャラブ百合暴走物
派手な音がして、私は倒れた。
「大丈夫、よし子ちゃん!?」
「平気平気、ちょっとかすっただけみたい」
あんずが心配してくるので、私は大げさに大丈夫!と表現した。
「本当に大丈夫?病院に行った方がいいよ」
「行くとしても放課後でいいよ、早く高校に行こう?」
思えば植木鉢が当たった時から私はおかしかったのかもしれない。
普通なら大事を取って病院で検査をするべきなのに、あんずと一緒の時間が減るのが嫌で学校に行くことを選んだのだから。
「でさー、うちの犬がかわいくてねー」
「千枝ちゃん家のわんちゃんって、本当にかわいいよね。私も土佐犬が飼いたくなっちゃったもん」
休み時間、私は頭がガンガンして気分が悪かった。
吐き気がする。どうしてだろう?あんずが千枝と話しているからだろうか?
「よし子ちゃん、顔色悪いみたいだけど本当に大丈夫?」
そんな私の様子を見てか、あんずが私に話しかけてきた。ああ、あんずは優しいなあ……
「……」
「病院、やっぱり行った方がいいよ。今日のよし子ちゃん、ちょっと変だよ?」
あんずの提案に対し、私がおこなったのはあんずの手を取り、教室から抜け出すことだった。
「え、え、なに?一緒に来てほしいの?」
あんずは私の行動に目を白黒させている。ごめんあんず、私は別に病院に行く気はないんだ。
私は屋上の踊り場へあんずを連れて行くと、振り向きざまに彼女を殴った。
「……えっ?」
突然のことにあんずは状況が理解できないようだった。
私は二発目の拳をおみまいした。
「いっ……いた、痛いよっ!よし子ちゃん、やめて!」
あんずが何か言っているみたいだが気にせず続けて拳を打ち付ける。
連打連打連打連打
私の軽い拳でも、何発も打ち込めばダメージは溜まる。それに今の私はリミッターが外れてるのか、いつもより力が増しているようだった。殴っている手がちっとも痛くない。
ふいに拳が空ぶった。あんずがひざをついたからだ。
「お、お願い……よし子ちゃん、やめて……怖いよ……」
あんずが怯えた目で私を見てくる。でも止まらない。止められない。だって私、あなたを壊したくてしょうがないから。
ああ、泣き顔かわいい、愛しい、依存させたい。
私はあんずを押し倒し、馬乗りになった。そしてそのままあんずの唇を奪う。私の初めてのキスは、鉄の味がした。
「ん、んん……」
「んちゅ、ちゅ……はむ……ぷはっ」
つい夢中になってキスをしてしまったせいか、呼吸を忘れてしまう。いけない、このままでは酸欠で先に私がぶっ倒れる。
「よし子ちゃん、やめて……」
私が息を整えるのを見て、あんずが起き上がってくる。ダメよあんず、あなたは寝ていなくちゃ。
「本当に、今日のよし子ちゃんちょっとおかしいよ、病院に行こ……きゃっ!」
あんずの頭を床に打ち付けた。
うるさい。いいから、私と続きをしよう。時間は有限なんだよ?
それでも私の下から抜け出したいのか、起き上がってくるあんず。もう、しょうがないなあ……私は彼女にキスをしつつ上半身に体重をかけた。
ゴツン。派手な音を立ててあんずの頭が再度床にぶつかった。
あんずが起き上がろうとして、私がキスをするから、あんずが頭をぶつけてしまう。
ガン、ガン、ガン、私がキスをするたび、あんずが頭をぶつける、たんこぶが増える。
私は楽しくなって、あんずという楽器を鳴らした。
ガン、ゴン、ガン、ゴン、ゴガン、ガン……
何度目か分からない口づけのあと、ついにあんずが泣き出した。
「うわああぁぁん、痛いよお!嫌だよお!痛いのやだ!よし子ちゃんなんて、だいっきらいっ!」
このように取り乱したあんずを、久しぶりに見た。
昔のあんずは小さなことでよく泣き出す子だった。それで仕方がないから、私が守ってやらなくちゃって、思って、それであんずは私の後ろについてきたのだ。
何をするにも、私と一緒。他の子があんずに話しかけても私の後ろに隠れるので、私はしょうがないなあと思いながら、手のかかる妹を世話していたのだ。
それが、いつからこうなってしまったのだろう?私の後ろを歩いていたあんずが、いつしか私の隣に立って、私の一歩前を行くようになったのは、いつだろう?
私の付属品だったのに、いつのまにかあんずの付属品が私になっていたのは、いつからなのだろう?
両手で顔を覆い、わんわんと泣くあんず、本当にかわいい。その泣き顔も、声も、白い首筋も、みんな好き。
私はあんずの首に手をかけた。
「あっ……くぅ……あぁぁ……」
きゅうっと絞めるとあんずの顔が赤くなる、必死にもがいて私の体に爪を立てる。痛い、嬉しい。
苦痛に喘ぐ声を聞いているとおしりに熱いものを感じた。どうやら尿をもらしたらしい。
ああ、このままじゃいけないと手を離す。げほ、げほっと頑張って命を繋ごうと呼吸をする、かわいいあんず。涙や鼻水、よだれまで垂らして、本当にかわいい。思わず顔を舐めてしまった。
「あは……あんずの味だあ」
かわいいかわいいあんず飴、私だけのあんず飴。誰にも渡さない、私のかわいい宝物。
あれも、これも、全部私の物。がぶりと噛んで私の物だとマーキングする。
「痛い、痛いよお……痛いのいやあ……」
あんずが何を言ってもやめるつもりはない。だってあんずが悪いんだよ?私以外を見るんだから、私だけ見ていればいいのに、どうして。
「ねえ、どうして、私の気持ちに応えてくれないの!」
「よし子ちゃん、やめて……」
気付けば私は自分の心情を吐露していた。
「あんず、これが私よ!これが私なのよ!受け入れて、認めてよ!汚い私を!あなたを壊して、殺したい私を!あなたが好きなの!だから憎いの!この気持ちが抑えきれないの!だからお願い!好き!」
「いやあ!だいっきらいっ!元にもどってよお!」
元に戻って?違うわ、これは私の本当の気持ち。きっかけは頭を打ったことだけど、私はいつも、あなたをこうしたいと思っていた。
「好き!」
「嫌い!」
「こっちを見て!」
「いやあっ!」
「殺したいの!」
「死にたくないよお!」
「受け入れてよっ!」
「分からないよおっ!よし子ちゃんの気持ち、私には分からないっ!怖い、こわいよお……」
「なんでよっ!私、何度も言ったよ!好きだって!なのに、なんで理解してくれないの!」
「好きなら、私を傷つけたりしないよ!」
「する!するよ!したくなるのっ!好きな子を壊して自分色に染め上げたい、この独占欲!分かってくれないの!」
「おかしい、よし子ちゃんおかしいよお……」
駆け引きなど一切ない、素の感情と感情のぶつかり合い。
このままいくと砕けて散って混ざり合ってひとつになるんじゃないかと思ってしまう、そうなれたらどれだけ幸せだろう。でも、そんなことはなくて、
「あんずの馬鹿!分からず屋!」
「そうやってすぐ殴るよし子ちゃんなんて嫌い!わああぁぁん」
最後は幼稚な口喧嘩になって、私たちは普段抱えていた思いの丈を吐き出した。
お互いグチャグチャに泣き崩れた後、私たち二人は手をつないで病院に行きました。私は今、とっても幸せです。
百合作品としては処女作です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。